チート魔法の魔導書

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4章:ヒシュマー城の攻防

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 出征の朝に合わせて、ダクライア公国はエクレナダ帝国に対し、正式に宣戦を布告する。

 ベルニア王国に向けられる戦力はラスタ達二等騎士の学生が百人、それに加えてダクライア軍の兵卒が二百人だった。

 兵卒とは、軍人のうち魔力を持たずに武器だけで戦う者のこと。つまり個人の戦力としては二等騎士にさえ劣る。

《所有者》達の専属魔法が戦局を塗り替える昨今の戦いにおいて、もはや兵卒は戦場を賑わせるだけの存在だった。

「あれが俺達の墓場か・・・・・・」

 ダクライア公国から出撃して三日、街道を下るラスタ達の前に正方形の岩が見えてきた。

 なだらかな丘の上に立つその岩はヒシュマー城。

 ベルニア北部の野盗を取り締まる兵士達の拠点として建築された。

 あくまで防衛ではなく、監視のための砦だった。

「城壁もそんなに高くないし、その外側の防備はほとんどなし。これだけで帝国軍をどうやって防ぐつもりだ?」

 二等騎士達は嘆息が止まらない。

 ベルニア王国が始めた戦争なのだから、曲がりなりにもそれなりの戦力を整えているものと予想していたのだ。

 城壁の上で動く人影がダクライアからの援軍を認めると、蒲鉾型の城門がゆっくりと開いた。

 奥にはヒシュマー城の守備隊を管轄すると思われる幹部達が勢揃いしている。

「遠路はるばる、ご苦労様です」

 中心に立つ長い茶髪の女性が恭しく膝まずく。

 全身を鎧に身を包み、ラスタ達とあまり年が離れていないにもかかわらず、その振る舞いには知性と礼儀が見て取れた。

「私は、この度の戦いで後方第二大隊の指揮を任されたアデリル=クラマハートです」

「クラマハート!?」

「あの《猛火の戦姫》が?」

 魔導書の《所有者》が戦場で頭角を現し、高い地位を得ている実情はダクライアに限った話ではなかった。

 ダクライア公国よりも多くの魔導書を所有するベルニアの中で、特に屈指の所有者と呼ばれるのがこのアデリル=クラマハートの一族だ。

「戦場の敵をたちまち焼き尽くすとかいう・・・・・・」

「お前ら、静かにしろ! 無礼だぞ!」

 名の知れたアデリルを前にそぞろとする二等騎士達を、兵卒の指揮官が叱咤した。

 ちなみにその指揮官は、二等騎士を含むダクライア支援軍の総指揮官でもある。

「いえ、若い彼らの力を貸して頂いて、感謝の言葉が尽きません」

 アデリルは眉一つ動かすことはなかった。

「そうですか。それで、戦況の方は?」

「現在、この城より渓谷を隔てた北部の平原にて、エクレナダ帝国軍とベルニアの主力軍が対峙しています。帝国軍は総戦力一万、それに対しベルニア主力軍は二千」

「二、二千ですか?」

 ダクライアの総指揮官は驚き、呆れた。

「何分事態が事態ゆえ、十分な戦力を集められませんでした」

「それで戦争吹っ掛けるって、どんだけ無謀なんだよ?」

「戦争を吹っ掛ける?」

 初めてアデリルの表情が変わった。

 隣国ダクライアにも武名の知れる彼女だけに、口調や表情のわずかな変化がその場の全員に緊張感を与えた。

「お言葉ですが、この度の戦いは我が国が仕掛けたものではありません。全ては帝国側の策略によるものです。我が主君は、決して他国を騙し討ちになどしない!」

 声高に主君の潔白を主張するアデリルの目は、一切の疑念を感じさせないほどに真っ直ぐだった。

 それ以上彼女に異議を唱える者がいれば、くびれのある腰に佩いた剣が鞘から走り出してもおかしくなかった。

 アデリルの人柄を疑うわけではないが、所詮は加害者の言い分である。

 そして何より、この騒動の発端となったハンス=リクトルの死にはベルニアの専属魔法が関与していることも伝わっていた。

 それでもこの小さな城の中で同士討ちを行いたいほど、愚かな者はいなかった。

「わ、わが軍は貴国を慮る陛下の御意思の下に派遣されました。この危機を打開するため、共に戦う所存です」

「ありがとうございます。このご恩は、決して忘れません」

 アデリルが殺気を解く。胸を撫で下ろしたダクライア軍は彼女の麾下でベルニア本土の防衛任務を命じられた。
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