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3章:運命の奔流
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その夜、ラスタは中庭を歩いていた。
「誰かいるのか?」
夜風に擦れる木々の音とは別に、誰かのすすり泣く声がかすかに聞こえてくる。
丁度、中道に沿う木の影からだ。
「リュシア?」
その木の根元で、リュシアは顔を赤くしてうずくまっていた。覗き込むラスタの顔を見るなり、仏頂面を繕う。
「何か用?」
「別に」
「言っとくけど私、別に何でもないから」
訊かずとも、お互いの心境はよくわかった。
別に何をしなければならないわけではないけど、何かをしなければ落ち着かないのだ。
人間は何もせずに死を待つことが、一番苦手らしい。
「ジロジロ見るなよ!」
「わかった。その拳は引っ込めろ」
両手を上げて交戦の意志はないと訴えるラスタは、一歩ずつ後ろに下がる。
そうしているうちに、リュシアは急に顔色を変えて手で口を押えた。
「リュシア!?」
激しくむせ込むリュシアはラスタの手を振り払うが、もはや彼女の心情を隠すことは出来なかった。
「落ち着いたか?」
背中をさするラスタに向かって、リュシアは静かに頷いた。
「クラスの皆には、言わないでよ」
「わかっているよ」
「どうしてだろう? この手の震え、止まらない。あんなに手柄を立てるつもりだったのに・・・・・・」
「一時の気持ちの昂ぶりだ。いずれ、不安や緊張が勝ってくる」
「・・・・・・私、不甲斐ない」
「無理もないさ。いきなり戦争になって、一等騎士は前線に出ないで、滅茶苦茶だ」
「他人事だからそういう風に言えるんだよ。私の頭、今はもう何も考えられない。ただ、一日が過ぎるのが怖いんだから」
「他人事かぁ」
ラスタは星空を見上げた。
「違うんだよね」
「はあ? 何言っているの? アンタは名簿に名前が載っていなかったじゃない」
「そう、載っていなかった。だから俺、自分から志願することにした」
「えっ・・・・・・」
リュシアが驚いて振り返る。
「えぇ!!」
一瞬息を呑んだ彼女は改めて大声を上げた。
「アンタってバカなの? 自分から生き残るチャンスを捨てる奴がどこに居るのよ? 本当に殴ったろうか! お前!」
「おい、落ち着けよ」
掴みかかるリュシアをラスタは何とかして引き離した。
「俺は、この戦いに加わらなければならないんだ。今度の出征には一等騎士が参加していない。つまり、俺達が戦果を挙げれば専属魔法なんか無くても立派に戦えるって証明になるんだよ。逆にここで逃げるってことは、敗北を認めたってことだ。それはつまり、専属魔法がなければ戦争にならないことを証明することになる。だから俺は逃げない。そして、この戦いを生き残って見せる」
ラスタの意思をどう受け止めたのか、リュシアは立ち上がる。
「・・・・・・勝手にすればいいわ。でもね、ここで見たことは誰にも言わないでよ。それだけは約束して」
半ば脅迫に近い頼みだった。もとよりラスタにはリュシアを辱める理由はない。
「わかったから」
出征の朝までにグラーデン騎士養成学校からの逃亡を企てた者は全体の十分の一に当たる五十人ほど。
その中にリュシアが加わることはなかった。
「誰かいるのか?」
夜風に擦れる木々の音とは別に、誰かのすすり泣く声がかすかに聞こえてくる。
丁度、中道に沿う木の影からだ。
「リュシア?」
その木の根元で、リュシアは顔を赤くしてうずくまっていた。覗き込むラスタの顔を見るなり、仏頂面を繕う。
「何か用?」
「別に」
「言っとくけど私、別に何でもないから」
訊かずとも、お互いの心境はよくわかった。
別に何をしなければならないわけではないけど、何かをしなければ落ち着かないのだ。
人間は何もせずに死を待つことが、一番苦手らしい。
「ジロジロ見るなよ!」
「わかった。その拳は引っ込めろ」
両手を上げて交戦の意志はないと訴えるラスタは、一歩ずつ後ろに下がる。
そうしているうちに、リュシアは急に顔色を変えて手で口を押えた。
「リュシア!?」
激しくむせ込むリュシアはラスタの手を振り払うが、もはや彼女の心情を隠すことは出来なかった。
「落ち着いたか?」
背中をさするラスタに向かって、リュシアは静かに頷いた。
「クラスの皆には、言わないでよ」
「わかっているよ」
「どうしてだろう? この手の震え、止まらない。あんなに手柄を立てるつもりだったのに・・・・・・」
「一時の気持ちの昂ぶりだ。いずれ、不安や緊張が勝ってくる」
「・・・・・・私、不甲斐ない」
「無理もないさ。いきなり戦争になって、一等騎士は前線に出ないで、滅茶苦茶だ」
「他人事だからそういう風に言えるんだよ。私の頭、今はもう何も考えられない。ただ、一日が過ぎるのが怖いんだから」
「他人事かぁ」
ラスタは星空を見上げた。
「違うんだよね」
「はあ? 何言っているの? アンタは名簿に名前が載っていなかったじゃない」
「そう、載っていなかった。だから俺、自分から志願することにした」
「えっ・・・・・・」
リュシアが驚いて振り返る。
「えぇ!!」
一瞬息を呑んだ彼女は改めて大声を上げた。
「アンタってバカなの? 自分から生き残るチャンスを捨てる奴がどこに居るのよ? 本当に殴ったろうか! お前!」
「おい、落ち着けよ」
掴みかかるリュシアをラスタは何とかして引き離した。
「俺は、この戦いに加わらなければならないんだ。今度の出征には一等騎士が参加していない。つまり、俺達が戦果を挙げれば専属魔法なんか無くても立派に戦えるって証明になるんだよ。逆にここで逃げるってことは、敗北を認めたってことだ。それはつまり、専属魔法がなければ戦争にならないことを証明することになる。だから俺は逃げない。そして、この戦いを生き残って見せる」
ラスタの意思をどう受け止めたのか、リュシアは立ち上がる。
「・・・・・・勝手にすればいいわ。でもね、ここで見たことは誰にも言わないでよ。それだけは約束して」
半ば脅迫に近い頼みだった。もとよりラスタにはリュシアを辱める理由はない。
「わかったから」
出征の朝までにグラーデン騎士養成学校からの逃亡を企てた者は全体の十分の一に当たる五十人ほど。
その中にリュシアが加わることはなかった。
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