チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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3章:運命の奔流

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「待ちなさい!」

 一触即発の状況の中、玄関ホール内を一人の少女の声が震撼させた。

 一等騎士組の中心的存在であるイリスだった。

「君は・・・・・・」

 一等騎士の中の秀才であるイリスは、対峙する両陣営の間を悠々と歩く。

 そして踵を返した彼女は二等騎士科の学生を背に回し、教員に向かい合った。

 この態度は全員の予想を裏切るものだった。

「騎士科一等騎士三階生のイリス=フェランデです。この度の学校側の対応について質問させて頂いてもよいでしょうか?」

 こんな状況においても、イリスは礼節を忘れなかった。

しかし、その声に失望と疑念が現れているのは明らかだった。

「何だ? 君は、陛下の勅命に異議があるのか?」

「ダクライア公国の窮状はお察しします。ですがなぜ、ベルニアに派兵されるのが二等騎士の学生ばかりなのでしょうか? 彼らの戦力を過小評価するつもりはありませんが、親密な同盟国を防衛する任務で一等騎士を動員しないのはいかがなものかと」

「先ほども申した通り、ダクライア公国はベルニア王国と一蓮托生の覚悟で開戦に踏み切ったのだ。いずれ帝国軍は、ダクライア本国への攻撃を開始するだろう。そうなれば本土の防衛もなおざりにすることは出来ない。我が国とて、突然の戦時に苦肉の策を考案したのだ」

「そうでしょうか。帝国軍の主力部隊は既にベルニア王国に向けて進軍していると伺っております。ここはダクライアも主力軍をベルニアに派兵することで我が国の立場を明確にすることが得策と思います」

「学生風情が参謀の作戦に口を出すな!」

「では、なまじ不十分な兵力を送って帝国の神経を逆撫でする方が得策だと仰るのですか? それとも・・・・・・」

「イリス=フェランデ。僭越にも程があるぞ。貴殿の振る舞いがお父上の耳に届けばどうなると思っている?」

「く・・・・・・」

 教官の卑劣な指摘にイリスは歯噛みした。

「命令は絶対だ。各自、三日以内に準備を整えておくように」

 教官達はなおも抗議する学生達に全く取り合わずにその場を逃げ去った。

 揚げ足を取られたイリスは戻ろうとした途中、ラスタと視線を合わせる。

 級別対抗試合の時と違って、この時ばかりはラスタに憐憫の視線を向けてくれた。

「申し訳ありません」

「イリスさんは悪くない」

「ところで、あなたは」

「なかった」

 ラスタは少し声を低くして言った。

 出征に駆り出される学生達の前で、自分が徴兵を免れたことを声高に言えるはずはなかった。

 イリスもそれを感じ取ったらしい。

「そうですか」

「ああ」

「それでは、また」

 イリスが立ち去った背後には偶然、リュシアの背中があった。

 二等騎士とはいえ、全員が名簿に記載されているわけではない。

 名簿に記載があるのは百数十人の名前。

 二等騎士が総勢五百人とすると、出撃の下知を下されたのは五人に一人の割合である。

「リュシア?」

 ラスタの声が聞こえなかったのか、リュシアは振り向かなかった。

 仕方がないので肩を叩こうとしたが、ラスタの手は寸前の所で止まった。

 彼女の肩越しにリュシアの名前を名簿に見出したためだった。

 戦場で手柄を立てようと気勢を上げるリュシアにとって、僥倖以外の何物でもないはずだった。

 ところがこの時のリュシアの横顔は、とても満足しているとは言い難いほどに恐怖で引きつっていたのだった。
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