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3章:運命の奔流
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三日後、運命の日は早過ぎも遅すぎもせずにやって来た。
大勢の学生が見守る中で、厳かな表情の教官達が掲示板に近づいた。
彼らの手で上質な羊皮紙が学校の玄関ホールに張り出された。
普段は成績の席次や懲罰者が貼りだされる掲示板だが、緊急時の学校からの連絡が公表されることもままあった。
この日、貼り出されるのはダクライア公国の命運を決する勅命の条文である。
羊皮紙の上の文字を、学生達は期末試験以上に真剣な眼差しで追った。
「何て書いてある?」
後ろの学生達は前の朋輩達をせっついた。
「ダクライアは・・・・・・ベルニアに派兵するってさ」
絶望と恐怖が掲示板の前から後ろへ伝播する。中には膝を折る者、嗚咽を漏らす者もあった。
「静かにしろ!」
掲示板から立ち去ったはずの教官が数人、新たな羊皮紙を抱えて戻って来るのが見えた。
「次は何だ?」
二人掛かりで羊皮紙を貼り出しながら、一人が大声で学生達に呼び掛ける。
「ダクライアが開戦に踏み切ったのは周知の事実である。そこで、わが校からも優秀な学生を兵員として動員することになった。ここにその名簿を記す」
「俺達が戦場に?」
学生達は悲鳴を上げた。教官の制止を無視して誰もが食い入るように羊皮紙の名簿を目で追った。
学校はもはや、修羅場と化していた。
掲示板に自分の名前があったとか、なかったとか、学生達は狂喜した声を上げた。
ラスタもまた、名簿の中から自分の名前を必死に探そうとする。
「俺は・・・・・・書いてないな」
嬉しかった。大声では騒げないけれど、ラスタは今回の出征を免れたことで得した気分になった。
隣で絶望した表情の学生に対しては誠に不謹慎だったが。
「おい・・・・・・何だよ、これ・・・・・・」
ラスタの隣の学生は名簿を前にくずおれる。二等騎士の学生だった。
「嘘だろ。どうして、一等騎士の名前は誰もないんだよ?」
「え?」
その言葉に、ラスタは改めて名簿に目を通した。
グラーデン騎士養成学校には三十人程度の一等騎士が在籍している。
主戦力となる彼らは優先的に徴兵されるはずであり、一人も呼ばれないというのはもってのほかだった。
「確かに」
ラスタも他の二等騎士の学生も、その事実に気付き始める。
「ふざけるな!」
「こんなの不公平よ!」
あちこちで怒声が沸き上がる。掲示板を貼り出した教員達は詰め寄る学生達に囲まれた。
二等騎士は専属魔法を持たないという理由で、どんな差別も甘受せざるを得なかった。
しかしながら、こればかりは到底受け入れられるはずがない。
本来ならば戦力として頼られるべきは一等騎士の方だった。
「一等騎士の諸君には本土防衛の任を与える。よって、ベルニアへの支援は二等騎士部隊が配置されることになった」
教官はもっともらしい言い訳を付けるが、高家の出自である彼らを最前線に送りたくないという魂胆は、あからさまに透けていた。
「静まれ! 学校の決定に逆らった者は懲罰を与えるぞ」
我慢に耐えかねた学生達が遂に声を上げる。
武器こそ携行していなかったが、汎用魔法は使うことができる。
流血事件に発展してもおかしくはなかった。
教官側もそれを見越してのことか、玄関付近には既に警備の兵士達がにらみを利かせていた。
大勢の学生が見守る中で、厳かな表情の教官達が掲示板に近づいた。
彼らの手で上質な羊皮紙が学校の玄関ホールに張り出された。
普段は成績の席次や懲罰者が貼りだされる掲示板だが、緊急時の学校からの連絡が公表されることもままあった。
この日、貼り出されるのはダクライア公国の命運を決する勅命の条文である。
羊皮紙の上の文字を、学生達は期末試験以上に真剣な眼差しで追った。
「何て書いてある?」
後ろの学生達は前の朋輩達をせっついた。
「ダクライアは・・・・・・ベルニアに派兵するってさ」
絶望と恐怖が掲示板の前から後ろへ伝播する。中には膝を折る者、嗚咽を漏らす者もあった。
「静かにしろ!」
掲示板から立ち去ったはずの教官が数人、新たな羊皮紙を抱えて戻って来るのが見えた。
「次は何だ?」
二人掛かりで羊皮紙を貼り出しながら、一人が大声で学生達に呼び掛ける。
「ダクライアが開戦に踏み切ったのは周知の事実である。そこで、わが校からも優秀な学生を兵員として動員することになった。ここにその名簿を記す」
「俺達が戦場に?」
学生達は悲鳴を上げた。教官の制止を無視して誰もが食い入るように羊皮紙の名簿を目で追った。
学校はもはや、修羅場と化していた。
掲示板に自分の名前があったとか、なかったとか、学生達は狂喜した声を上げた。
ラスタもまた、名簿の中から自分の名前を必死に探そうとする。
「俺は・・・・・・書いてないな」
嬉しかった。大声では騒げないけれど、ラスタは今回の出征を免れたことで得した気分になった。
隣で絶望した表情の学生に対しては誠に不謹慎だったが。
「おい・・・・・・何だよ、これ・・・・・・」
ラスタの隣の学生は名簿を前にくずおれる。二等騎士の学生だった。
「嘘だろ。どうして、一等騎士の名前は誰もないんだよ?」
「え?」
その言葉に、ラスタは改めて名簿に目を通した。
グラーデン騎士養成学校には三十人程度の一等騎士が在籍している。
主戦力となる彼らは優先的に徴兵されるはずであり、一人も呼ばれないというのはもってのほかだった。
「確かに」
ラスタも他の二等騎士の学生も、その事実に気付き始める。
「ふざけるな!」
「こんなの不公平よ!」
あちこちで怒声が沸き上がる。掲示板を貼り出した教員達は詰め寄る学生達に囲まれた。
二等騎士は専属魔法を持たないという理由で、どんな差別も甘受せざるを得なかった。
しかしながら、こればかりは到底受け入れられるはずがない。
本来ならば戦力として頼られるべきは一等騎士の方だった。
「一等騎士の諸君には本土防衛の任を与える。よって、ベルニアへの支援は二等騎士部隊が配置されることになった」
教官はもっともらしい言い訳を付けるが、高家の出自である彼らを最前線に送りたくないという魂胆は、あからさまに透けていた。
「静まれ! 学校の決定に逆らった者は懲罰を与えるぞ」
我慢に耐えかねた学生達が遂に声を上げる。
武器こそ携行していなかったが、汎用魔法は使うことができる。
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