チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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3章:運命の奔流

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「ふん、馬鹿な奴等」

 ラスタの後ろで、リュシアは空席を眺めながら言った。

「おい、言い過ぎだろ」

 口の悪いリュシアを隣の男子学生がなだめる。リュシアはそれでも悪びれる様子さえ見せない。

「本当のことを言っただけでしょ?」

 言い返すリュシアの目に、向こう側に座る女子学生が目に留まる。

 現実の重荷に耐え切れず、嗚咽の声を漏らして泣いていた。

「アンタも何泣いているのよ。ここがどこだかわかってんの?」

「リュシア、お前言い過ぎだ。皆、急なことで気持ちの整理がついていないんだぞ」

「だったら早く覚悟を決めればいい。どうせ戦争は避けられないし、ここにいる何人かはその犠牲になるかもしれないんだから」

 男子学生は言葉に詰まった。彼の言葉より先に、リュシアはラスタに視線を移す。

「ラスタ、アンタだってわかっているんでしょ? この状況が」

「え? 俺?」

 一同の視線がラスタに集まった。ラスタはその視線に身体を刺される思いで、ようやく口を開く。

「最悪の状況は、覚悟しておくべきだろうなぁ」

 エクレナダ帝国はダクライア公国に対し、数倍以上の戦力を誇る強敵だ。

 開戦早々に総力戦を挑まなければならないのは明瞭である。

 となれば学生だからとか、二等騎士だからとか、言っている場合ではない。

 遅かれ早かれ、汎用魔法だけでも使えるラスタ達が戦場に送られるのは、目に見えている。

「それは、戦争になるってこと? それとも私達が戦場に送られるってこと?」

「ダクライアが参戦して、俺達が戦地に送られるってことだ」

「でも、勝てるのかな? 帝国に」

「勝てるかどうかは関係ない。戦いは避けられないってことだ」

「でも、ベルニア王国が勝手に仕掛けた戦争でしょ? 私達がそれに巻き込まれる理由なんかないじゃない!・・・・・・ごめんなさい」

 一人の女子はラスタに向かって取り乱したのを詫びた。

「確かに、俺達にはベルニア王国を見捨てる選択肢は残されている。だが、それを選んでしばらくは平穏だったとしても、その後はどうだろう? 見捨てられたベルニア王国は滅亡するだろうし、そうでなくても自分達を見捨てたダクライアを許すはずがない。この五十年間、エクレナダ帝国が小国のダクライア公国を征服しなかったのは、ベルニア王国の戦力が後ろ盾になってきたからだ。だからこの戦争に参戦しなかったとしても、いずれ帝国はダクライアにも食指を伸ばしてくるはずだ。生き残る最善の方法は、今ベルニア王国と一緒に戦う以外にない」

 戦史学でトップの成績を誇るラスタの言葉に、その場にいた全員の表情が暗くなった。

 戦争は免れない。それはわかっていても、残された時間で何をするべきかを見出す者は少なかった。

 現実を受け入れ始めた者から次々と教室を出て行くしかなかった。

「・・・・・・覚悟はしていたつもりなんだけどなぁ」

 ラスタは赤紫色の空を見上げた。人は苦境に立つと、なぜか空を見上げたくなるものだ。

「あと二年早ければな」

「アンタも同じクチ?」

 肩を並べるようにして歩くリュシアがラスタに振り向いた。

「いや、俺は別に軍人になりたいわけじゃないから」

 三階生のラスタ達は二年以内に学校を卒業する。

 二等騎士であるラスタ達は階級なしの兵士になるか、あるいは傭兵稼業で生計を立てるようになる。

 既に学校を卒業した二等騎士の先輩達は、大半が後者の立場を選んでいる。そうなれば軍とは無関係。

 たとえ戦争になったとしても、国家のために命を賭す義理はないのだ。

 もっとも、手厚い恩給からも無縁とはなってしまうのだが。

「またそんな・・・・・・でも、案外いい機会だわ」

「は?」

 リュシアの口から『機会』という言葉が出るなど、ラスタは予想さえしていなかった。

「この機に一番手柄を立ててやる。それで、一等騎士の奴等を出し抜いてやるんだから」

「おい、無理は止めといた方がいいと思うが」

「何言っているの? そこまでやらなければ変わらないのよ。一等騎士に対する私達の評価は。アンタだって、それが嫌で級別対抗試合を続けてきたんでしょ?」

「そうかもしれないが、これは本物の戦争だ。自分が誰かを殺し、誰かが自分を殺す戦争だ。今は余計な感情を捨ててこの場を切り抜けることだけを考えるべきだと思うが」

「そんなことだから二等騎士は見下されるのよ」

 リュシアはラスタを尻目に回廊を進む。

「一等騎士はこれ見よがしに派手な専属魔法を使って、主君に手柄を認めさせてきた。その魔法に巻き込まれて、父は死んだの。アイツ等は、私達のことを何とも思っちゃいない。だからこれだけは憶えておいて。戦場で私に近づかないことよ。私、敵と味方を区別するつもりはないから」

 リュシアの鬼気迫る迫力に、ラスタは辟易した。

 彼女の靴音が遠ざかることで、ようやくその圧迫感から解放された。
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