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3章:運命の奔流
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「じゃあ、ベルニア王国が下手な挑発をしたせいで戦争になったっていうのかよ!」
教官は首を縦にも横にも振らなかった。
グラーデン騎士養成学校では、入学時に全学生が祖国への絶対服従を宣誓するのがしきたりである。
つまり、祖国の危急となれば全ての学生は命を捧げるほどの覚悟を固めなければならない。
しかし今回の理不尽なケースに至っては、従順な学生達も異論を唱えざるを得ない。
「確かに、諸君らの言いたいことはわかる」
教官は壇上の拳を強く握りしめた。
「実はエクレナダ帝国は、ベルニア王国への宣戦布告とほぼ同時期に、各国に向けて使節を送っている。彼らの言い分によると、この事変はベルニア王国の一方的な挑発により引き起こされたものゆえ、戦争遂行の大義名分は帝国側にある。よって、近隣諸国はベルニア側を支援しないこと、と。それは我が国に対しても例外ではない」
「つまりそれは、ベルニア王国を見捨てるということですか?」
学生達は暗澹の中に光を見出したように、教官の次の言葉を待ちわびた。
ダクライアがベルニア王国との同盟を破棄すれば、とりあえず戦争に巻き込まれる心配はない。
しかし、ベルニア王国とダクライア公国は長年の同盟関係を続けてきたのだ。
ベルニア側に親せきや友人を持つ者も決して少なくはない。
一時の利害関係で同盟を反故にしてしまうのは、あまりにも軽率だった。
「結局、ダクライア公国はどちらの道を選択するのですか?」
ラスタが問題の核心をつく。教官はまたしても答えなかった。
「それは、三日後の正午までに勅命で公布されるだろう。もしベルニア王国を支援する立場を取ったならば、諸君達にも覚悟してもらわなければならない。それだけは憶えておいて欲しい」
教官の言葉はそれだけだった。
解散の命令が下っても、教室を出て食堂に直行しようとする者は皆無だった。
一瞬にして変えられた運命を前にして、誰もが立ち尽くしたまま途方に暮れていた。
「・・・・・・戦争だってよ」
「くそっ、何でこんなことになるんだよ」
「私、辞めようかな。学校」
「こうしていてもしょうがない! どっちにしても、まだ戦争が始まると決まったわけじゃないさ!」
一人の男子学生が立ち去った教官の後に壇上に立った。
「それに、大事なことを忘れていないか?」
「何だよ?」
「戦争になったとしても、俺達とは限らないだろ? 戦場に立つのは俺達よりも優秀な一等騎士達だ。何せ、連中には専属魔法がある。今それを使わずして、いつそれを使うんだ?」
「そうか!」
一部の学生達が元気を取り戻した。
自分達は専属魔法を持たないがゆえに、戦力として一段低く見られ、卒業後の進路さえ定まらないのだ。
その代り、参謀から有用な駒として目を付けられる心配もない。
彼が言いたいことは、そういうことなのだろう。
「よかったぁ! 二等騎士で」
「そうだ。今は専属魔法が戦局を決定する時代だ。俺達の出る幕はない」
「そうよ! そもそも戦争になると決まったわけじゃないんだし!」
自分達の立場に幸運を見出す学生達は、緊張を解いて自室へと戻る。
だがそれは、ほんの一部の学生だけだった。言葉を変えれば、将来の見通しの甘い学生達だけだった。
教官は首を縦にも横にも振らなかった。
グラーデン騎士養成学校では、入学時に全学生が祖国への絶対服従を宣誓するのがしきたりである。
つまり、祖国の危急となれば全ての学生は命を捧げるほどの覚悟を固めなければならない。
しかし今回の理不尽なケースに至っては、従順な学生達も異論を唱えざるを得ない。
「確かに、諸君らの言いたいことはわかる」
教官は壇上の拳を強く握りしめた。
「実はエクレナダ帝国は、ベルニア王国への宣戦布告とほぼ同時期に、各国に向けて使節を送っている。彼らの言い分によると、この事変はベルニア王国の一方的な挑発により引き起こされたものゆえ、戦争遂行の大義名分は帝国側にある。よって、近隣諸国はベルニア側を支援しないこと、と。それは我が国に対しても例外ではない」
「つまりそれは、ベルニア王国を見捨てるということですか?」
学生達は暗澹の中に光を見出したように、教官の次の言葉を待ちわびた。
ダクライアがベルニア王国との同盟を破棄すれば、とりあえず戦争に巻き込まれる心配はない。
しかし、ベルニア王国とダクライア公国は長年の同盟関係を続けてきたのだ。
ベルニア側に親せきや友人を持つ者も決して少なくはない。
一時の利害関係で同盟を反故にしてしまうのは、あまりにも軽率だった。
「結局、ダクライア公国はどちらの道を選択するのですか?」
ラスタが問題の核心をつく。教官はまたしても答えなかった。
「それは、三日後の正午までに勅命で公布されるだろう。もしベルニア王国を支援する立場を取ったならば、諸君達にも覚悟してもらわなければならない。それだけは憶えておいて欲しい」
教官の言葉はそれだけだった。
解散の命令が下っても、教室を出て食堂に直行しようとする者は皆無だった。
一瞬にして変えられた運命を前にして、誰もが立ち尽くしたまま途方に暮れていた。
「・・・・・・戦争だってよ」
「くそっ、何でこんなことになるんだよ」
「私、辞めようかな。学校」
「こうしていてもしょうがない! どっちにしても、まだ戦争が始まると決まったわけじゃないさ!」
一人の男子学生が立ち去った教官の後に壇上に立った。
「それに、大事なことを忘れていないか?」
「何だよ?」
「戦争になったとしても、俺達とは限らないだろ? 戦場に立つのは俺達よりも優秀な一等騎士達だ。何せ、連中には専属魔法がある。今それを使わずして、いつそれを使うんだ?」
「そうか!」
一部の学生達が元気を取り戻した。
自分達は専属魔法を持たないがゆえに、戦力として一段低く見られ、卒業後の進路さえ定まらないのだ。
その代り、参謀から有用な駒として目を付けられる心配もない。
彼が言いたいことは、そういうことなのだろう。
「よかったぁ! 二等騎士で」
「そうだ。今は専属魔法が戦局を決定する時代だ。俺達の出る幕はない」
「そうよ! そもそも戦争になると決まったわけじゃないんだし!」
自分達の立場に幸運を見出す学生達は、緊張を解いて自室へと戻る。
だがそれは、ほんの一部の学生だけだった。言葉を変えれば、将来の見通しの甘い学生達だけだった。
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