チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

文字の大きさ
上 下
10 / 56
2章:祖父の形見

5

しおりを挟む
 翌日には部屋を埋め尽くしていた祖父の遺品は全て外の荷車に積まれることになった。

 何も部屋に残されていないのを確認して、ラスタは部屋を出る。

「本当にいいのかい?」

 大家は申し訳なさそうにラスタに訊いた。ラスタは手元の本を握りしめると顔を上げる。

「いいんです。俺にはこれだけあれば。魔法理論関連の本は古書堂で結構な買取り額が付きますから」

 その分は遺品を保管してくれた大家に還元することに決めた。

 今日まで祖父の遺品を賃料無しで管理してくれた彼らに対する、せめてもの謝礼だった。

「では、これで」

 夕刻までには学校に戻るのが規則だ。軍属を養成する学校なだけに、時間厳守は絶対だった。

「待ってくれ」

 数歩の後にラスタは呼び止められる。

「ラスタ君、君もお祖父さんに負けないくらいの・・・・・・いや、頑張ってくれ」

「はあ、わかりました」

 大家が何を言いかけて止めたのか、ラスタがそれを知るのはグラーデンに戻ってからのことになる。

 定刻通りに戻ったラスタは寮の自室で書物に読みふけっていた。他の寮生はまだ戻っていない。

 あれから祖父の本を解読してみたが、内容は案外真面目な魔法の書物らしい。

 まさか本当に魔導書なのだろうか。

「いや、まさか」

 口癖のように何度も呟きながらラスタは文字を目で追っていく。

 もし魔導書だとすれば、そこには専属魔法の使い方が書かれているはずだ。

 一文無しに近い状態でこの世を去った祖父がれっきとした魔導書を所有しているはずがない。

 一冊売るだけで、貴族に近い大金を得ることが出来るのだ。

 しかし馬鹿げているといいながらも、ラスタの指はページをめくるのを止められない。

 読めば読むほど、それが本当に魔導書のように錯覚してしまうのである。

「これは・・・・・・魔力の転化方法か?」

 専属魔法を使う上で、やるべきことが二つある。それは《魔力の転化》と《詠唱解除》だ。

 魔力の転化とは、専属魔法を使うために体内の魔力を変質させて魔法が発動できるようにする作業。

 平たく言えば詠唱の下準備だ。そして詠唱解除といって、数語の呪文を唱えると専属魔法は発動される。

 魔法理論に精通した魔導士の解説は一般人の理解を超えている。

 魔導書を手にしても、その内容がわからなければ専属魔法を手にすることは出来ない。

 それでは魔導書の価値もないから、魔導士達は《魔力の転化》と《詠唱解除》の二つの作業だけで一般人でも専属魔法を発動できるように工夫したのだ。

 つまり、魔導書の内容を一字一句まで理解する必要がなくなるわけだ。

「属性はなし、消費魔力は・・・・・・随分低いな。これだけでどんな魔法になるんだ?」

 消費魔力とは魔法の発動に必要とされる魔力の量。

 当然ながら高い効果を発揮する魔法ほど多くの魔力を消費する。

 魔法という言葉に人は過大な夢想を押し付けがちだが、エネルギー以上の仕事をしないという点では、魔法もまた自然界の理に叶っている。

「まあ、魔力をそんなに食わないって言うことは、大した魔法じゃないんだろう」

 ラスタは楽観的に解釈する。

 消費魔力の低さといえば、小さな火の玉を飛ばす汎用魔法の定番、【火球砲(ファイアバレット)】にも劣る。

 この魔法は手も触れずに遠くの物を引き寄せるとか、煙草に火を点けるとか、そんなつまらない目的で開発されたに違いない。

 風変わりな祖父の性格を考えれば、あり得ない話ではなかった。

「試してみるか」

 通常、得体の知れない魔法を狭い部屋で発動するのは危険だ。

 しかし、祖父の魔法はそれほどのものでもないと考えたラスタは試しに専属魔法を使ってみようと考えた。

 前に出した右手の上で、青い光の玉がゆっくりと回転する。魔力の転化作業はこれで完了だ。

「詠唱解除は、この部分か」

 幸いにも、その部分だけはラスタも全部を読むことができる。

「それにしてもチート魔法って何だろうな? チート、チート・・・・・・」

 ラスタの住む世界でそのような言葉で定義されるものは思い浮かばない。

「いいや、使ってみりゃわかるだろう」

「えっと、《カタスト・・・・・・》」

「ラスタ!!」

 強風で押されたように扉が開き、女子生徒が転がり込むようにして部屋に入り込んでくる。

 何事かと思えば、リュシアが血相を変えて飛び込んできたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

はぐれ者ラプソディー

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中
ファンタジー
「普通、こんなレアな生き物簡単に捨てたりしないよね?俺が言うのもなんだけど、変身できる能力を持ったモンスターってそう多くはないんだし」 人間やモンスターのコミュニティから弾きだされた者達が集う、捨てられの森。その中心に位置するインサイドの町に住むジム・ストライクは、ある日見回りの最中にスライムが捨てられていることに気づく。 本来ならば高価なモンスターのはずのスライムが、何故捨てられていたのか? ジムはそのスライムに“チェルク”と名前をつけ、仲間達と共に育てることにしたのだが……実はチェルクにはとんでもない秘密があって。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

捨てられ令嬢、皇女に成り上がる 追放された薔薇は隣国で深く愛される

冬野月子
恋愛
旧題:追放された薔薇は深く愛される 婚約破棄され、国から追放された侯爵令嬢ローゼリア。 母親の母国へと辿り着いた彼女を待っていたのは、彼女を溺愛する者達だった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

処理中です...