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2章:祖父の形見
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「こんな本を読んでいたのか? 俺には難し過ぎるな」
続いてラスタが調べたのは書斎の机の上。金色に輝く魔導器や標本が机を埋め尽くすばかりに置かれている。
「これも・・・・・・一体何に使うんだか」
床を埋め尽くすばかりに置かれた遺品の山の中で、ラスタが必要とするものは見つからない。
ちなみにラスタが私物を置くことが出来るのは騎士養成学校の寮の自室のみ。
そこは狭い上に他の学生と同室だから、こんな物品を持ち込んでは迷惑千万であること間違いない。
一等騎士のみに個室を割り当てたせいで、ラスタ達は残された数少ない部屋に押し込まれたようなものだった。
「どうするかなぁ」
こんな時になってラスタは看護師の言葉を思い出す。
祖父もまた、ラスタの肉親の一人であったのだ。
その祖父の面影を何一つ残さないのは、やはり躊躇われる。
何か、適当なものを一つでも持ち去るべきだろうが、何を選べばいいのかが判然としない。
祖父が何を一番大事にしていたのかを、ラスタは知らないのだ。
部屋に置かれた物品を物色しながら、ラスタは本棚に本を戻そうとした。
「どわっ!!」
本の角が何かにぶつかったらしい。棚に並べていた本が雪崩のように落ちてきた。
「ありゃぁ、やっちまった」
散乱した本を一冊ずつ丁寧に戻すラスタ。本の山を片付けていく彼の手が、ふと止まった。
「これは?」
金色の蝶番で綴じられた黒塗りの箱が埋もれている。
大きさは手提げ鞄ほどで随分と厚みがある。
この箱は重要な書類をしまうために使う調度品の類だ。そんな箱を目にして、中身が気にならないはずがない。
「おっ、開いたぞ」
幸いにも鍵は掛けられていない。ラスタは箱を開いて中身を確かめる。
中から出てきたのは一冊の本だけだった。
だがそれは、決して部屋に置かれている他の本と同じものではなかった。
「これは・・・・・・」
革張りの表紙に金色の印字、上質な羊皮紙という立派な装丁の本。
「一体何の本だ?」
表紙に書かれているのは『チート魔法の魔導書』という題名。
しかもそれは、ラスタが普段用いている言語で書かれているものではなかった。
「この本の言葉・・・・・・知っている。えっと、ニ・・・・・・何だっけ?」
かつて母から教わった特殊な言語がある。
とにかく文字の種類がべらぼうに多い難しい言語だ。
幼少期の自分がなぜこんな言葉を覚えなければならなかったのか、ラスタには全く理解が出来なかったのだが、どうやら祖父の母国語か何からしい。
やはり祖父は遥か彼方の異郷の出身なのだろう。
「しかもこれって、祖父が書いたのか?」
題名の下には『キョウスケ=オキシマ』という名前がある。
ラスタは祖父のフルネームをこの時初めて知ったのだった。
「それにしても魔導書って何だよ」
ラスタは苦笑いする。
いくら祖父が曲がりなりにも魔導士だったとはいえ、自身の書物を魔導書と称するのはやり過ぎだ。
本物の魔導書ならば、とんでもない金を巻き込んで売買される。
魔導書さえあれば名門の騎士と同じ待遇を受けられるのだから、それくらいの価値がついて当然だった。
「これが本物だったら俺も大金持ちなのになぁ」
夢見心地でラスタは本を掲げてみる。そして分厚い本の適当なページを開いて流し読みをする。
表題と同じ、中身もまた例の言語で書かれていた。
ラスタはその言語を全て会得しているわけではない。
また幼少期に習って以来、その言語の活用の機会に全く恵まれなかったラスタはその半分を忘れてしまっている。
「まあ、これにするかな」
ラスタは半ば妥協といった具合で、この魔導書らしき本を手元に残すことに決めた。
本物の魔導書かどうかはどうでもいい。
ただ、勉強好きだった祖父が自身の名前と共に書き記したものであり、大事に保管されていたものだったから、形見としてこれ以上の物はなかったのだ。
続いてラスタが調べたのは書斎の机の上。金色に輝く魔導器や標本が机を埋め尽くすばかりに置かれている。
「これも・・・・・・一体何に使うんだか」
床を埋め尽くすばかりに置かれた遺品の山の中で、ラスタが必要とするものは見つからない。
ちなみにラスタが私物を置くことが出来るのは騎士養成学校の寮の自室のみ。
そこは狭い上に他の学生と同室だから、こんな物品を持ち込んでは迷惑千万であること間違いない。
一等騎士のみに個室を割り当てたせいで、ラスタ達は残された数少ない部屋に押し込まれたようなものだった。
「どうするかなぁ」
こんな時になってラスタは看護師の言葉を思い出す。
祖父もまた、ラスタの肉親の一人であったのだ。
その祖父の面影を何一つ残さないのは、やはり躊躇われる。
何か、適当なものを一つでも持ち去るべきだろうが、何を選べばいいのかが判然としない。
祖父が何を一番大事にしていたのかを、ラスタは知らないのだ。
部屋に置かれた物品を物色しながら、ラスタは本棚に本を戻そうとした。
「どわっ!!」
本の角が何かにぶつかったらしい。棚に並べていた本が雪崩のように落ちてきた。
「ありゃぁ、やっちまった」
散乱した本を一冊ずつ丁寧に戻すラスタ。本の山を片付けていく彼の手が、ふと止まった。
「これは?」
金色の蝶番で綴じられた黒塗りの箱が埋もれている。
大きさは手提げ鞄ほどで随分と厚みがある。
この箱は重要な書類をしまうために使う調度品の類だ。そんな箱を目にして、中身が気にならないはずがない。
「おっ、開いたぞ」
幸いにも鍵は掛けられていない。ラスタは箱を開いて中身を確かめる。
中から出てきたのは一冊の本だけだった。
だがそれは、決して部屋に置かれている他の本と同じものではなかった。
「これは・・・・・・」
革張りの表紙に金色の印字、上質な羊皮紙という立派な装丁の本。
「一体何の本だ?」
表紙に書かれているのは『チート魔法の魔導書』という題名。
しかもそれは、ラスタが普段用いている言語で書かれているものではなかった。
「この本の言葉・・・・・・知っている。えっと、ニ・・・・・・何だっけ?」
かつて母から教わった特殊な言語がある。
とにかく文字の種類がべらぼうに多い難しい言語だ。
幼少期の自分がなぜこんな言葉を覚えなければならなかったのか、ラスタには全く理解が出来なかったのだが、どうやら祖父の母国語か何からしい。
やはり祖父は遥か彼方の異郷の出身なのだろう。
「しかもこれって、祖父が書いたのか?」
題名の下には『キョウスケ=オキシマ』という名前がある。
ラスタは祖父のフルネームをこの時初めて知ったのだった。
「それにしても魔導書って何だよ」
ラスタは苦笑いする。
いくら祖父が曲がりなりにも魔導士だったとはいえ、自身の書物を魔導書と称するのはやり過ぎだ。
本物の魔導書ならば、とんでもない金を巻き込んで売買される。
魔導書さえあれば名門の騎士と同じ待遇を受けられるのだから、それくらいの価値がついて当然だった。
「これが本物だったら俺も大金持ちなのになぁ」
夢見心地でラスタは本を掲げてみる。そして分厚い本の適当なページを開いて流し読みをする。
表題と同じ、中身もまた例の言語で書かれていた。
ラスタはその言語を全て会得しているわけではない。
また幼少期に習って以来、その言語の活用の機会に全く恵まれなかったラスタはその半分を忘れてしまっている。
「まあ、これにするかな」
ラスタは半ば妥協といった具合で、この魔導書らしき本を手元に残すことに決めた。
本物の魔導書かどうかはどうでもいい。
ただ、勉強好きだった祖父が自身の名前と共に書き記したものであり、大事に保管されていたものだったから、形見としてこれ以上の物はなかったのだ。
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