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1章:二つの力
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ラスタが一歩を踏み出した。
「降参するなら今のうちだぜ。専属魔法はもう使えないからな」
専属魔法に依存する一等騎士にとって、ラスタの言葉は最大の侮辱だった。
「そんなことより私、用事を思い出しましたの」
イリスは出し抜けに構えを解いた。そればかりか手にしていた細剣を鞘にしまい込む。
「はあ?」
見当違いの言動にラスタは拍子抜けする。
「あなたと戦っている場合ではない。そう申しましたのよ」
「自分が不利になったら逃げる気か?」
「そうではありませんの。こんな勝負、早く決着を付けたいと思いまして」
「じゃあ、そうさせてもらうぜ。剣を抜け」
「必要ありませんので」
それでどうやって自分の身を護るというのだ。イリスが専属魔法で制御する武器は既に無力化されている。
「怪我しても、知らねえからな!!」
剣を大きく振りかぶって驀進するラスタ。イリスは腰の剣を抜く様子はない。
――一体何を考えている?
《物質制御魔法》で制御する剣も潰えた。これ以外にラスタの障碍はない。
違和感を払拭しきれないまでも、攻勢に出るラスタに対し、イリスはゆっくりと片腕を上げた。
「降り注ぎなさい」
イリスの繊手の先をラスタが見上げる。
「上か! しまった!」
ラスタが死角に気付いた時には既に遅かった。
陽光を反射しながらラスタの頭上に幾筋もの閃光が降り注ぐ。
「どわあぁぁ!!」
地に片足を浮かせたままのラスタの眼前を、脇の間を、背中を、足の間を紙一重の感覚で刃が地面に突き立てられる。
笹の葉形で全面に刃を研ぎ澄ました異形の剣。
全面に刃が光るのだから、普通の人間には持つことさえできない。
魔力のみで物質を制御できるイリスのみが扱う特殊武器、エクリプス・エッジだ。
イリスはこの武器と専属魔法をセットで使ってくる。完全な誤算だった。
彼女が制御していた武器は、ラスタの視界に収まるものが全てとは限らなかったのだ。
突如として天から降り注いだその刃は、ラスタを完全に剣の林に封じ込めた。
「大丈夫ですかぁ? 生きていますか?」
イリスが面白がるように訊いてきた。
「身動きが、取れない・・・・・・」
八方をエクリプス・エッジで固められて、身体のどの部分を動かそうにも自分を刃に押し当てるようなもの。
ラスタが唯一動かせるのは、口だけだった。
「くそ、あと一歩だったのに」
「あと一歩? 踏み出したらいいじゃないですか。あと一歩」
イリスはやってみろと、ジト目でラスタを見つめる。
「馬鹿な! 俺の股間ギリギリで剣が刺さっているんだよ! あと一歩踏み出したら、息子を死地に向かわせることになるだろうが!」
ラスタはこんなことを言う自分が情けなかった。
「では、どうします?」
答えなら自明だろうに。あえて訊いてくるイリスが小憎らしい。
「・・・・・・降参です」
「はい、お疲れさまでした」
イリスは満面の笑みを浮かべて愛想よく会釈する。
「級別対抗試合勝者、イリス=フェランデ!」
試合の決着を公言する審判の手が挙がると同時に、万雷の喝采が巻き起こった。
卵型のコロシアムの中心で激突する二人を、固唾をのんで見守っていたグラーデン騎士養成学校のほぼ全校生徒と教員達のものだった。
「降参するなら今のうちだぜ。専属魔法はもう使えないからな」
専属魔法に依存する一等騎士にとって、ラスタの言葉は最大の侮辱だった。
「そんなことより私、用事を思い出しましたの」
イリスは出し抜けに構えを解いた。そればかりか手にしていた細剣を鞘にしまい込む。
「はあ?」
見当違いの言動にラスタは拍子抜けする。
「あなたと戦っている場合ではない。そう申しましたのよ」
「自分が不利になったら逃げる気か?」
「そうではありませんの。こんな勝負、早く決着を付けたいと思いまして」
「じゃあ、そうさせてもらうぜ。剣を抜け」
「必要ありませんので」
それでどうやって自分の身を護るというのだ。イリスが専属魔法で制御する武器は既に無力化されている。
「怪我しても、知らねえからな!!」
剣を大きく振りかぶって驀進するラスタ。イリスは腰の剣を抜く様子はない。
――一体何を考えている?
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違和感を払拭しきれないまでも、攻勢に出るラスタに対し、イリスはゆっくりと片腕を上げた。
「降り注ぎなさい」
イリスの繊手の先をラスタが見上げる。
「上か! しまった!」
ラスタが死角に気付いた時には既に遅かった。
陽光を反射しながらラスタの頭上に幾筋もの閃光が降り注ぐ。
「どわあぁぁ!!」
地に片足を浮かせたままのラスタの眼前を、脇の間を、背中を、足の間を紙一重の感覚で刃が地面に突き立てられる。
笹の葉形で全面に刃を研ぎ澄ました異形の剣。
全面に刃が光るのだから、普通の人間には持つことさえできない。
魔力のみで物質を制御できるイリスのみが扱う特殊武器、エクリプス・エッジだ。
イリスはこの武器と専属魔法をセットで使ってくる。完全な誤算だった。
彼女が制御していた武器は、ラスタの視界に収まるものが全てとは限らなかったのだ。
突如として天から降り注いだその刃は、ラスタを完全に剣の林に封じ込めた。
「大丈夫ですかぁ? 生きていますか?」
イリスが面白がるように訊いてきた。
「身動きが、取れない・・・・・・」
八方をエクリプス・エッジで固められて、身体のどの部分を動かそうにも自分を刃に押し当てるようなもの。
ラスタが唯一動かせるのは、口だけだった。
「くそ、あと一歩だったのに」
「あと一歩? 踏み出したらいいじゃないですか。あと一歩」
イリスはやってみろと、ジト目でラスタを見つめる。
「馬鹿な! 俺の股間ギリギリで剣が刺さっているんだよ! あと一歩踏み出したら、息子を死地に向かわせることになるだろうが!」
ラスタはこんなことを言う自分が情けなかった。
「では、どうします?」
答えなら自明だろうに。あえて訊いてくるイリスが小憎らしい。
「・・・・・・降参です」
「はい、お疲れさまでした」
イリスは満面の笑みを浮かべて愛想よく会釈する。
「級別対抗試合勝者、イリス=フェランデ!」
試合の決着を公言する審判の手が挙がると同時に、万雷の喝采が巻き起こった。
卵型のコロシアムの中心で激突する二人を、固唾をのんで見守っていたグラーデン騎士養成学校のほぼ全校生徒と教員達のものだった。
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