チート魔法の魔導書

フルーツパフェ

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1章:二つの力

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 小声で少女が命じると、浮遊していた二本の剣は互いに競うようにラスタめがけて飛んでくる。

 物体を魔力によって自在に制御するフェランデ家の専属魔法、《物質制御魔法(フィジカルコントロール)》。

 彼女が操る二本の剣は、その魔法の効果を帯びた《制御対象(ユニット)》だ。

 ラスタは待ち構えるのではなく、飛んでくる剣に向けて大きく踏み出した。

「邪魔だ!」

 機先を制したラスタが横一文字に持っていた片手剣を一閃する。

 それが剣とぶつかり合う時、想像以上の抵抗がラスタの腕から伝わってくる。

 剣の重みだけでなく、イリスの魔力をまとった衝撃は重い。

「くっ!!」

 それでもラスタの力が勝って一本目の剣を弾き飛ばした。

 その後には二本目の剣がすかさずラスタの急所を狙ってくる。

 不意に屈み、片手を地に着いたラスタはそのまま身体を宙返りさせた。

 この意外な挙動を予測しきれなかった二本目の剣は、ラスタの頭上を通り過ぎていく。

 こうしてラスタは魔力で動く二本の剣を出し抜いた。その先に待つのはイリスただ一人。

「これで守りは手薄になったな!」

「なるほど。《制御対象》をやり過ごして術者の私を狙う算段ですか」

 浮遊する剣と少女はラスタを挟んで完全に孤絶されている。

 この状況に持ち越せばイリスの専属魔法の脅威はひとまず取り払われた。

 あとは肉弾戦で押しまくるのみ。ラスタの方が有利と思われたが。

「やるな!」

「生憎ですね! 私、剣の腕もそれなりに立つのですよ!」

 肉付きのやや悪い細腕でラスタの剣戟を振り払うように弾き、華麗に身を翻して斬撃を逃れるイリス。

 両者が拮抗するうちに、コントロールを取り戻した二本の剣がラスタの背中を狙ってくる。

 弾き飛ばそうにも、避けようにも、イリスの専属魔法で制御対象となった剣は執拗にラスタを追い詰める。

「いい加減にうんざりなんだよ! 《雷撃魔法(サンダー)!!》」

 ラスタの手から電光石火のごとく走る稲妻が二本の剣を包み込む。

 イリスの専属魔法に比べてあまりに一般的な汎用魔法、《雷撃魔法》。

 魔法の道を志す者ならば誰もが会得している。

 が、殊に魔力の高いラスタが使えば、その上位魔法と見紛うほどの威力を発揮する。

 魔力が鋼で鍛えた二本の剣は、稲妻の残照を残して完全に消失した。

「なるほど、雷の熱で鋼を『蒸発』させたわけですか。これでは制御因子も使えなくなりますね」

 これでラスタとイリスはそれぞれが手にする剣で雌雄を決することになる。

 イリスは中々手強い相手ではあるが、それでも魔力の高いラスタの敵ではない。

 魔力の面では、ラスタの方が勝っているのである。
 
 高い魔力は人間の身体機能を強化する側面がある。このまま白兵戦に持ち込めば形勢は逆転する。

 世界に魔導書がなければ、あるいはラスタに魔導書を入手するだけの資産があれば、彼の人生はどれほど違っていたことだろう。

 もっとも、ラスタはそんな夢物語に思いを馳せる時間はなかった。

 自身の弱みに甘えることなく、強さだけを信じて突き進む。

「さすが、いつもながら大した腕前のこと!」

 ところがイリスは依然として感心するばかりで、少しも慌てる様子はない。

「さあ、どうする? そっちもだんだん息が上がってきたみたいだな」

「さあ、どうでしょう?」

 イリスは呼吸のペースを抑えながら平静を繕う。

 ラスタもまた、イリスの専属魔法に翻弄されて体力と魔力が払底しかけていた。

 それでも両者は互いに弱みを悟られまいとしながら、背中に冷や汗をかく想いで対峙する。
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