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年収300万円以下は負け組

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 はっきり言って本業で頑張れば昇給できる、というのは見込みのない話だった。
 俺の勤め先はとある電子部品メーカー。
 端的に言えば、家電製品や工場機械に組み込む機械の半導体部品を製造する仕事。
 細かい部品が迷路のように配線された緑色の基盤を誰もが見たことはあるだろうが、それを作るのが俺の仕事だった。
 いや、厳密に言えば俺の仕事は作る側ではないのだ。
 こうした部品を年間数万個も作れば中には作業ミスや部品不良で欠陥品が出てくる。
 それが納入先で見つかれば俺の元へメールが飛んでくる。
『AB-3基盤配線不良のご連絡』
 明らかに嫌な予感がするタイトル。
 開いてみると、客先で部品不良が原因で機械が誤作動を起こした経緯と、その補償の要求が延々と綴られている。
 そう、俺の仕事はいわゆるクレーム処理。
 中小企業にはほとんど置かれていない部署なのだが、そうしたクレーム処理機関がある会社は大手の仕事受注で有利とあって、形骸的に俺一人がクレーム処理部門に充てられている。
 顧客との品質トラブルを穏便に済ませるのが任務というわけだが、この仕事、正直キツイ割には頑張りが評価されるわけでもなくモチベーションが上がりにくいのが悩みの種。
 実際、仕事を取ってくる営業部隊や回路技術を研究している元大手エンジニアと俺の間には収入的な意味で雲泥ほどの差があるのが現状。
 給料を上げてくれと、会社に掛け合ったところで別の人間に仕事を引き継がせるからと、お払い箱にされるのが関の山だ。
 それだったら副業でこっそり稼ぐしか道はないのだが、過重な業務を終えて夜遅くに帰宅した俺を待つのは、うだつの上がらないアフィリエイトブログだけなのが現状。
 それでもブログを更新しないと収入はあり得ないので、赤字体質を自覚しつつも俺は日夜仕事を続ける。
 働いても働いても暮らしが楽にならない。
 昔、とある詩人がそんな風に嘆いていたのを思い出す。
 それから二十年。
 ようやく彼の気持ちがわかった気がして、俺は自分の手を見た。
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