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ようやく一歩
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「部長・・・・・・」
私の声をまだ忘れていなかったのか、振り返ってくれた。
「君か・・・・・・まさか、ここに再就職していたのかね?」
「いえ、別の会社ですけど? 今日はただ、お仕事を貰えるということでその商談に」
「・・・・・・そうか、羨ましいな」
「でも! 前の会社ほど大きな取引ではありませんよ。あくまでキャンペーンのラジコンカーの話で!」
「それでも羨ましいさ。ウチは一切手を引くことになったのだから」
「え?」
信じられない話だった。
確か前の会社では、売り上げのおよそ八割がこの会社関連の受注だったはず。
それが一切手を引く?
では今度、会社の稼ぎ頭はどうするのか。
「エンジン向けの工場が、もうすぐ閉鎖になるんだ」
「例の電動化の件ですか? でも、私が辞める頃には開発が進められていたのでは?」
「こんなことになるくらいなら、もう少し早く新製品開発に力を注ぐべきだったよ。結局、電気自動車の部品はエンジンとは異質で、ウチの工作機械では作れないんだ。帰ったら、それこそ社員の半数をリストラしなければならないだろう。君にも申し訳ないことをした」
「いえ、私は」
辞めさせてもらえたことに感謝しているとまでは言わない。
ただ、今の会社に出会わなければ、私は何も変わらず、もっと不利な状況で転職をしなければならなかっただろう。
あんなことがあったお陰で、私は変わったのだ。
「待たせたね。おや? 知り合いかい?」
そこへ、今の私の雇用主が戻って来た。
「えっと、こちらはウチの社長で・・・・・・あちらは前の会社でお世話になった・・・・・・」
私は簡単に紹介する。その後お互い、名刺交換になった。多分それきりになるだろうとは思いつつも。
「それでは失礼します!」
私は前の会社と今度こそ決別して、自分の仕事に取り掛かった。
前に進まなければ。
(了)
私の声をまだ忘れていなかったのか、振り返ってくれた。
「君か・・・・・・まさか、ここに再就職していたのかね?」
「いえ、別の会社ですけど? 今日はただ、お仕事を貰えるということでその商談に」
「・・・・・・そうか、羨ましいな」
「でも! 前の会社ほど大きな取引ではありませんよ。あくまでキャンペーンのラジコンカーの話で!」
「それでも羨ましいさ。ウチは一切手を引くことになったのだから」
「え?」
信じられない話だった。
確か前の会社では、売り上げのおよそ八割がこの会社関連の受注だったはず。
それが一切手を引く?
では今度、会社の稼ぎ頭はどうするのか。
「エンジン向けの工場が、もうすぐ閉鎖になるんだ」
「例の電動化の件ですか? でも、私が辞める頃には開発が進められていたのでは?」
「こんなことになるくらいなら、もう少し早く新製品開発に力を注ぐべきだったよ。結局、電気自動車の部品はエンジンとは異質で、ウチの工作機械では作れないんだ。帰ったら、それこそ社員の半数をリストラしなければならないだろう。君にも申し訳ないことをした」
「いえ、私は」
辞めさせてもらえたことに感謝しているとまでは言わない。
ただ、今の会社に出会わなければ、私は何も変わらず、もっと不利な状況で転職をしなければならなかっただろう。
あんなことがあったお陰で、私は変わったのだ。
「待たせたね。おや? 知り合いかい?」
そこへ、今の私の雇用主が戻って来た。
「えっと、こちらはウチの社長で・・・・・・あちらは前の会社でお世話になった・・・・・・」
私は簡単に紹介する。その後お互い、名刺交換になった。多分それきりになるだろうとは思いつつも。
「それでは失礼します!」
私は前の会社と今度こそ決別して、自分の仕事に取り掛かった。
前に進まなければ。
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