私、事務ですけど?

フルーツパフェ

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ようやく一歩

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「部長・・・・・・」
 私の声をまだ忘れていなかったのか、振り返ってくれた。
「君か・・・・・・まさか、ここに再就職していたのかね?」
「いえ、別の会社ですけど? 今日はただ、お仕事を貰えるということでその商談に」
「・・・・・・そうか、羨ましいな」
「でも! 前の会社ほど大きな取引ではありませんよ。あくまでキャンペーンのラジコンカーの話で!」
「それでも羨ましいさ。ウチは一切手を引くことになったのだから」
「え?」
 信じられない話だった。
 確か前の会社では、売り上げのおよそ八割がこの会社関連の受注だったはず。
 それが一切手を引く?
 では今度、会社の稼ぎ頭はどうするのか。
「エンジン向けの工場が、もうすぐ閉鎖になるんだ」
「例の電動化の件ですか? でも、私が辞める頃には開発が進められていたのでは?」
「こんなことになるくらいなら、もう少し早く新製品開発に力を注ぐべきだったよ。結局、電気自動車の部品はエンジンとは異質で、ウチの工作機械では作れないんだ。帰ったら、それこそ社員の半数をリストラしなければならないだろう。君にも申し訳ないことをした」
「いえ、私は」
 辞めさせてもらえたことに感謝しているとまでは言わない。
 ただ、今の会社に出会わなければ、私は何も変わらず、もっと不利な状況で転職をしなければならなかっただろう。
 あんなことがあったお陰で、私は変わったのだ。
「待たせたね。おや? 知り合いかい?」
 そこへ、今の私の雇用主が戻って来た。
「えっと、こちらはウチの社長で・・・・・・あちらは前の会社でお世話になった・・・・・・」
 私は簡単に紹介する。その後お互い、名刺交換になった。多分それきりになるだろうとは思いつつも。
「それでは失礼します!」
 私は前の会社と今度こそ決別して、自分の仕事に取り掛かった。
 前に進まなければ。

(了)
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みんなの感想(2件)

花雨
2021.08.12 花雨

作品登録しときますね(^^)

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鼻血の親分
2021.08.07 鼻血の親分

面白い作品を掘り当てた気分です。一気に読んでしまいました。無茶なミッションだけど味方も現れて上手くいくと良いですね。展開楽しみにしてます+.(*’v`*)+

フルーツパフェ
2021.08.15 フルーツパフェ

ありがとうございます。
主人公のモデルは最近、プログラミングに限らず他のパソコン周りのことも任されるようになったそうで、日々努力に励んでいるようです。

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