私、事務ですけど?

フルーツパフェ

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自動車業界、これが現状

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 そんなこんなで数々の新製品開発が画餅に終わり、自動車業界の変革がのらくらな会社の成長を待ってくれるはずもなく。
 いよいよ融資元の銀行が、難色を示し始めた。
 経営合理化、という名の死の宣告だ。
 窮地に陥った企業がまず取るのは、余剰人員の削減。
 人材は企業の宝とよく言ったものだが、これは少なくとも費用面で十分的を射た表現だ。
 何せ数十年の間に、会社は億単位近い給料を支払うことになる。
 末端社員からプロジェクトリーダーまで、どんな人材にせよ最新の高性能工作機械の方が遥かに安い。
 一方で生産性はというと、自動化のできる工作機械の方が人間よりよく働く。
 だから受け入れがたい事実であるが、設備と人材のどちらを切り捨てるかということについて、企業に選択の余地はない。
 実際、私は知らないのだが、私が入社する数年前にリーマンショックの影響で、既に大幅な人員削減が実施されたこともあったという。
 社内でそのことをまだ根に持っていた、ある先輩から聞かされたことだ。
 長い目で見れば、それが再び数年ぶりに実施されたというだけの話。
 私個人にとっては青天の霹靂だったとしても。

 ここまでが、今日の私に降りかかった災難の前日譚だ。
 もちろん私は迂遠的に拒否の意思を告げた。
 会社が聞き容れてくれるとは思っていなかったが。
 よりにもよって、二十八歳、事務職という立場からすれば当然だった。
 既に何人か後輩が入社して、今では私と同等の業務に従事している。
 彼女らの給料はまだ、私よりかは一万円ほど下だろう。
 安い給料で働いてくれる奴隷は生かすというわけだ。
 一方で部署内には勤続数十年にも及ぶ、いわゆるお局様が健在である。
 こちらにはさっきのライン部門と同様に、幹部や現場リーダーとの密接なパイプがある。
 そのどちらにも属さない、およそ三十、四十代でしかも新人でも簡単に仕事を覚えられる事務職の私にまず白羽の矢が立って当然だった。
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