上 下
16 / 29
1章: 学院内権力組織

戦端

しおりを挟む
「それと、対戦者には武器の携行が認められています」
「え? 魔法で戦うんじゃ?」
「個人によって、必ずしも直接的な威力を持たない魔法もありますから。例えば手を触れずに武器を操る魔法などの場合です。もちろん、魔法の関与なしに武器や腕力だけで相手をねじ伏せるのは不正行為と判定されるので、それだけはご注意ください」
「心得ました」
「では、武器を選んでください」
 統制委員に案内されたシュロムの前には短剣から槍、打撃武器と飛び道具以外の様々な形態の得物が並べられていた。
 あの傲慢で勝気なティラの顔を思い浮かべれば棍棒かトマホークを選びたい気分だったが、さすがに女子をそんな物で殴れないシュロムはとりあえず護身用に片手長剣を掴んだ。
「では、御武運をお祈りします」
 統制委員に見送られる、というより逃げ場のない窮地にやり込まれたシュロムはティラと対峙する。
 小さな彼女の手には不相応な両手戦斧が握られていた。
「あっ!! お前、それはずるいだろ!」
「そんなことないのです。この学院でスカートめくりをするような輩はこれで腐った脳みそをカチ割ればいいのです。それに、あなたにも同じ武器の選択肢があったはずですが?」
 だから、そんなもので小柄な女子を殴れるかよ。
「双方とも、準備はいいですか?」
 審判がシュロムとティラの顔を交互に見ながら真ん中に立った。
「もちろんなのです」
「ええ、始めて下さい」
「では――」
 審判が手を上げた。それが下に振り下ろされる時、戦いの火ぶたが切られる。
「先手必勝なのです!」
 いち早く動いたティラが斧を地面に突き立てる。それと同時に審判が宣言した。
「公式戦開始!」
「ちょっと待て・・・・・・その手は振り下ろされて開始では?」
 戸惑うシュロムの前にもう炎が迫ってくる。
 シュロムは何とかそれをかわした。
「お前、さっきから汚ねえぞ!!」
 シュロムの抗議の声は、燃え盛る炎の爆音に掻き消された。
「逃げるな! ちょこまかと!」
 シュロムめがけて突き出したティラの両手から炎の球が現れ、ある程度の大きさまで膨らむと矢のごとくシュロムめがけて飛んできた。
 直線軌道しか描かない炎の球は決して避けられない速さではなかったが、目標を外れても爆発する威力は決して侮れない。
 地面には大穴が開き、周囲の草木は黒く焼け焦げた。
 そんな危険な火の玉を、ティラはお構いなしに何発も連発してくる。
 どうやら彼女は炎系の魔法を習得しているようだ。
 魔導士の、しかも学生が使う魔法のカテゴリーは通常一種類だ。
 魔法を使いこなすためには魔力の操作技術をはじめ自然現象に対する理解など覚えるべき事柄は山ほどあり、一種類の魔法でも習得は難しい。だから少なくともBクラスまでは、炎の魔法を使えて同時に風や雷の魔法まで使いこなしてしまうというケースはあまりない。
 つまり、炎魔法さえ何とかしてしまえばシュロムにも勝機は十分にあるのだ。
「どうしたのですか? 諦めたのですか?」
 さっきまで防戦一方だったシュロムが急に回避も防御もしなくなったのを見て、ティラが聞いた。
 シュロムは静かに被りを振りながら答えた。
「いや、お前の魔法は見させてもらったよ。ここからが反撃開始だ」
「何を今頃――次こそは灰にしてやるのです!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...