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1章: 学院内権力組織
仲裁
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ティラに限った話ではない。グラン=アカデミーに在籍する数千人の学生を束ねる百余名の統制委員、その実力派トップであるエナメスは学生でありながら事実上の学院の支配者だ。
「あなたも、一般の生徒にグラン=アカデミー外での魔法の使用は認められていないはずですよ?」
落ち着いてはいるが十分に威圧感のある言葉で、シュロムも矛を収めた。
そもそも、彼がここで統制委員とやり合うつもりはない。
「そうですとも。魔法の規則外使用だなんて、まさか」
「こら! よくもぬけぬけとそんな嘘を!」
「ティラさん。嘘だという証拠はまだありません。統制委員の一員である以上、憶測に基づく魔法の乱用は慎むべきです」
「しかし、委員長! 証拠ならちゃんと・・・・・・」
「ティラさん? 私の言葉が聞こえなかったのですか?」
切れ長の目を更に刃のごとく細めて光らせるエナメスには身の毛もよだつほどの迫力があった。
それを目の当たりにしたティラは声をひきつらせて黙ってしまった。
ティラを一睨みで黙らせたエナメスは銀髪を翻してシュロムを顧みる。
――なるほど、これがこの女の威圧感か。
身体を反らしたエナメスは制服のジャケットに手を伸ばしていた。
シュロムが警戒する中、彼女がそこから取り出したのは金の懐中時計だった。
「あら、もうこんな時間ですね。二人とも、もうすぐ門限だから学院に急ぎ戻りなさい。寄り道などもっての外ですよ」
何事もないようにエナメスは懐中時計を懐に戻した。どうやらこの人に今すぐシュロムに危害を及ぼす気はないらしい。
「あ、あぁ、そうですね。早く帰ろっと」
エナメスがまず先に立ち去ったところで、シュロムもぎこちなく学院に戻り始める。
身構えたティラはまだ動かない。
「このまま、引き下がると思わない方がいいのですよ」
背後からティラの恨みがましい声が降りかかる。
振り返った先の彼女の表情など想像するだけで恐ろしかった。
まさか統制委員の長に見逃してもらえるとは思わなかった。
とはいえ、証拠掴みのために泳がされている可能性も否定はできない。
少なくともティラという統制委員には完全に要注意人物として敵視されているのだ。
よりにもよって厄介な人物に目を付けられたものだ。
これからはもっと慎重にアルバイトのやり方を考えなければ魔導書を手に入れることが出来ない。
以来、シュロムはあれこれ腐心する羽目になるのだが、次の危難は彼が最も想像していなかった方面から既に迫りつつあった。
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「あら、もうこんな時間ですね。二人とも、もうすぐ門限だから学院に急ぎ戻りなさい。寄り道などもっての外ですよ」
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