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3章: 威厳なき名家

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「ああ、もう! 腹の立つこと!!」
 帰りの道中、フェリスが勢いよく路傍の石を蹴り上げた。
「自分の領土というのに、なんて無責任な態度!」
「フェリスさん。最初に言ったはずですが、どうして僕に交渉を初めから任せてくれなかったんですか?」
「でしゃばったことは、謝ります。ですが、あの領民を見下す態度が許せなくて」
「それはわかります。領主として、当然のことだと思います。でもフェリスさんも、名家の出身なのですよね? いくら志の高くても、普通だったらそんなに下々の人間のために熱くならないかと」
「・・・・・・私も、以前は同じ立場だったからですよ」
「貴族の出身、ではないのですか?」
「本当は私、スラム街の出身だったんです。仲間の子供達と露天商で盗みを働きながらなんとか暮らせていたのを覚えています。ところがある日、仲間だった友達の一人がスリに失敗して、気が付いた頃には帝国の警備隊に捕まってしまいました。どうなるんだろうと、暗い牢の中で怯える中、私は比較的年長の方で、他の子供達を妹、弟のように面倒を見てきましたから、彼らをずっと励まし続けていました。大丈夫、私が絶対皆を守るからと」
 しかし、相手によっては帝国での盗みは重罪だ。
 そのまま釈放されて今は貴族となるはずがない。
「ある日、牢に一人の貴族が訪れました。私の養父であるトレスデン家の人間でした。実は彼は一人娘を病で失ったのです。名家で子供を早くに亡くすのは、世間体的に受け入れられるものではありませんでした。そこで彼は私達の中からその替え玉を選ぼうとしたのです。スラム街の孤児ならば親がはっきりしないので、むしろ逆に都合が良かったのです。そうして容姿的に最も似ていたとされる私が選ばれました。私にしてもこれはチャンスだと思ったのです。貴族になり切れたら、あの子達を解放して一緒に暮らせる。トレスデン家が軍属だということは後で知りましたが、それでも私は必死で剣と魔法の研鑽に励みました。私の素性を知る家の者や親戚から何を言われようと、脇目も振らず、ただ前に進むことだけを考えてここまで来ました。そうしてようやく、ある程度の財力を手に入れた後、あの子達との再会を図りましたが、既に奴隷商に売られて皆、各地へ散り散りになっていました。本当は、私もガウリゼン男爵を避難できる立場ではないのです。ただ、守れるだけの力が現にありながら、怠慢で動こうとしない彼に、つい腹を立ててしまいましたが」
「それで、従者や村人達を大事に思うんですね」
「あなたと最初に会った時も、てっきり貴族の立場を利用してシアさんにひどいことをしているのかと早とちりしてしまいました。本当は、あの時の私はいまだに誰も救えずにいる自分自身に腹を立てていたのかもしれません。今でさえ、あの村の人達に、何もさせてあげられないなんて」
「でも、前進することはできました。収穫も得られました」
「収穫? その空手形が、ですか? あのデブ男爵ではありませんけど、あの土地を本当にその金額で買う領主がいますでしょうか?」
「いますよ。もっとも、こちらがそのメリットを提案できれば、の話ですが」
「ですから、そのメリットとやらをどう提案すればよいのかと聞いているのです。あなたもこの痩せた土地を見たでしょう? 大金を払うに値する鉱脈も作物も、産業もないというのに一体どうやって?」
「何もない。本当に、そうでしょうか?」
「では、何があるというのですか?」
「それは村に帰って話しましょう」
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