30 / 58
3章: 威厳なき名家
13
しおりを挟む
荒れ地のオアシス、とでも表現すればいいのだろうか。
荒廃した大地の一点に、一ヵ所だけ緑豊かな土地に囲まれてガウリゼンの屋敷は建っていた。
見方によってはなけなしの荒れ地の緑を全て自分の周りに引き寄せたと表現することもできる。
「士官学校の学生が?」
鉄格子の門の前で衛兵に誰何されて、レムダ達は身分を明らかにした。
「ええ、今はアトロネーゼの集落に逗留しています。防衛任務に携わらせて頂くにあたり、この地を直轄するガウリゼン男爵にご挨拶するのが礼儀と思いまして」
「・・・・・・そうですか。お待ちください」
衛兵はレムダ達を残して先に屋敷に入った。
「臭いますね。どうして私達を素直に通さないのか」
「今頃、都合の悪い事実をどう隠そうかと言い訳をこしらえているのかもしれません」
「アトロネーゼ地方の防衛を放棄している件ですか?」
「いえ、その裏にある、もっと重大な事実を、です」
フェリスがそれを訊く前に、衛兵が戻って来た。
「お待たせいたしました・・・・・・どうそ、お入りください」
レムダ達は真っ直ぐ客室に通される。
まるで、他に見られてはいけない部分があるとでも言うかのように、案内役の執事は急ぎ足だった。
「では、男爵閣下をお呼びしますのでお待ちください」
「お気遣い、感謝します」
淹れられた紅茶の香りを愉しみながら、レムダは席に腰かけた。
それにしても主人は中々現れなかった。
「いつまで待たせるのでしょう。この間に昨日の野盗が仕返しに来たら・・・・・・」
部屋を行き来しながら、フェリスが窓の外を見遣る。
「大丈夫。そのためにシアを留守番にしたので」
「だからって、あの子一人では」
「おおっ、お待たせしましたな!」
出張った腹を抱える貴族風の男が、何とかドアの隙間を潜り抜けた。
「お初にお目にかかります。ガウリゼン男爵閣下」
レムダが立ち上った。
「結構、結構。帝都より遠路はるばるご足労でしたな。アトロネーゼ地方に滞在されたとお聞きするが宿の方は?」
「国境側の村にお世話になっています。ご存じでは?」
向かいに腰かけると、体重で椅子が軋む。
それほど豊かでない土地で、どうしてここまで肥大化した身体が育つのだろうか。
「失礼、失礼。あの地方にはあまり出向かないものでして」
「ご自身の領土にもかかわらず、ですか?」
フェリスが口を尖らせる。
「領土と言っても、何もない荒れ地でしょう。私も若い頃は開墾を夢見ましたが、どんな作物も育たたず、今は住む者さえいないのが現状です」
「いえ、あの地域にはまだ少数ですが村人がおります。そして、領主様の庇護がないために日夜、無法者の脅威に怯えているのです」
フェリスが厳しい口調で言うと、ガウリゼン男爵はたるんだ唇を歪めた。
「・・・・・・本題に移りましょうか。今日はいかなる要件で?」
荒廃した大地の一点に、一ヵ所だけ緑豊かな土地に囲まれてガウリゼンの屋敷は建っていた。
見方によってはなけなしの荒れ地の緑を全て自分の周りに引き寄せたと表現することもできる。
「士官学校の学生が?」
鉄格子の門の前で衛兵に誰何されて、レムダ達は身分を明らかにした。
「ええ、今はアトロネーゼの集落に逗留しています。防衛任務に携わらせて頂くにあたり、この地を直轄するガウリゼン男爵にご挨拶するのが礼儀と思いまして」
「・・・・・・そうですか。お待ちください」
衛兵はレムダ達を残して先に屋敷に入った。
「臭いますね。どうして私達を素直に通さないのか」
「今頃、都合の悪い事実をどう隠そうかと言い訳をこしらえているのかもしれません」
「アトロネーゼ地方の防衛を放棄している件ですか?」
「いえ、その裏にある、もっと重大な事実を、です」
フェリスがそれを訊く前に、衛兵が戻って来た。
「お待たせいたしました・・・・・・どうそ、お入りください」
レムダ達は真っ直ぐ客室に通される。
まるで、他に見られてはいけない部分があるとでも言うかのように、案内役の執事は急ぎ足だった。
「では、男爵閣下をお呼びしますのでお待ちください」
「お気遣い、感謝します」
淹れられた紅茶の香りを愉しみながら、レムダは席に腰かけた。
それにしても主人は中々現れなかった。
「いつまで待たせるのでしょう。この間に昨日の野盗が仕返しに来たら・・・・・・」
部屋を行き来しながら、フェリスが窓の外を見遣る。
「大丈夫。そのためにシアを留守番にしたので」
「だからって、あの子一人では」
「おおっ、お待たせしましたな!」
出張った腹を抱える貴族風の男が、何とかドアの隙間を潜り抜けた。
「お初にお目にかかります。ガウリゼン男爵閣下」
レムダが立ち上った。
「結構、結構。帝都より遠路はるばるご足労でしたな。アトロネーゼ地方に滞在されたとお聞きするが宿の方は?」
「国境側の村にお世話になっています。ご存じでは?」
向かいに腰かけると、体重で椅子が軋む。
それほど豊かでない土地で、どうしてここまで肥大化した身体が育つのだろうか。
「失礼、失礼。あの地方にはあまり出向かないものでして」
「ご自身の領土にもかかわらず、ですか?」
フェリスが口を尖らせる。
「領土と言っても、何もない荒れ地でしょう。私も若い頃は開墾を夢見ましたが、どんな作物も育たたず、今は住む者さえいないのが現状です」
「いえ、あの地域にはまだ少数ですが村人がおります。そして、領主様の庇護がないために日夜、無法者の脅威に怯えているのです」
フェリスが厳しい口調で言うと、ガウリゼン男爵はたるんだ唇を歪めた。
「・・・・・・本題に移りましょうか。今日はいかなる要件で?」
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる