19 / 58
3章: 威厳なき名家
2
しおりを挟む
「敵の戦略をまとめればこういうことではないでしょうか。対岸側の少数兵力を囮に、我が軍を川の対岸へ誘い込む。橋を渡ったところで、背後から伏兵が我が軍の後方を突き、橋を境にこちらの戦力を分散。そこへ対岸側から増援兵力が我が軍の前衛を殲滅し、後方支援の脆弱な兵力を全軍で叩き潰す。こうなっては我が軍は壊滅です。だからいっそ、こんな橋は落としてしまって、先に自分達がいる岸部の安全を確保するべきです。そうすれば敵は味方を助けたくても助けられない。後はゆっくり川を渡る方法を考えればいいのではないでしょうか?」
「・・・・・・見事だ」
教授は眼鏡をずり下ろしながら拍手を打った。
「まさにこの課題の模範的解答だ」
「異議があります! 川の両岸に敵の戦力があるという条件は、そもそも提示されていません」
「提示されてはいませんが、それがないとは言い切れないでしょう? 実際の戦争はこの川の近辺だけに留まらない。少なくとも戦線全周の兵力に気を配らないと、命取りになりますよ?」
度重なる反論を難なくやってのけるフェリスに、立ち向かう者は遂にいなくなった。
「一つ教えてくれ。フェリス君。君はこの話を、前もって他の誰かから聞いたのかね?」
「いいえ、さっきの教授のお話が初めてです」
「あの」
レムダが間延びした声と共に手を上げた。
「まだ何かあるのかね? レムダ君」
「いえ、橋を落とす策略は妙案だと思いますが、実際にどうやって壊すんでしょうか?」
「そんなの・・・・・・橋げたを抜くなり、柱を切り落とすなりいくらでもあるでしょう?」
「もしその橋が、堅牢な石橋だとしたら? 橋を渡らないにしても、戦略は修正しなければなりませんよね」
「そんなこと・・・・・・実際の橋を見て考えればいいだけのことでは? 最終手段として、帝国には魔導士だって大勢いるのですよ」
「魔導士と言っても、有事となれば貴重な戦力の彼らを集結できるでしょうか?」
ここで教授が咳払いをする。
「気は済んだかな? レムダ君。ともあれ、今の解答は実に興味深かった。皆も、教本の基本戦略によらず、フェリス君のように敵の戦術の真意を見抜くように。今日の講義はこれまでだ」
タイミングよく鐘楼が正午を報せ、学生達は各々荷物をまとめて立ち上がる。
そんな中、レムダはいち早く行動を出て行った。
「・・・・・・見事だ」
教授は眼鏡をずり下ろしながら拍手を打った。
「まさにこの課題の模範的解答だ」
「異議があります! 川の両岸に敵の戦力があるという条件は、そもそも提示されていません」
「提示されてはいませんが、それがないとは言い切れないでしょう? 実際の戦争はこの川の近辺だけに留まらない。少なくとも戦線全周の兵力に気を配らないと、命取りになりますよ?」
度重なる反論を難なくやってのけるフェリスに、立ち向かう者は遂にいなくなった。
「一つ教えてくれ。フェリス君。君はこの話を、前もって他の誰かから聞いたのかね?」
「いいえ、さっきの教授のお話が初めてです」
「あの」
レムダが間延びした声と共に手を上げた。
「まだ何かあるのかね? レムダ君」
「いえ、橋を落とす策略は妙案だと思いますが、実際にどうやって壊すんでしょうか?」
「そんなの・・・・・・橋げたを抜くなり、柱を切り落とすなりいくらでもあるでしょう?」
「もしその橋が、堅牢な石橋だとしたら? 橋を渡らないにしても、戦略は修正しなければなりませんよね」
「そんなこと・・・・・・実際の橋を見て考えればいいだけのことでは? 最終手段として、帝国には魔導士だって大勢いるのですよ」
「魔導士と言っても、有事となれば貴重な戦力の彼らを集結できるでしょうか?」
ここで教授が咳払いをする。
「気は済んだかな? レムダ君。ともあれ、今の解答は実に興味深かった。皆も、教本の基本戦略によらず、フェリス君のように敵の戦術の真意を見抜くように。今日の講義はこれまでだ」
タイミングよく鐘楼が正午を報せ、学生達は各々荷物をまとめて立ち上がる。
そんな中、レムダはいち早く行動を出て行った。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜
KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位!
VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!?
副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!!
ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・
ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・
しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる