14 / 58
2章: 戦術なき軍師
4
しおりを挟む
聞けば入学翌日から決闘が催されるというのは、この士官学校創設以来の珍事だという。
お陰で物見遊山のギャラリーが押し寄せ、当事者であるレムダさえもが会場入りに苦労する程だった。
決闘に選ばれた場所。
そこは長方形のバルコニーに囲まれた大理石造りのホールだった。
バルコニーが観戦席で、中央へ行くにしたがって石段を三段上がった先が闘技フィールドである。
これまた正方形の大理石が整然と並べられた空間で、戦いに地の利が生かせる余地はない。
もっともそんなものに頼るつもりは毛頭なかったのではあるが。
「ふん、逃げずに来るとは。そこだけは褒めてあげてもよくてよ」
フェリスはのこのこやって来たレムダを侮蔑的に眺めながら、腰のレイピアに指を掛けた。
フィールドに上がったのは決闘する二人に加え、もう一人いる。
物静かな中年の男が対峙する両者を交互に見ながら手を上げた。
「ではこれより校則第百七十八条一項に基づき、学生同士の決闘を開催する。なおこの決闘は同条二項に定める厳格な規則に基づいて実施し、勝敗の判定は学長であるハウフリーベンが証人として立ち会う。双方、決闘の前に申し立てはあるか?」
「ありません」
最初にフェリスがきっぱりと答えた。
「あの~」
レムダが遠慮がちに手を上げる。
「何だね?」
「最初に、この決闘の勝敗条件を教えてくれませんか?」
「は? あなた何を今更――」
「よかろう。決闘の勝敗要因は三つだ。双方のどちらかが死傷した時、あるいは昏倒、武器破損など戦闘継続な困難な状況に陥った場合、そして自ら決闘の敗北を審判に申告した場合のいずれかの条件が成立した時点だ」
「なるほど、よくわかりました」
「あら、私に勝てるとでも言うの」
「さて、どうですかね」
「ではこれより、フェリス=トレスデン及びレムダ=ゲオルグの決闘を執行する!」
「トレスデン!?」
「あっちはゲオルグだってよ? あの血塗られた一族の?」
錚々たる名前が立て続けに呼ばれ、会場内はどよめいた。
それは参加者とて例外ではなかった。
白の皮手袋に包まれたフェリスの指が、微かに震えているのがわかる。
「ゲオルグ? あなたが?」
「ええ、これでもあのゲオルグ家の三男ですよ」
「いいでしょう。相手にとって不足はありませんわ」
フェリスは剣を抜き放った。
甲高い鞘鳴りの音がホール内の空気を張り詰めさせる。
お陰で物見遊山のギャラリーが押し寄せ、当事者であるレムダさえもが会場入りに苦労する程だった。
決闘に選ばれた場所。
そこは長方形のバルコニーに囲まれた大理石造りのホールだった。
バルコニーが観戦席で、中央へ行くにしたがって石段を三段上がった先が闘技フィールドである。
これまた正方形の大理石が整然と並べられた空間で、戦いに地の利が生かせる余地はない。
もっともそんなものに頼るつもりは毛頭なかったのではあるが。
「ふん、逃げずに来るとは。そこだけは褒めてあげてもよくてよ」
フェリスはのこのこやって来たレムダを侮蔑的に眺めながら、腰のレイピアに指を掛けた。
フィールドに上がったのは決闘する二人に加え、もう一人いる。
物静かな中年の男が対峙する両者を交互に見ながら手を上げた。
「ではこれより校則第百七十八条一項に基づき、学生同士の決闘を開催する。なおこの決闘は同条二項に定める厳格な規則に基づいて実施し、勝敗の判定は学長であるハウフリーベンが証人として立ち会う。双方、決闘の前に申し立てはあるか?」
「ありません」
最初にフェリスがきっぱりと答えた。
「あの~」
レムダが遠慮がちに手を上げる。
「何だね?」
「最初に、この決闘の勝敗条件を教えてくれませんか?」
「は? あなた何を今更――」
「よかろう。決闘の勝敗要因は三つだ。双方のどちらかが死傷した時、あるいは昏倒、武器破損など戦闘継続な困難な状況に陥った場合、そして自ら決闘の敗北を審判に申告した場合のいずれかの条件が成立した時点だ」
「なるほど、よくわかりました」
「あら、私に勝てるとでも言うの」
「さて、どうですかね」
「ではこれより、フェリス=トレスデン及びレムダ=ゲオルグの決闘を執行する!」
「トレスデン!?」
「あっちはゲオルグだってよ? あの血塗られた一族の?」
錚々たる名前が立て続けに呼ばれ、会場内はどよめいた。
それは参加者とて例外ではなかった。
白の皮手袋に包まれたフェリスの指が、微かに震えているのがわかる。
「ゲオルグ? あなたが?」
「ええ、これでもあのゲオルグ家の三男ですよ」
「いいでしょう。相手にとって不足はありませんわ」
フェリスは剣を抜き放った。
甲高い鞘鳴りの音がホール内の空気を張り詰めさせる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる