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序章: 物資なき激戦
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システムエンジニアにとって何よりも恐れるものは四つある。
失業、残業、システム障害、そして自らが手掛ける仕事でのプロセッサ(CPU)の消滅である。
最近はCPU機種に依存しないプログラミング言語が人工知能やデータサイエンス領域で普及したが、その種のプログラミングスキルを身に付けた人材は他社の高給に魅了され、この会社には目もくれなかった。
そこでハードウェア制御言語に近い旧型言語が会社の主力となったが、この種の言語では特定のプロセッサ以外では言語を移植(他の機械でも動作させること)するための手直しや、最悪全くのごみ屑と化してしまう恐れさえもあった。
もっとも、欧米で生産されている大手プロセッサメーカーであれば他社からも圧力がかかるからそう簡単にディスコン(生産中止)に踏み切ることはできないが、如何せんこの会社の特質である。
機能的にも値段的にも中枢を占めるプロセッサさえ、ケチをつけるのは当然の成り行きだった。
「どうするんだ、さっきまでの作業が今の電話一本で全部無に帰したぞ」
プロジェクトは完全に手詰まりになった。
いわばすごろくの振出しに戻ったと言ってもいい。
「すまなかった、今日はもう帰っていい」
動揺する部下や同僚達を背に、男は無意味と化した進捗グラフの紙を剥ぎ取った。
抜け落ちた画鋲が床の上を独楽のように回って、やがて止まる。
「明日、社長に事情を話す。皆、今日まで本当にご苦労だった」
最後までついて来てくれた部下達は一人、また一人と去っていく。
最後まで共に戦ってくれた同僚が彼の肩を叩く。
「お前はよくやったよ。ただ、運に恵まれなかっただけだ」
運、という言葉で片付けてよいのだろうか。
最初は人一倍のプログラミングスキルさえあれば何でもできると思っていた。
でも物がない、人がない、運が悪いなどの悪条件の前では十分に力を発揮できなかった。
そもそも、自分の能力など最初から大したことがなかったのだろうか。
最後の一人の姿がなくなったところで、彼はようやく三日間稼働し続けたデスクのパソコンを落とした。
「最初から、十分な戦力さえあれば・・・・・・」
予算も人員も、物資もあれば、こんな激闘はそもそも必要なかったんじゃないのか。
今更そんなことを思っても仕方がないことはわかっている。
プロジェクトの打ち切りは決定され、同時に彼は会社の席を自ら手放した後だった。
折悪くして激務の疲労がたまり、今や心身ともに再就職する余力すら残されていない。
残り少なくなった貯金の残高は、もうあと少しとなった彼の一生をカウントダウンするかのように、徐々にその桁を減らしていくのだった。
失業、残業、システム障害、そして自らが手掛ける仕事でのプロセッサ(CPU)の消滅である。
最近はCPU機種に依存しないプログラミング言語が人工知能やデータサイエンス領域で普及したが、その種のプログラミングスキルを身に付けた人材は他社の高給に魅了され、この会社には目もくれなかった。
そこでハードウェア制御言語に近い旧型言語が会社の主力となったが、この種の言語では特定のプロセッサ以外では言語を移植(他の機械でも動作させること)するための手直しや、最悪全くのごみ屑と化してしまう恐れさえもあった。
もっとも、欧米で生産されている大手プロセッサメーカーであれば他社からも圧力がかかるからそう簡単にディスコン(生産中止)に踏み切ることはできないが、如何せんこの会社の特質である。
機能的にも値段的にも中枢を占めるプロセッサさえ、ケチをつけるのは当然の成り行きだった。
「どうするんだ、さっきまでの作業が今の電話一本で全部無に帰したぞ」
プロジェクトは完全に手詰まりになった。
いわばすごろくの振出しに戻ったと言ってもいい。
「すまなかった、今日はもう帰っていい」
動揺する部下や同僚達を背に、男は無意味と化した進捗グラフの紙を剥ぎ取った。
抜け落ちた画鋲が床の上を独楽のように回って、やがて止まる。
「明日、社長に事情を話す。皆、今日まで本当にご苦労だった」
最後までついて来てくれた部下達は一人、また一人と去っていく。
最後まで共に戦ってくれた同僚が彼の肩を叩く。
「お前はよくやったよ。ただ、運に恵まれなかっただけだ」
運、という言葉で片付けてよいのだろうか。
最初は人一倍のプログラミングスキルさえあれば何でもできると思っていた。
でも物がない、人がない、運が悪いなどの悪条件の前では十分に力を発揮できなかった。
そもそも、自分の能力など最初から大したことがなかったのだろうか。
最後の一人の姿がなくなったところで、彼はようやく三日間稼働し続けたデスクのパソコンを落とした。
「最初から、十分な戦力さえあれば・・・・・・」
予算も人員も、物資もあれば、こんな激闘はそもそも必要なかったんじゃないのか。
今更そんなことを思っても仕方がないことはわかっている。
プロジェクトの打ち切りは決定され、同時に彼は会社の席を自ら手放した後だった。
折悪くして激務の疲労がたまり、今や心身ともに再就職する余力すら残されていない。
残り少なくなった貯金の残高は、もうあと少しとなった彼の一生をカウントダウンするかのように、徐々にその桁を減らしていくのだった。
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