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1章: 刃なき剣
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レムダが近づくと、少女は狂犬のように八重歯を剥きだした。
「君は、やっぱり赤眼族か?」
「赤眼族? あの奴隷の?」
赤眼族は帝国の北の辺境に暮らす狩猟民族だ。
ただ狩猟民族とはいっても、生計の大部分は他民族を襲う略奪稼業によって成り立っており、北方に版図を広げようとする帝国とさえ、果敢に抵抗した。
もっとも、近代化した軍の帝国にあっけなく敗れ、賠償として一族は帝国の市場で最も価値の低い肉体労働系の奴隷として頻繁に売り買いされている。
少女がかろうじて身にまとっている装束は恐らく前の主人が着せたものだろう。
一見すると愛くるしい外見を気に入って買われたのだろうが、主人に逆らって捨てられたのか、あるいは自分から逃げ出したかで、こうしてその日暮らしの野菜泥棒を始めたのだろう。
「放せ――私は、誇り高き族長の娘だぞぉ!!」
「はっ! 嘘をつけ!」
村人は信じなかったが、まんざら嘘でもなかろう。
というのは赤眼族とは帝国が便宜的に彼らを総称した呼び方で、実際は彼らの中にも多種類の部族や派閥が存在すると言われているのだ。
つまり、族長の出自の者が何人いても不思議ではない。
まあ、結局は一族総まとめで奴隷に駆り出されたのだから、無意味な肩書ではあるが。
「何だ、お前!! 私を、どうするつもりだ!!」
「どうするもこうするも、今までのツケをきっちり払ってもらおうか!!」
レムダの前に割り込んだ村人が拳を丸める。
丸腰で宙づりになった少女にはなす術もない。
「・・・・・・お、おい! 私を本気で殴るつもりか? こんな可愛い女の子を殴るのか?」
――え? 意外と弱気になるか? 誇り高い族長の娘だろ?
「当たり前だ! よくもお前、俺の手塩にかけて育てたカボチャを・・・・・・一口かじっただけで捨ててくれたな!」
――おい、怒る所、微妙にずれてないか?
「当たり前だ! あんな硬くて甘くないもの食えるか!!」
「てめぇ!! その面に一発ぶち込んでやる!」
「待って下さい」
殴りかかろうとしたその時、レムダが止めた。
「その子は、僕に預けてくれませんか?」
「いや、しかしコイツは」
「村で出た被害額については補償します。その代わりと言っては何ですが、その子に着せる服を譲ってもらえないでしょうか」
「そんなことをしてどうする?」
「その子は僕の従者になってもらいます。明日の朝には一緒にここを発つ予定です」
「危険だ。また村を荒らされる! そもそもコイツは、あの野蛮な赤眼族なんだぞ?」
「どのみちこのままでは、生きる術がなくて他の場所で同じことをする。それともあなた達は、ここでこの子を殺めますか? それで、自分達が赤眼族と違うと断言できますか?」
「ぐぅ・・・・・・」
「もちろん、従者とする以上、彼女の素行には僕が全責任を負います」
「ならば、仕方がないのか。しかし、これ以上の面倒事は勘弁してくれよ」
レムダの顔を立て、村人達はずこずこ引き下がる。
最後に残ったレムダが少女を網から解放した。
「ふん、一人は話の分かる奴がいるか――ってイタ!! 何するんだよ!!」
「主人に口答えする奴隷は仕置きが必要だからな」
レムダは拳骨を容赦なく振り下ろしていた。
「君は、やっぱり赤眼族か?」
「赤眼族? あの奴隷の?」
赤眼族は帝国の北の辺境に暮らす狩猟民族だ。
ただ狩猟民族とはいっても、生計の大部分は他民族を襲う略奪稼業によって成り立っており、北方に版図を広げようとする帝国とさえ、果敢に抵抗した。
もっとも、近代化した軍の帝国にあっけなく敗れ、賠償として一族は帝国の市場で最も価値の低い肉体労働系の奴隷として頻繁に売り買いされている。
少女がかろうじて身にまとっている装束は恐らく前の主人が着せたものだろう。
一見すると愛くるしい外見を気に入って買われたのだろうが、主人に逆らって捨てられたのか、あるいは自分から逃げ出したかで、こうしてその日暮らしの野菜泥棒を始めたのだろう。
「放せ――私は、誇り高き族長の娘だぞぉ!!」
「はっ! 嘘をつけ!」
村人は信じなかったが、まんざら嘘でもなかろう。
というのは赤眼族とは帝国が便宜的に彼らを総称した呼び方で、実際は彼らの中にも多種類の部族や派閥が存在すると言われているのだ。
つまり、族長の出自の者が何人いても不思議ではない。
まあ、結局は一族総まとめで奴隷に駆り出されたのだから、無意味な肩書ではあるが。
「何だ、お前!! 私を、どうするつもりだ!!」
「どうするもこうするも、今までのツケをきっちり払ってもらおうか!!」
レムダの前に割り込んだ村人が拳を丸める。
丸腰で宙づりになった少女にはなす術もない。
「・・・・・・お、おい! 私を本気で殴るつもりか? こんな可愛い女の子を殴るのか?」
――え? 意外と弱気になるか? 誇り高い族長の娘だろ?
「当たり前だ! よくもお前、俺の手塩にかけて育てたカボチャを・・・・・・一口かじっただけで捨ててくれたな!」
――おい、怒る所、微妙にずれてないか?
「当たり前だ! あんな硬くて甘くないもの食えるか!!」
「てめぇ!! その面に一発ぶち込んでやる!」
「待って下さい」
殴りかかろうとしたその時、レムダが止めた。
「その子は、僕に預けてくれませんか?」
「いや、しかしコイツは」
「村で出た被害額については補償します。その代わりと言っては何ですが、その子に着せる服を譲ってもらえないでしょうか」
「そんなことをしてどうする?」
「その子は僕の従者になってもらいます。明日の朝には一緒にここを発つ予定です」
「危険だ。また村を荒らされる! そもそもコイツは、あの野蛮な赤眼族なんだぞ?」
「どのみちこのままでは、生きる術がなくて他の場所で同じことをする。それともあなた達は、ここでこの子を殺めますか? それで、自分達が赤眼族と違うと断言できますか?」
「ぐぅ・・・・・・」
「もちろん、従者とする以上、彼女の素行には僕が全責任を負います」
「ならば、仕方がないのか。しかし、これ以上の面倒事は勘弁してくれよ」
レムダの顔を立て、村人達はずこずこ引き下がる。
最後に残ったレムダが少女を網から解放した。
「ふん、一人は話の分かる奴がいるか――ってイタ!! 何するんだよ!!」
「主人に口答えする奴隷は仕置きが必要だからな」
レムダは拳骨を容赦なく振り下ろしていた。
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