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1章: 刃なき剣
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その夜、満月の出た夜空を小さな影が遮った。
村に面した崖を難なく飛び降り、小動物のような俊敏さで一気に畑を駆け抜ける。
途中、植えてある作物の前で立ち止まっては、蔓や葉ばかりしか茂っていないとわかると奥へ奥へと進んで行く。
やがて辿り着いた村の入り口付近。一台の荷車が止まっていて、その上に何かが置かれている。
むしろを退けると案の定、収穫したばかりの作物が籠一杯に積まれている。
顔をほころばせて大きな八重歯を押し当てようとしたその時だった。
「見つけたぞ! この野菜泥棒が!」
途端に村の入り口の門が閉ざされ、寝静まっていたはずの家の隙間から松明の明かりが殺到した。
村人の証言通り、盗人の正体はレムダよりも二つほど下の少女だった。
土ぼこりを被った髪はぼさぼさに乱れ、来ている衣服も随所が破れて白い柔肌をむき出しにしている。
それでも真紅の双眸と常人より明らかに目立つ八重歯だけは輝きを保っている。
「きいっ!!」
甲高い悲鳴を上げて、少女は荷車を飛び降りると守りが最も手薄な路地を選んだ。
殺気をまとって肉薄する少女を前に、村人達は農具を捨て、道を開ける。
だがこれは当初の計画通りだった。
「こいつ!!」
横合いから飛び出した伏兵役の村人達が棒を突き出して少女の足を払おうとする。
だが刹那のタイミングで繰り出されたにもかかわらず、それを避けた少女は包囲網を順調に突破していく。
「やぁ」
最後に立ち塞がったのは腰に剣を履いたままのレムダだ。
「少し話を聞いてくれるかな。お互いの利益のために」
「な、なにをっ!!」
少女は突進してレムダを抜こうとした。
これまでの武装した屈強な村の男に比べれば、自分と年の変わらない少年など、恐れるに足りないと踏んだのだろう。
「そこを、どけぇ!!」
「退いてもいいが、足元は気にしなくていいのかな?」
レムダがわざとらしく身を翻したその時だった。
レムダの向こうへ踏み出した少女の裸足が、突然土に呑み込まれた。
「ん、にゃあぁ!!」
あっという間に地面に大穴があき、奥底で少女は大の字にのびている。
「よし、作戦通りだ」
「こ、このぉ!!」
間もなく起き上がった少女は大きく地面を蹴って穴の外へ上がってくる。
恐るべき跳躍力だが、村人たちの証言からレムダはそのことを計算して、あえて穴の深さを調整していた。
「どわっ!!」
穴から飛び出た少女は、頭上に展開された網に自分から飛び込んだ形になった。
「よし、縛れ!!」
網の四隅をつかむ村人達が手際よく網の四隅を縛り、近くの枝に吊し上げる。
少女はあがくが、地面から遠く離れた足は空しく虚空を暴れるだけで、レムダが一日で編み上げた網からの束縛を逃れられなかった。
「掛ったぞ!! 俺達の勝利だ!!」
歓喜に沸く村人達を睨みながら、少女は尚ももがいていた。
村に面した崖を難なく飛び降り、小動物のような俊敏さで一気に畑を駆け抜ける。
途中、植えてある作物の前で立ち止まっては、蔓や葉ばかりしか茂っていないとわかると奥へ奥へと進んで行く。
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甲高い悲鳴を上げて、少女は荷車を飛び降りると守りが最も手薄な路地を選んだ。
殺気をまとって肉薄する少女を前に、村人達は農具を捨て、道を開ける。
だがこれは当初の計画通りだった。
「こいつ!!」
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だが刹那のタイミングで繰り出されたにもかかわらず、それを避けた少女は包囲網を順調に突破していく。
「やぁ」
最後に立ち塞がったのは腰に剣を履いたままのレムダだ。
「少し話を聞いてくれるかな。お互いの利益のために」
「な、なにをっ!!」
少女は突進してレムダを抜こうとした。
これまでの武装した屈強な村の男に比べれば、自分と年の変わらない少年など、恐れるに足りないと踏んだのだろう。
「そこを、どけぇ!!」
「退いてもいいが、足元は気にしなくていいのかな?」
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レムダの向こうへ踏み出した少女の裸足が、突然土に呑み込まれた。
「ん、にゃあぁ!!」
あっという間に地面に大穴があき、奥底で少女は大の字にのびている。
「よし、作戦通りだ」
「こ、このぉ!!」
間もなく起き上がった少女は大きく地面を蹴って穴の外へ上がってくる。
恐るべき跳躍力だが、村人たちの証言からレムダはそのことを計算して、あえて穴の深さを調整していた。
「どわっ!!」
穴から飛び出た少女は、頭上に展開された網に自分から飛び込んだ形になった。
「よし、縛れ!!」
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少女はあがくが、地面から遠く離れた足は空しく虚空を暴れるだけで、レムダが一日で編み上げた網からの束縛を逃れられなかった。
「掛ったぞ!! 俺達の勝利だ!!」
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