4 / 58
1章: 刃なき剣
2
しおりを挟む
中は薄暗く、脇の小さなラウンジや酒場にも人の気配はない。
宿帳は一年ほど前から更新されていない。
「あ、お客様ですか?」
丁度別用で奥から現れたと思しき店主がレムダの姿を視界に収めて立ち止まる。
「突然お邪魔してすいません。こちらで一泊したいのですが?」
「も、もちろんですとも。すいませんね。最近は閑古鳥が鳴くありさまでして、この宿も、今年のうちに廃業を決めています」
「しかしそれではここを通る旅人はますます・・・・・・」
「そりゃ、気の毒とは思いますが、何しろ商売をすると税金が掛かるものですから。収入は減るのに、負担額は変わらない。十年前に儲かっていた時はよかったのですが、今となっては」
「そうですか」
「同業も次々廃業して、今は村を出て行く者さえおります。お陰でこの寂れようですよ」
「いえ、のどかでよい村だと思います。わざわざ南の街道を通らずにこちらを通ってよかったです」
「そう、思いますか? のどか、と言いましてもねぇ・・・・・・」
宿の主人はやや沈んだ表情をした。
「どうかされたのですか?」
「いえ、何でもありません。ではここに、お名前を記入願えますか」
「わかりました」
「・・・・・・レムダ、ゲオルグ様でいらっしゃいますか。ゲオルグ・・・・・・ははは、これは失礼。まさかとは思いましたが」
「ええ、よく言われますよ。綴りまで同じ苗字だから、仕方のないことですが」
レムダは朗らかに笑った。
目の前にいる人物が、実は宿の主人の考えるゲオルグ家の人間だったということを隠そうとするかのように。
夕刻、読書に飽きたレムダは部屋の窓から外を眺める。
村の明かりは少なく、どこかで野犬が物寂しく吠えている。
まるで廃村のような景色だが、それでもレムダは動く影を見出した。
昼間見かけた、見回りをする村の男達である。
夜とあってか、彼らは尚も剣呑な表情で村を見回った。
こんな山間に近い集落だから、獣の侵入を恐れているのだろうか。
あるいはこの辺りで荒稼ぎを始めた山賊一味でも棲みついたのか。
「お客様、夕食の準備ができました」
そこへ、宿の主人がレムダを呼ぶ。
「ありがとう。ところで一つ、教えて欲しいのですが」
レムダはずっと気になっていた違和感を尋ねた。
宿帳は一年ほど前から更新されていない。
「あ、お客様ですか?」
丁度別用で奥から現れたと思しき店主がレムダの姿を視界に収めて立ち止まる。
「突然お邪魔してすいません。こちらで一泊したいのですが?」
「も、もちろんですとも。すいませんね。最近は閑古鳥が鳴くありさまでして、この宿も、今年のうちに廃業を決めています」
「しかしそれではここを通る旅人はますます・・・・・・」
「そりゃ、気の毒とは思いますが、何しろ商売をすると税金が掛かるものですから。収入は減るのに、負担額は変わらない。十年前に儲かっていた時はよかったのですが、今となっては」
「そうですか」
「同業も次々廃業して、今は村を出て行く者さえおります。お陰でこの寂れようですよ」
「いえ、のどかでよい村だと思います。わざわざ南の街道を通らずにこちらを通ってよかったです」
「そう、思いますか? のどか、と言いましてもねぇ・・・・・・」
宿の主人はやや沈んだ表情をした。
「どうかされたのですか?」
「いえ、何でもありません。ではここに、お名前を記入願えますか」
「わかりました」
「・・・・・・レムダ、ゲオルグ様でいらっしゃいますか。ゲオルグ・・・・・・ははは、これは失礼。まさかとは思いましたが」
「ええ、よく言われますよ。綴りまで同じ苗字だから、仕方のないことですが」
レムダは朗らかに笑った。
目の前にいる人物が、実は宿の主人の考えるゲオルグ家の人間だったということを隠そうとするかのように。
夕刻、読書に飽きたレムダは部屋の窓から外を眺める。
村の明かりは少なく、どこかで野犬が物寂しく吠えている。
まるで廃村のような景色だが、それでもレムダは動く影を見出した。
昼間見かけた、見回りをする村の男達である。
夜とあってか、彼らは尚も剣呑な表情で村を見回った。
こんな山間に近い集落だから、獣の侵入を恐れているのだろうか。
あるいはこの辺りで荒稼ぎを始めた山賊一味でも棲みついたのか。
「お客様、夕食の準備ができました」
そこへ、宿の主人がレムダを呼ぶ。
「ありがとう。ところで一つ、教えて欲しいのですが」
レムダはずっと気になっていた違和感を尋ねた。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる