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1章: 刃なき剣

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 その名もなき村は、古くから帝都へ上京する旅人が足掛かりとする宿場町として機能していた。
 しかし十年前に南方で山を切り拓いた街道が整備されるようになってから、わざわざ険しい山間部を経由して帝都入りしようと考える者は少なくなり、収入の柱を失った村は徐々に衰退しつつあった。
 そんな誰の目にも止まらなくなった地を、敢えて訪れる一人の若者がいた。
 今年十五歳を迎えたレムダは一族の慣例に従ってこの春より第十四区士官学校への入学が定められ、以降軍人としての道を歩むこととなっていた。
 もっともそれは、自身の意向というよりも、両親からの言いつけ、あるいは血縁に縛られた呪縛とも呼ぶべきか。
 ともあれ軍人になりたくないわけでもないレムダはとりあえず親との確執が鮮明化するのを避けて荒波を立てない道を選んだまでのこと。
 しかし、この村を訪れたことだけは純粋に彼の意思によるものだった。
「はて、こんな村に旅人とは珍しい」
 村の入り口一面にほろがる畑の真ん中で、老夫婦が珍し気に旅人装束を眺めていた。
「すいません。こちらの村の宿はどこですか?」
「それなら、村の広場の東側だよ。まだかろうじて一軒だけ営業しているからね」
 老夫婦に丁寧に頭を下げたレムダは畦道を通りながら村の風景を眺めた。
 村に一軒だけの宿以外に、この村に商業と呼ぶべき産業はなかった。
 畑の作物も穀類、イモ類が中心。
 他の集落と交易をするというより、自給自足のための栽培だろう。
 村の規模にもかかわらず、貯蔵倉庫が大きいのがその証拠だ。
 広場を行き交うのは、およそその近所の住人と思しき人々ばかり。
 真ん中の共用井戸で洗濯をしながら立ち話をする者、乾燥させた穀物棚を遊び場とする子供。
 気になったのは、農具を携えた男達がやや物々しい表情で村の見回りをしていたことだった。
「ここが宿屋か」
 朽ちかけた看板に宿の文字をようやく見出したレムダは玄関の脇に掛かる呼び鈴を鳴らして中に入った。
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