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5章: 侵略された民

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「私、やるわ」
 逡巡した挙句、一人のエルフの女が立ち上る。
 勇気を振り絞って立たせた足は震えていた。
 決意を固めながらも、その表情にはどこか不安げな色が混じっている。
「こう、すればいいんでしょ?」
 躊躇いがちにスカートをめくり、踵を返した彼女は四つん這いになって俺の前に尻を突き出した。
「そうそう、やればできるじゃないか」
 無論、その恰好はかなり無様だ。
 エルフの女は安心しつつも、内心は発狂しそうなくらいの羞恥心に苛まれている。
「じゃあ、私のことは見逃してくれるのですね?」
 彼女が交渉を前に進めようとしたところで俺は一つ、手を打った。
「そうだ。言い忘れていたことがあった」
「は? ぎゃうん!!」
 一瞬の出来事だった。
 無防備に突き出されたエルフの尻に、突如として俺の人差し指が突き刺さった。
 ただでさえ普段は下着と臀部に守られ陽の光さえ浴びることのないデリケートな部分だ。
 そこを荒々しくカンチョーなど受ければ、経験したことのない痛みと至高の屈辱感が襲い掛かる。
 物理的な苦痛に脆弱で、内面のプライドを傷つけられることを嫌う乙女にしてみれば、死神の大鎌に等しい無慈悲な一撃だろう。
 一瞬で気絶するのも無理もない。

「ひどい! どうして!!」
「勘違いするんじゃねえよ。俺はただ、この遊びのルールを説明していなかっただけだ?」
「ルールって何よ! 話が違うじゃないの!」
「いいや。最後まで人の話を聞け。確かに俺は、言う通りにすれば助けてやると約束した。だが、全員を助けるとは言っていない」
「どういうこと?」
「今の場合、俺の言う通りに尻を向けた奴の中から十人の中から一人の割合でカンチョーをする。つまり、残りの9人は助かるというわけだ。だがさっきの女は、自分一人だけで俺に尻を向けた。そうなれば当たりを引く確率はどれ位か、計算できるよな?」
 要するに、自分一人が恥を忍んで尻を出したところで助かる見込みはないということだ。
 現在のところ、気絶せずに辱められてもいないエルフは二十八人。
 その中の二人は確実に犠牲になるだろう。
 反面、自分が生き残れる確率は最低でも9割。
 こういう数字の罠に嵌められて、自分だけは多分大丈夫だろうという根拠のない安心感に浸るのは、人間もエルフも変わらない。
 次から次へと立ち上ったエルフが俺に尻を差し出した。
 それを見て、自分が憐れな犠牲者になる確率が少しでも下がったと安心して、他のエルフも追随する。
 俺の前に、尻の花畑が咲いた。
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