4 / 4
親の代わりに謝りに来ました
1
しおりを挟む
玄関を開け放つが、そこに人影はなかった。
いや、正確には小さな影を見落としていただけのこと。
玄関に縮みこまるように肩身を狭めた少女が立っていた。
小さな背中の背後のランドセルが、彼女の年齢をそれとなく示していた。
「君は?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「は?」
「ごめんなさい・・・・・・許してください」
「ごめん、謝られる理由がよくわからないんだけど」
「木を、切ったこと」
「木? ウチの?」
「アタシが、切りました・・・・・・」
「・・・・・・本当に、君が切ったの?ウチの植木を」
少女は答えなかった。ただ、澄んだ大きな瞳が私の方から反れるのを見れば、答えを聞くまでもなかった。
そもそもこんな子供にあれだけの違法伐採ができる体力などあるはずがないのだ。
こんな小さな子供に、三メートル以上の木から太い枝を切り落とすことなどできるはずがない。
明らかに成人、ひいては隣人が関与しているに決まっている。
「許して、くれますか?」
「許すも何も、君が木を切ったわけじゃないんだろう?」
「いえ、アタシが切りました」
「そうか。もしそうだとすれば、君だけではなく、親御さんもここに来るべきだと思うが」
「パパは・・・・・・悪くないので」
それはつまり、彼女の父親が一枚噛んでいるという自白だ。
全く、子供だから可愛いけど、親の共犯を認められるとなると・・・・・・
「ん? ちょっと待て。君、そもそもどこの家の子だ?」
彼女が指さしたのは予想通り、隣人宅だった。
そういえば、あの家には確かに女の子の生活感があったような。
「って、ことは・・・・・・」
恐ろしい、正確に言うなれば恐ろしくあきれるばかりの仮説が脳裏をよぎる。
この子は隣人宅の娘で、隣人が自分の犯行を我が子がやったと白状させて、許しを乞おうとしているのではあるまいか。
子供のやったことだからしょうがない。
そんな雰囲気にして手打ちにしようと思っているのだろう。
予想していたことが、すでに現実になろうとしている。
子供まで犯罪に巻き込むなんてだけだ。
この辺りで警察に通報して、この不毛な騒ぎを終わらせなければ。
「ごめん。悪いけど、うちの庭を荒らしたのはつまり君の父親だろう。君が謝れば許してもらえるとでも思ったのかもしれないが、これはっきりわかったよ。君の父親にはちゃんと罪を償ってもらう。それが将来は君のためでもある」
「駄目! それは、駄目なの!!」
少女は泣き出しそうな顔で私にしがみついた。
「お願い、だから。何でも、するから」
かくて、この珍事件はようやく前奏を終えたことになる。
この少女がこれから取った行動に、ただ唖然とするしかなかった。
いや、正確には小さな影を見落としていただけのこと。
玄関に縮みこまるように肩身を狭めた少女が立っていた。
小さな背中の背後のランドセルが、彼女の年齢をそれとなく示していた。
「君は?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「は?」
「ごめんなさい・・・・・・許してください」
「ごめん、謝られる理由がよくわからないんだけど」
「木を、切ったこと」
「木? ウチの?」
「アタシが、切りました・・・・・・」
「・・・・・・本当に、君が切ったの?ウチの植木を」
少女は答えなかった。ただ、澄んだ大きな瞳が私の方から反れるのを見れば、答えを聞くまでもなかった。
そもそもこんな子供にあれだけの違法伐採ができる体力などあるはずがないのだ。
こんな小さな子供に、三メートル以上の木から太い枝を切り落とすことなどできるはずがない。
明らかに成人、ひいては隣人が関与しているに決まっている。
「許して、くれますか?」
「許すも何も、君が木を切ったわけじゃないんだろう?」
「いえ、アタシが切りました」
「そうか。もしそうだとすれば、君だけではなく、親御さんもここに来るべきだと思うが」
「パパは・・・・・・悪くないので」
それはつまり、彼女の父親が一枚噛んでいるという自白だ。
全く、子供だから可愛いけど、親の共犯を認められるとなると・・・・・・
「ん? ちょっと待て。君、そもそもどこの家の子だ?」
彼女が指さしたのは予想通り、隣人宅だった。
そういえば、あの家には確かに女の子の生活感があったような。
「って、ことは・・・・・・」
恐ろしい、正確に言うなれば恐ろしくあきれるばかりの仮説が脳裏をよぎる。
この子は隣人宅の娘で、隣人が自分の犯行を我が子がやったと白状させて、許しを乞おうとしているのではあるまいか。
子供のやったことだからしょうがない。
そんな雰囲気にして手打ちにしようと思っているのだろう。
予想していたことが、すでに現実になろうとしている。
子供まで犯罪に巻き込むなんてだけだ。
この辺りで警察に通報して、この不毛な騒ぎを終わらせなければ。
「ごめん。悪いけど、うちの庭を荒らしたのはつまり君の父親だろう。君が謝れば許してもらえるとでも思ったのかもしれないが、これはっきりわかったよ。君の父親にはちゃんと罪を償ってもらう。それが将来は君のためでもある」
「駄目! それは、駄目なの!!」
少女は泣き出しそうな顔で私にしがみついた。
「お願い、だから。何でも、するから」
かくて、この珍事件はようやく前奏を終えたことになる。
この少女がこれから取った行動に、ただ唖然とするしかなかった。
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる