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始まりはしょうもない理由から
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「え、隣人宅を訴えるですって!?」
頓狂な声を上げたその時だった。
ふと隣人宅の二階の窓のカーテンが揺れた気がした。
「いや、これは完全な犯罪ですよ。訴えなきゃダメです」
「確かに、器物損壊には当たるかもしれませんが・・・・・・しかし植木位で訴えるというのは」
「たかが植木じゃないですよ。民法上はれっきとした資産の一つなんです。この業界で商売しているとわかりますけど、植木は結構な値打ち物ですよ。旦那の家にだって、五十万円は下らない植木が何本もある。それを奴さんは切り落としたんだ。枝ぶりが変われば当然価値が下がりますから、既に旦那は百万円近い損害を受けた話になる」
「百万・・・・・・」
思っていた以上の額だったとは。自動車をぶつけられてボディがへこんだどころの話ではない。
「そもそも旦那には植木を切られる理由なんかあっちゃいないんだ。タダの言い掛かりだけで迷惑な話ですよって、訊いているんですか?」
「あ、はい。いや、ウチの木がそんなに価値があったなんて、驚いていただけです」
何とか誤魔化したが、ふと垣根の向こうで子供の気配を感じていた。
走り去った子供は疾走して隣人宅の中に駆け込んでいく。
その様子に気が付いた植木屋が軽蔑の眼差しを向けていた。
「何でしょうね、あれは」
「わかりません。そもそもお隣さんは、一体何をしているのかもよくわからない人ですから」
「そんなの決まっているじゃないですか。こんな恐喝をして、暴力団みたいに金銭を巻き上げているんですよ。あんな野郎を放っておいたら社会悪だ。何だったら、裁判所で俺が証言してやってもいいですよ」
「いえ、親方にそんな」
いつの間にか撮影した犯行の証拠写真まで握らされて、完全に訴訟の渦中に呑み込まれていた。
ただでさえ庭を荒らされたことにショックなうえ、話が大きくなっていくことに思考が追いつかない。
ひとまず検討すると、その場を何とか収めたのだが、その日一日は何も手につかなかった。
妻も植木屋の親方も、これは犯罪だという。
だが、訴訟ともなれば隣人との関係は決定的になるだろうし、そもそも法的争いなどという経験はない。
未知の大海原に一度踏み込めば、こちらとて無傷で済まないだろう。
しかし、このまま黙っていればことが収まるとも思えない。
来年にはまた木々が繁茂し、同じやり取りが繰り返されるのだろう。
そうなれば、隣人の行動はさらにエスカレートするのではあるまいか。
その前にこちらも一線を越えればどうなるかを、警告するべきではないのか。
逡巡する最中、それは玄関の呼び鈴と共に静かに我が家を訪れた。
頓狂な声を上げたその時だった。
ふと隣人宅の二階の窓のカーテンが揺れた気がした。
「いや、これは完全な犯罪ですよ。訴えなきゃダメです」
「確かに、器物損壊には当たるかもしれませんが・・・・・・しかし植木位で訴えるというのは」
「たかが植木じゃないですよ。民法上はれっきとした資産の一つなんです。この業界で商売しているとわかりますけど、植木は結構な値打ち物ですよ。旦那の家にだって、五十万円は下らない植木が何本もある。それを奴さんは切り落としたんだ。枝ぶりが変われば当然価値が下がりますから、既に旦那は百万円近い損害を受けた話になる」
「百万・・・・・・」
思っていた以上の額だったとは。自動車をぶつけられてボディがへこんだどころの話ではない。
「そもそも旦那には植木を切られる理由なんかあっちゃいないんだ。タダの言い掛かりだけで迷惑な話ですよって、訊いているんですか?」
「あ、はい。いや、ウチの木がそんなに価値があったなんて、驚いていただけです」
何とか誤魔化したが、ふと垣根の向こうで子供の気配を感じていた。
走り去った子供は疾走して隣人宅の中に駆け込んでいく。
その様子に気が付いた植木屋が軽蔑の眼差しを向けていた。
「何でしょうね、あれは」
「わかりません。そもそもお隣さんは、一体何をしているのかもよくわからない人ですから」
「そんなの決まっているじゃないですか。こんな恐喝をして、暴力団みたいに金銭を巻き上げているんですよ。あんな野郎を放っておいたら社会悪だ。何だったら、裁判所で俺が証言してやってもいいですよ」
「いえ、親方にそんな」
いつの間にか撮影した犯行の証拠写真まで握らされて、完全に訴訟の渦中に呑み込まれていた。
ただでさえ庭を荒らされたことにショックなうえ、話が大きくなっていくことに思考が追いつかない。
ひとまず検討すると、その場を何とか収めたのだが、その日一日は何も手につかなかった。
妻も植木屋の親方も、これは犯罪だという。
だが、訴訟ともなれば隣人との関係は決定的になるだろうし、そもそも法的争いなどという経験はない。
未知の大海原に一度踏み込めば、こちらとて無傷で済まないだろう。
しかし、このまま黙っていればことが収まるとも思えない。
来年にはまた木々が繁茂し、同じやり取りが繰り返されるのだろう。
そうなれば、隣人の行動はさらにエスカレートするのではあるまいか。
その前にこちらも一線を越えればどうなるかを、警告するべきではないのか。
逡巡する最中、それは玄関の呼び鈴と共に静かに我が家を訪れた。
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