彼ノ女人禁制地ニテ

自慰煽情のアリア

文字の大きさ
2 / 11
FILE0: 女人禁制

2

しおりを挟む
 その夜、都心アパートの一室に深夜の刻限を過ぎてなお、灯の消えない一室があった。
「ちっ、何で再生数が増えないのよ」
 青白い光を発する液晶画面に向かって、部屋の借主、柏原鈴奈は唇をかみしめた。
 その渋面は白昼の動画で撮影した自身とはまるで他人の、深い闇を孕んだ形相だった。
 いや、正確に言えば動画の登場人物スズナとの相違点は人相だけではない。
 第一に、鈴奈自身は現役女子高生を名乗ってはいるものの、高校は十年以上も前に卒業している。
 今は地方から上京して、十年前までは存在すら知らなかったエレクトロニクス業界とか言う会社のOLとして働いているに過ぎない。
 ただ見た目が少し幼げに見えるとあって、通販で取り寄せた高校制服のコスプレ衣装を着こなして動画配信を続けたところ、それなりに人気が出たに過ぎない。
 第二に、動画のスズナはいわゆる男性の視線に鈍感ではあるが、鈴奈自身は演じながらその視線をひしひしと感じ取っている。
 彼女が見せる、ミニスカートの無防備な仕草や、破廉恥な醜態は全て計算によるもの。
 昼間の生活で彼女が経験してきた、上司や先輩社員達のセクハラまがいのスキンシップを我慢しながら、敢えてそれを逆手に取った行動を示すことで、ネット界でもそこそこ受けが良かった。
 実際、鈴奈自身も容貌には自負がある。
 森ガール、小動物系、癒し系妹――かつて周囲からそのような称号を冠してきただけあって、もうすぐ三十路を迎えようというのにまだ十代と見間違えられることもしばしばだ。
 厳密に言えば身体の各所には着実な加齢による変化が見え隠れするが、動画配信としての活動に支障はない。
 恐らくはスズナの動画をフォローするファンの半分は、彼女のサバ読みを真に受けているだろうと思ってはいるのだが。
 最近彼女の動画は、黎明期ほどもてはやされなくなってきた。
 一時は一日にして一万を超えた視聴者数だったが、最近は五千を超えることの方が珍しい。
 理由の一つとしては、鈴奈と同様のジャンルに参入してくる同業者が増え続けていることだ。
 『今日の下着見せます』『初めてのセ〇クスについて語ってみた』『彼女の○○を・・・・・・』と、タイトルだけでも十分に卑猥なコンテンツがスクロールバーの下から途切れなく現れる。
 スズナには決して届かない豊満な胸の持ち主や、外国人とのハーフ、クウォーターといった特殊属性の美女までが自身の魅力をありありと晒している。
 こうした競争の激化によって再生数が減るのは理解しつつも、金銭的に困窮するというのは受け入れがたい。
 目が眩むような家賃の支払いをまだあと何年も続けなければならないのに、本業の月収だけでは難しかった。
「何か、別の企画を考えないと」
 焦る鈴奈だが、悲しいことに彼女が容姿以外に武器にできるものは何一つないことを認めるしかなかった。
 投資、IT、料理のスキルがあるわけでもなく、学歴は短大経済学科。
 牛乳を鼻から飲むとか、そんなつまらない特技さえ彼女にはなかった。
 今はそれほどではなくとも、やがては現役女子高生などと名乗れなくなるだろう。
 その頃までに他で収入が得られる保証などない。
 二十代にして老後の不安を抱えるのは自分だけだろうか。
 そんなやり場のない気持ちにかられながら、鈴奈は平日の朝を迎えることとなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...