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3章: Happiness will be enjoyed when it is unequal.

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「ありがとうな。これで明日から安心して商売を続けられる」
 テラ=グレミアという最大の脅威が去り、アリーナの人々は喜びを取り戻した。
「いえ、こちらこそ身内がご迷惑をお掛けしました」
「なあ、王宮ってのは、あんな奴等ばっかりなのか?」
「・・・・・・まあ、ちょっと変わった人は多いですけど」
 チハルは苦笑いする。
 控えめな言い方をする時、人はよくこういう表情を作るものだ。
「でもチハルはやっぱり強いな。ウチのアリーナでてっぺん取れるんじゃないか?」
「そのうち、この仕事が終わったら一度、王都に来てみようと思います」
「その時はお手柔らかに頼むぜ」
 こうしてチハルは王宮に戻った。
 数々の悪行を働いたテラだったが、貴重戦力ということもあってか、王宮を追い出されるまでには至らず、数か月の謹慎と減給の処分に留まったようだ。
 もちろん、それにはチハルの擁護があったことは言うまでもない。
 だからフェミル連隊長はあまりいい顔はしなかった。
「あなたという人は、どうしてそうやって、自分の敵を周りに置き続けるの?」
「私は誰も王宮から追い出したいわけではありませんから」
「もし、私が敵に回ったとしても、同じことを言えるのかしら?」
「上官に刃向かおうとは思いません。今回のような、あまりにも理不尽な光景を目にしなければの話ですが」
「だったら、心配は無用ね」
「ところで・・・・・・皇太子殿下に親衛隊の誰かが呼ばれたって聞きましたけど?」
「その話は知らないわ。誰か、噂で知っている?」
 フェミル連隊長の仲間で、知る者はいなかった。
「それで、そのことが何か?」
「いえ、それが今回の騒動のきっかけになったので、ちょっと気になっただけですが」
「その噂は決して口外しないことよ。テラのように、余計な嫉妬心を刺激する輩が出るかもしれないわ」
「無論です。それで聞いてみただけです」
 結局それが誰なのかはわからないが、考えてみればその人物に悪意があったわけでもない。
 だからチハルは、それ以上のことは確かめなかった。
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スパークノークス

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