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3章: Happiness will be enjoyed when it is unequal.

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「そんなむやみやたらな攻撃で、この盾は抜けないよ!」
 事実、その通りだった。
 どんなに斬撃のバリエーションを変えても、まるでそれが読まれているかのように盾とぶつかった。
 このままいけばこちらの体力が尽きて今以上に不利になる。
 <アクチュライズ>の特殊スキルによってモーションの切れ味は保てるものの、やはり疲労はパフォーマンスに大きく響く。
 何か有効な策を見出さなければ。
 そう思ってはいるのだが、例の円盾がテラの動きを一層不可解なものにする。
 あの盾には斬撃だけでなく、慧眼をも貫かせない効果が秘められている。
「あっ!!」
 その時だった。
 チハルの日本刀が盾の上を滑り、切っ先が地面に突き刺さった。
 盾で剣が防がれる一方、テラのショートソードを阻むものはない。
 間違いなくテラにとっては反撃の好機・・・・・・となるはずだった。
 ところが、テラはショートソードを使わず、盾を突き出してチハルを押し返すだけだった。
 なぜ、盾を退けて剣を使わなかったのか。
 その行為に何か重要な意味が込められているような気がして、チハルはこれまでの動きを振り返る。
――もしかして
 ある一つの考えが閃いた。
 あの円盾の動き。テラの身体的特徴。
 もし仮説が正しければ、次の斬撃をテラは防げないはずだ。
「どうしたの? もう打つ手なし?」
「さあ、どうでしょうね」
 チハルがここでテラの横に回り込んだ。
 盾を前面に出して斜に構える彼女の、丁度正面に回り込む格好だ。
「んな!!」
 テラの円盾も動く。攻撃にも防御にも使える盾だが、今回は防御に回るだろうことは容易に想像がついた。
 正確にはそれだけでなく、円盾がどの位置に置かれるかもチハルにはわかっていた。
 正面、胸部前だ。
 その位置を見越して、振り上げた日本刀を下ろす。
 切れ味では何にも勝る日本刀がその本領を発揮する。
 円盾は真っ二つに割れて地面を転がった。
「うわあぁ!!」
 反動でテラの身体も投げ出される。
「どうして・・・・・・ボクが攻撃しないってわかった?」
「簡単なことですよ」
 テラの絶対的優位が崩れた今、チハルは種を明かした。
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