善行も野望もコツコツと ~叩き上げ聖女は追放されて帝国再建を計画する~

フルーツパフェ

文字の大きさ
上 下
5 / 13
序章: 聖女になるのにどれだけ大変だったと思っているの?

5

しおりを挟む
 もう山をいくつ越えただろうか。
 荷車に座っていたイシリアは急にがくんとした衝撃で転げ落ちそうになる。
「アンタ!!」
 イシリアの母が血相を変えて父に駆け寄った。
 荷車をここまで力強く牽いた父親が倒れ込んでいる。
 ボロボロになった靴の下の脚は傷だらけだ。
 額からは尋常ではない量の汗が流れ、呼吸も荒くなっている。
「・・・・・・俺はもう駄目だ。ここから先は、必要な荷物だけ持ってイシリアを頼む」
「何、言っているのよ。私達、三人で新しくやり直す場所に行くって決めたじゃない。荷車なら私が・・・・・・」
「・・・・・・多分、破傷風なんだ。こんな車を引っ張ったら、お前の脚もすぐに駄目になる」
「そんな」
「こんな夫で悪かったな」
 この日は立ち止まったその場所で野宿することになったが、早晩父親は息を引き取ったのだった。
 父を手厚く葬った母は、持てる限りの荷物だけをまとめ、イシリアの手を引いていく。
「ねえ、お父さん、どうしていなくなったの?」
「ごめんね。お父さんは、病気になったの」
「病気? でも、アーネット神様はここにいるよ?」
「そうね。でもさすがの神様にも、どうすることもできない状況だってあるのよ」
 母は寂しげに言いながらも、アーネット神の銅像だけは手放さなかった。
「どうして、どうしてお父さんを助けてくれなかったの?」
 イシリアは何度もアーネット神に尋ねたが、古めかしい女神像は何も言わず、ただただ、優しく微笑むだけだった。
「おや?」
 街道を歩いた途中、後ろから馬蹄の音が近づいたかと思うと、イシリア達の前で止まった。
 幌に包まれた馬車を駆る人のよさそうな御者が二人を見下ろしている。
「ご婦人方、どうかなされたのですか?」
「いえ、新しい住まいと仕事を探して旅をしている所でして」
「こんな山奥をですか? 良ければ、後ろの馬車に乗ってはいかがかな?」
「そんな。私達、お金は全然持っていなくて・・・・・・」
「そんな物、要りません。ここで会ったのも何かの縁でしょう。これから街を巡るから、好きな場所まで乗っていくといい」
「ありがとう、ございます」
 母は感涙に喉を詰まらせて礼を述べた。
 休むことなく動かし続けて棒になった足が、ようやく休息を取り戻した。
 馬車の中にはイシリア達と同じ事情で乗り合わせたと思われる乗客が、あと二人ほど居た。
 両名とも若い女性だったので、話しやすい間柄ではあった。
 苦難続きのイシリア達にようやく幸運が巡って来たと思われたころだった。
 どこかの街に着いたのか、馬車が止まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...