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特別編 記念話はIF、特別話は主人公たちの知りえない話です

おまけ 純と姫花

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 幽世村から帰って来て以来、純は自分の中の小さな変化に気がついていた。
 今まで全人類等しくゼロだった好感度が、姫花とそれ以外に変わっている。
 相変わらずラブとライクの違いはいまいちわからず、姫花も猫と同じくらいの好きさだが、それでも特別な人間が出来たことは純にとって確実な変化と言えるだろう。
 本人は、この変化について何とも思っていないが。

 「ねぇ姫花、ずっと私と居て飽きない?」
 「幼なじみにそんな事聞く?」

 最近一人暮らしを始めた純の家。
 ソファに座り、肩を寄せ合いながらホラー映画を見ていた時に、純はふとそんな事を姫花に聞いた。
 純は、熱量の差に気づいている。
 姫花から向けられる好意は圧倒的にラブであり、ずっと一緒に居たいとか、独占したいとかの深いものだ。
 一方、自分の中にある好意はラブかライクかもわからない浅いもの。
 そんな差のある好意の違いを、姫花は何とも思わないんだろうか。
 すごく好きで好きで、堪らない人が、自分の事を少ししか愛してくれなかったら。
 もし自分だったらと思うと、こうして傍に居てくれる姫花が不思議で仕方ない。

 「ねぇ、一緒に居て、嫌にならない?」
 「ならない。 純の事は純よりわかってるんだから」

 頭を片手で引き寄せられて、なでなでと頭を撫でられる。
 自分でも理解仕切れない純という存在を、姫花は自分よりわかっているのだと言う。
 人間にほとんど興味が無くて、愛についてもわからなくて、ほとんど匂いしか記憶に残らないようなこんな存在がわかるだなんて。
 姫花はよほど純という存在が好きなんだろう。
 自分の中の愛がわからなくても、人から与えられる愛はわかる。
 これだけ愛してくれるなら、その期待に応えないといけないかも知れない。

 「姫花、したい事、ある?」
 「一緒に映画が観たい。 だからこうやって観てるんでしょ?」

 姫花は賢い子だ。
 この質問がエッチな事を指していたのには気づいている。
 気持ち良くなるためではなく、愛を確かめるために何かしようかと聞いたのだが、姫花はそれをわかっていながら映画が観たいと答えた。
 確かめるまでもない、そういう事だろう。
 それならと、姫花の膝の上に座った。

 「普通、背の低い方が前だと思うんだけど」
 「前がよかった? 私はどっちでも良いよ?」

 姫花は少し鬱陶しそうな顔をして首を傾け、映画を観ている。
 姫花の、映画に対する好きさも相当な物だ。
 姫花は昔から映画が好きで、良く家族ぐるみで映画館に行った。
 じっと画面を見つめて動かない姫花がつまらなくて、ちょっかいをかけては叩かれたものだ。
 叩かれなくなっただけ、少しだけ映画との愛の差が縮まったんだろう。

 純は、本も映画もあまり好きではない。
 本や映画は匂いが弱い。
 文章や映像からは少ししか匂いがしてこなくて、実在する物と比べたらほとんど無臭だ。
 世界への興味のほとんど全てが匂いである純にとって、匂いが弱いのは存在が弱いのと同義だった。
 医者が言うには、感受性の弱さを補うための共感覚のひとつらしい。
 純の見聞きした全ては、まず匂いに変換される。

 「まだ映画苦手?」
 「少しだけ。 姫花と一緒だから大丈夫」

 体を後ろに倒し、姫花に体重をかける。
 姫花の香りが強くなる。
 華やかだけど落ち着く、とても良い香りだ。

 「あーあ、私だけにそうしてくれたらなぁ」
 「姫花にしか言わないよ? 他の人と一緒に観てたら退屈で寝ちゃうから」
 「違う、特別扱いの話」

 純は首を傾げて不思議そうな顔をしているが、姫花が問題にしているのは純の優しさについてだ。
 人類平等に好感度ゼロである純は、誰に対しても優しい。
 誰か一人を特別扱いする事は無く、助けを求められたら、求められた順番で全員を助けてしまう。
 前に気になってトロッコ問題を純に出したら、純はどっちでも良いよと答えた。
 トロッコが知らない人を何人轢こうが純には関係なく、トロッコの進路の切り替えなんてするはずがなかった。
 じゃあ片方が私だったら。
 当然のように浮かんだ疑問を、姫花は聞けなかった。
 にっこりと優しげな笑顔を浮かべる純がどっちでも良いよと答えたら、これまでと同じ関係で居られなくなると思った。

 「ねぇ、純。 トロッコの先にさ…… 」
 「なに?」

 声が震える。
 胸が締めつけられる。
 頭が痛くなる。

 「私と……知らない人が寝てたらどっちを助ける」
 「姫花」

 即答だった。
 純は人の気も知らず、なに当たり前の事聞いてるの、という顔を向けていた。
 涼しい顔が憎らしい。

 「予定変更。 やっぱりエッチな事するから」
 「やっぱりするんだ。 姫花も好きだね」

 その涼しい顔をめちゃくちゃにしてやりたくて、姫花は純をソファへと押し倒した。

 純の唇と姫花の唇が重なる。
 柔らかな感触と甘い香りが脳を刺激し、純の中の姫花の存在を大きくさせていく。
 今日のキスは少し乱暴で、濃厚だった。

 「ん……はっ……姫花、ちょっと苦し……」
 「ぷはっ……今回のは罰だから」
 「罰って、なん……の……」

 空気を求めて開いた口を姫花にすっぽりと覆われて、口内を好き放題嫐られる。
 舌が絡まり、歯の一本一本に至るまで舌になでられ、大量の唾液を飲まされる。
 頭が姫花の香りでいっぱいになって、体に力が入らなくなる。
 罰にしては優しく甘美で、姫花の目的がわからない。

 ちゅぱちゅぱという水音が室内に響く。
 重なり合う二人の体は汗が滲み、髪や服がぴったりと肌に張り付いている。
 濃厚な香りが部屋を包み込み、二人だけの世界を形成していく。
 快感で純の細い腰が上がり、反った体はその双丘を強調する。
 姫花の手が純の薄手のキャミソールへと伸びると万歳の形で両手を上げさせ、手首の位置まで一気に引き上げてしまった。
 純の白く美しい肌が露わになる。
 桜色の乳首はもう十分に硬く尖っており、触られるのを待っているかのようだ。

 「またいじめられちゃう?」
 「ううん、今日はうんと愛してあげる」

 姫花がその乳首を優しくなぞると、純の涼しい顔に熱が浮かんだ。
 慎重に形を確かめるように乳首を撫でる。
 小さくて、ぴんと天井を向いていて、微かに震えている。
 乳輪も小さく桜色でつるつるだ。
 顔に見合った、まるで作り物のような胸。
 美しさを追求した芸術品のような体が、姫花の指一本で悶えている。
 乳首をつんと押すと、純は顔を逸らして小さく鳴いた。

 「あんっ……」
 「ちゃんとこっち見て、全部私に見せて」
 「恥ずかしいよ……」
 「ダメ。 全部私だけに見せて」

 両手をキャミソールに縛られて、純は身動きが取れない。
 じっくりと責められた胸は熱を持ちじんじんとしている。
 妖しく微笑む姫花が少し怖い。
 そんな不安を悟られたのか、姫花はまた体を重ねてキスをしてきた。
 頭が真っ白になる。
 姫花に染まる。
 華やかで、優しくて、少し怖くて、儚くて。
 少しでも抵抗したら消えてしまいそうなその香りが、姫花の不安を教えてくれる。

 「嫌じゃないよ、姫花に抱かれるの」
 「ほんと……?」
 「うん。 温かくて好き」

 再び重なる唇と、姫花の香り。
 儚げな印象は消え去って、脳を蕩けさせ夢中にさせてしまうような、熟れた果物のような香りが混じった。

 姫花の手が純の乳房を揉んでいる。
 指を一本ずつ折り畳んで、弱い刺激を先端へと集めている。
 その感触がくすぐったくて、もどかしくて、純は体をぴくぴくと震わせた。
 乳首がさらに硬くなり、尖っていく。
 こうなってしまったらせっかくの芸術品が台無しだ。
 淫らにその存在を主張する乳首は、純の一部にしては下品すぎる。

 「ほら見て、こんなに尖ってる」
 「いやっ……恥ずかしいから……」
 「こんなにエッチな乳首して……純も本当はエッチなんじゃない?」
 「わかんないぃ……」

 ふっと息を吹きかけられ、純は大きく体を震わせた。
 発情した女の匂い。
 紅潮した肌。
 浮かぶ汗。
 潤んだ瞳。
 切なげな唇。
 その全てが淫らで美しい。
 堕ちきっていてはこうはならないだろう。
 快感の中にある戸惑いや恐れ、滲み出る期待が芸術の域まで高めている。
 未だスカートとショーツに隠された濡れそぼった秘部も、隠れているからこそ際立つものがある。
 姫花の手がスカート上からお腹を撫でると、純は似つかわしくない声を上げた。

 「おっ」
 「なに? おっ、って。 すっごく下品」
 「わかんないぃ……こんな声出るなんて知らなくて……」

 純はきゅっと目と口を閉じ、必死に顔を逸らしている。
 恥ずかしくて堪らない、どこかへ隠れてしまいたいというその表情が、姫花の独占欲を刺激する。
 純の出す下品な喘ぎ声も、刺激を求めて情けなく動くへこへことした腰の動きも、お漏らしのように愛液を流し続けるだらしない秘部も、姫花だけが知る特別だ。
 もっと、特別が欲しい。

 「顔、見せてよ」
 「無理……恥ずかしくて死んじゃう」

 顔を真っ赤にして逃げる純がいじらしい。
 姫花は両手で純の顔を押さえると、真っすぐにその顔を見た。
 
 「死んじゃいそう?」
 「なんで、そんなに意地悪するの?」

 潤んだ目でこんな事を言われたら歯止めが利かなくなる。
 姫花はまた体を重ね、キスをした。
 キスをしながら、胸を責める。
 縁から中心に沿って丁寧に揉み上げ、先端を摘まむ。
 先端に甘い痺れを集中させるようなその責めは、蕩けた純をあっさりと絶頂に導いた。
 
 「んぁっ……ひぅっ……」

 声にならない嬌声が純の口から漏れている。
 虚ろに開かれた口からはよだれがつたい、ソファを汚していた。
 跳ねる体が愛おしい。
 力を入れたら折れてしまいそうな細い腰が、刺激を求めてうねっている。
 秘部へと指を挿し入れたら、純はどうなってしまうのだろう。

 「ねぇ……ううん、なんでもない」
 
 快感に流され見た事も無い表情をする純に、姫花は続きを言うのをやめた。
 今日の分は十分だ。
 純とはこれまでの関係を崩さずに、少しずつ進めていけたら良い。
 穢れを知らない純のあそこに触れてしまったら、これまでの関係では居られなくなってしまう。

 「何がしたいか教えて? 姫花のしたい事なら、私もされてみたいから」

 身を焦がすような快感の中に居るというのに、純は涼しい笑顔を浮かべた。
 純の体を貪り、淫らに堕として、自分は特別だと思っていたのが急に浅ましく思えてくる。
 純はただ、信頼して体を預けてくれているというのに。
 名前の通り純粋な純に知らなくても良い事を教えて、自分の色に染まっていくのを楽しんでいたのではないか。
 これじゃ、レイプと同じだ。

 「ごめん、純。 嫌じゃない?」
 「嫌だったら嫌だっていうよ? それに姫花の言う通り、私もエッチみたいだし」

 純は縛られたまま今にも泣き出しそうな姫花の頭へと手を回し、ぎゅっと胸へ抱き寄せた。
 とくとくという純の心臓の音が聞こえる。
 一定のリズムで、落ち着いた鼓動を繰り返している。
 それがとても心地良くて、姫花は思わず目を閉じてしまった。
 純は心臓の音までも綺麗だ。
 とく、とく、と。
 淀む事の無い川のせせらぎのような血液を送っているんだろう。
 きっとその色は澄んでいて、お風呂の様に温かい。

 「続きはしないの?」
 「純、水が綺麗すぎると魚も住めない、みたいな言葉知ってる?」
 「えーっと……歴史だっけ?」
 「純は綺麗すぎるからここまでね」
 「なにそれ」

 ふふっと笑い合い、キスを交わす。
 お互いを確かめるような、そんな優しいキスだった。
 まだ暑い部屋の中には二人の匂いが満ちている。
 二人が揃わないと生まれないこの匂いを、純は忘れないだろう。
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