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近未来スカベンジャーアスカ編
第29話 撹乱
しおりを挟む男たちから船を奪い、ふたりはクレイドルを目指した。
クレイドルに戻ればポラリスの腕を修理する事が出来る。
戦力増強のためにもそれは必要不可欠であり、最優先事項だ。
ここ船の速度とクレイドルの速度を合わせれば、恐らく一時間もしない内に到着できるだろう。
男たちの船は必要最低限の装備が積まれただけの簡単な物で、とても星域間を行き来できるような物ではない。
そんな状況や男たちの様子から見るに、恐らくこの船も人もマーシャルが用意したのだろう。
通報された手前、息のかかった正規兵や装備を使えないのかも知れない。
明らかに寄せ集めな男たちの装備からまともな物を拝借し、ふたりはクレイドルへと乗り移った。
今、男たちの船とクレイドルが止まっているのはユートピアから数十キロメートル離れた通信障害領域。
地表に含まれた銀の金属がこの領域を作り出しているようで、アスカとポラリスが長い間歩いていたあの灰色の地面とはほんの少し色が異なる。
あえてこの場所を選んだのは、通信が再開されることによって居場所がバレるのを避けての事だ。
男たちの船はどうやら常に回線がオープンになっていて、ステーションへと現在地を伝え続けるように設定されていた。
久しぶりとなるクレイドルの中は来た時のままであり、これといって変わった様子は無い。
ポラリスのチェックを受けてもそれは変わらず、マーシャルの手がここへは及んでいない事がわかった。
用心深いポラリスが光学的な迷彩システムやレーダーに探知されないステルスシステムを搭載していたおかげだろう。
普段から用心しすぎだと言ってきた物だったが、こうして効力を発揮されるともう文句は言えない。
アスカはまず体の汚れを落とし、服を新しい物へと交換した。
ポラリスは腕の交換を優先し、肩の部分から器用にパーツをはめ込んでいく。
壊れ方と修理法が良かったのか、新しい腕は根本部分を少し交換してやるだけで取り付けられた。
美しさを重視するポラリスにしては珍しい、出力と耐久性に重きをおいた戦闘タイプだ。
日頃の腕と比べると感触が固くなっており、その重量からも戦闘用である事が伝わってくる。
ポラリスの出力とこの腕なら、あの大型ブッチャーとも互角に渡り合えるだろう。
ポラリスは更に、壊れてしまったレールガンの代わりとなるランチャーを装備している。
各種弾頭が使用可能なグレネードランチャーで、確実に法に触れている焼夷弾や、非殺傷武器である粘着弾、急速に熱を奪う冷却弾などがある。
ポラリスはブッチャーや共生生物、マーシャルの刺客など様々な種類の敵と対峙する必要があり、その汎用性の高さからこの装備を選んでいた。
加えて、お気に入りの黒のハンドガンを用意した。
小型軽量で取り回しが良く、信頼性も高い事からポラリスはこのハンドガンを愛用している。
銃に大して興味の無いアスカにはわからないが、ハンマーに滑り止めがついていたり、フラッシュハイダーが近接戦闘用の物に取り替えられていたり、女性の手でもグリップが保持しやすいように少し削られていたりと、ポラリスの好みを忠実に再現した珠玉の逸品だ。
少しずつパーツを集めて組み上げた骨董品であり、この時代にありながらまだ薬莢とマガジンがついている。
ポラリスはそれを入念にチェックすると、腰のホルスターへとしまった。
破れてしまった服も着替え、ふたりの服装はここへ来たばかりの時のようないつもの格好へと戻っていた。
カジュアルな服を着たポラリスは新鮮で美しかったが、やはり見慣れたこのアーマーとインナーの姿になると気が引き締まる。
この格好をしている時は大体が危険地帯へと出向く時であり、実際、この格好で何度も九死に一生の場面に遭遇してきた。
合わせて簡単な食事と休憩も済ませ、ふたりは万全の体勢を整えていく。
ここからは持久戦。
出来るだけこちらの位置を悟られずに、助けが来るのを待たなければならない。
作戦としてはまず、この通信障害領域にクレイドルを隠し、アスカとポラリスは別の移動手段による移動を繰り返そうというものだ。
そうする事でクレイドルの位置を隠したまま偵察と撹乱が可能となる。
ひとつの場所に留まるのは危険であり、また、囲まれるのを防ぐのを意味もある。
最後の手段としてはクレイドルを使った星域からの強硬脱出を考えており、その選択肢を残すためにもクレイドルだけは隠し通さなくてはならなかった。
「準備は良いですか?」
「ええ、もう大丈夫」
アスカも戦闘を意識した装備をしており、テーザー銃の他、男たちの持っていたライフルを装備している。
使い切りの触媒が装填されたマガジン方式のレーザーライフルであり、小型でありながら装弾数百発と十分だ。
レーザーの出力に関しても小型ブッチャーの手足を焼き切る程度の出力が確保されており、火器としてのバランスが良い。
反動が殆ど無いのもアスカにとっては魅力であり、多くの私兵に採用されている理由でもある。
アスカはポラリスがしていたように念入りに銃を調べると、テーザー銃を腰のホルスターに、ライフルを肩に担いだ。
男たちのおかげで移動用の船が手に入ったのは幸いだった。
もし船がなければ徒歩移動であり、大した距離は進めなかっただろう。
体力の消耗を抑えるためにも、どこか通信の入らない場所にある建物で潜伏するのが望ましい。
通信障害領域を念入に確認しながら、ふたりは船を飛ばした。
この作戦一番の問題は、電波の類が一切使えなくなる点にある。
もし敵の位置を特定するために電波類を使えば、その発信源をたどる事で位置がバレてしまうだろう。
これはポラリスのセンサー類でも言える事で、もう今までのように敵性反応を調べたり、生体反応を探る事が出来ない。
つまり今のふたりは、自らの五感と勘を頼りに建物を見つけ、敵から身を守らなくてはならなくなっている。
船を飛ばす事数十分。
ふたりの視界の先に、怪しげな三角形の建物が見えてきた。
まるでパーティ用の円錐帽子を地面に建てたように見えるその建物は、入口のわからないその構造と雰囲気から、この星に来てから初めて見たあの実験施設を彷彿とさせている。
もしこの建物があの実験施設と同じなら近づかない方が良い。
船の向きを変えて別の建物を探そうとしたその時、船の中に突然の警告音が鳴り響いた。
警告の内容はレーダー照射。
要するに、何者かがこの船を攻撃しようとロックオンしているという物だ。
ポラリスは船の高度を下げ、地表や小さな丘ぎりぎりを飛んでいる。
しかし目立った谷や木の無いこの星でロックオンを外すのは難しく、警告音はいつまでもビービーと鳴り続ける。
警告音の感覚が短くなり、ついにはビー、と連続した音となった。
ポラリスはボタンを押し、ロックオンを撹乱するためのフレアを放出した。
直後、船の近くでボンという爆発音がし、その衝撃が船を揺らした。
攻撃方法は旧式のミサイルのようだが、何せ船の性能と場所がわるい。
このまま飛び続けていてもただの的だ。
「アスカ、覚悟を決めてください」
運転席ヘと座るポラリスの目が、隣りに座るアスカへと向けられる。
アスカがそれに頷いて答えると、ポラリスは最後のフレアを射出して急角度で地表へと接近した。
ぶつかるかどうかのぎりぎりの高度と速度を維持し、見えていた建物近くへと着陸する。
ポラリスは素早く運転席を離れるとアスカを担ぎ、その建物へと走り出した。
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