『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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近未来スカベンジャーアスカ編

第25話 通信が呼ぶもの

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 「こちらスカベンジャーアスカ。 聞こえますか?」

 アスカが画面に向かって話しかけるものの返事は無い。
 通信中の文字が浮かんでいるが、果たして本当に通信出来ているのだろうか。

 「こちらスカベンジャーアスカ。 聞こえますか?」

 繰り返すも反応は無い。
 やはり壊されているのかと諦めかけたその時、ポラリスが口を開いた。

 「惑星ゴールドラッシュにてブッチャーの活発化および進化を確認。 人間を繁殖させ飼育しています。 ステーション、フォーティーナイナーズの支配人、マーシャル氏の関与が疑われ、我々は脱出できないよう惑星内に閉じ込められています。 聞こえていましたら早急に対処と救出をお願いします」
 
 すらすらと言い終えるとポラリスの目が水色に光り、そのまま通信を切ってしまった。
 何が起きたかわからない様子のアスカの顔を、ポラリスはじっと見た。
 
 「通信が探知されていました。 繋がっていないように思われたのも、恐らくスピーカーの問題でしょう。 通信そのものは行われていたため、音声と合わせてこちらで撮影したいくつかの映像を送りました。 証拠としては十分でしょう」

 通信が探知された以上残された時間は少ない。
 ブッチャーの群れかマーシャルの追手か、どちらにせよアスカの身に危険が迫っている。
 ポラリスは説明もそこそこに、アスカの手を引き管理施設を後にする。
 遠くの方から接近する敵性反応は、その数と速度からしてブッチャーだろう。
 予想通りの展開に、ポラリスは焦ること無く対処を続ける。
 次にするべき事は、安全の確保だ。
 破壊し尽くされた管理区域の中でも特に安全なその場所、VIP用の避難シェルターを目指すべきだろう。
 脱出用スペースシップの停められていたドック近くにそれはあり、運の良いことに、このあたりのメンテナンスシャフトを進めば無事たどり着ける位置だ。
 崩れた施設のひとつへとアスカを押し込み、床を剥がす。
 現れたハッチを開き、アスカを抱えたままその中へと飛び降りた。
 
 そのあまりの迅速さにアスカは言葉が出なかった。
 気が付けば薄暗く狭い通路に連れてこられ、ポラリスにお姫様抱っこをされている。
 バイザーに映る敵性反応の数からどういう事態かは理解しているが、それにしても迅速すぎた。
 まるでこうなる事を予知していたかのような行動に、アスカは信じられないという顔でポラリスの方を見る。
 ポラリスは床へとアスカを下ろすと、涼しい顔を返してきた。

 「通信が遮断されるまでに要件を伝えられたのが幸いでした。 ここから先は隠れんぼです。 救助が来るまで、なんとか逃げ切りましょう」
 「こういう危険性があるってわかってたなら教えてくれても良いんじゃない?」
 「マーシャルの関与がわかった時点で予想できる内容でしょう。 アスカも薄々と感じていたのではないですか?」

 ポラリスの言葉は全面的に正しい。
 ただアスカのは予感に過ぎず、こうなる可能性が高いと事前に言われていれば直後の行動はだいぶ変わっただろう。
 少なくとも、お姫様抱っこをされる必要は無かったはずだ。
 恥ずかしさやら不甲斐なさやらで顔を伏せるアスカを無視し、ポラリスはメンテナンスシャフトを進む。
 アスカは慌ててそれを追いかけた。

 人ひとりがようやく通れる広さの通路に緑の明かり。
 集積所で通った通路と近い造りだ。
 トンネルのような管状の構造で、電線やらホースやらが伸びていないのが違いだろうか。
 カツカツとふたりの足音だけが鳴り響き、バイザーの敵性反応はすぐ近くにまで寄ってきていた。
 反応だけを見れば、敵はすぐそこに居る。
 点が重なりいくつかもわからなくなっており、自分たちの現在地を覆い隠していた。
 地下はセンサーの反応が鈍く、機械的な索敵が難しい。
 これまでに得た知識から地下が安全だと判断したポラリスは、それが正解だったと安堵していた。
 恐らく、地上はブッチャーが跋扈しているだろう。
 純粋に通信の反応があった場所を目指してきたのか、それともマーシャルの命令を受けてきたのか。
 どちらにせよ、このままシェルターまで向かわなければならない。
 歩き続けるふたりの前に、あの黄色い液体が現れた。

 「こんな所で……」
 「レーザーで焼き切るしかないですね」

 天井の隙間からぽたぽたと垂れ出したその共生生物は、床に小さな水たまりを作っている。
 ぷるぷると体を膨らませ、近くに居るポラリスを威嚇しているようにも見える。  
 そんな共生生物へ向けて、ポラリスは引き金を引いた。
 じゅっと小さな音をたて、共生生物は蒸発していく。
 そうして障害を取り除くと、ふたりはまた道を進み始めた。
 
 ポラリスはひとつ引っかかっている。
 隙間から垂れていた共生生物。
 地図を確認してみるとあの上は水道管だ。
 施設全体に血管のように行き渡る水道管から共生生物が現れたとなると、この施設全体が共生生物の巣のようなものだ。
 牧場で見たあの噴水のように共生生物が噴き出す様は偶然では無かったのだろう。
 共生生物は水道管を支配しており、恐らくその中心は水発生装置にある。
 そしてその水発生装置は避難シェルターの近くにあり、一番近い蛇口は正しくそのシェルター内にある。
 ポラリスの中に嫌な予感が芽生える。
 漏れ出すほどの量で共生生物が生息しているおり、もしその発生源が水発生装置なら、避難シェルター内はどうなっているのだろう。
 シミュレート結果は絶望的な物だ。
 誰かが水を求めて蛇口を捻ったその瞬間、小型のシェルターなどは共生生物が埋め尽くしてしまう。
 安全と思われたの避難シェルターだったが、もしかしたら自ら死地へと向かっているのかも知れない。
 ビリピリとした空気を放ちながら歩くポラリスの姿にアスカも何かを察してか、その足取りが重くなっていく。
 シェルターまで残り半分を切った頃、ふたりは決定的な物を見てしまった。

 さきほどよりも大きな隙間から共生生物が溢れ出し、床を薄く覆うように伸びている。
 じわじわとその面積を拡げながら触手を伸ばすその姿は、下水道で見たあの光景を思い出させる。
 この通路を進むのは無理だ。
 ポラリスは急いで別のルートを検索するが、どれもシェルターには繋がっていない。
 唯一絶対に繋がっているはずの通気ダクトも、建物の崩壊に巻き込まれたのか地図から姿を消している。
 やはり、残された道はこのメンテナンスシャフトしかない。
 ポラリスはどうにかこの道を通り、シェルターの安全を確保する方法を考え、その答えを導き出した。
 
 「アスカ、水の管理施設を目指しましょう」
 「ここから繋がってるの?」
 「はい、メンテナンスシャフトは主要施設同士を繋いでいるため、寄り道すれば辿り着けます。 水を熱湯に変えてやれば、共生生物も死滅するはずです」
 「わかった、行こう」

 アスカはポラリスの作戦を受け入れて、メンテナンスシャフトに取り付けられた円形のハッチを開く。
 このさらに小さなトンネルをくぐり抜ければ、いずれは水管理施設へと到着する。
 ふたりはしゃがんだ姿勢のまま、先の見えない闇の中へと足を踏み入れた。
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