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オカルトハンター渚編
第15話 不器用なふたり
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地図を確認すると、案の定ラブホテルはあった。
ほとんどが畑と民家というこの田舎に、お城のようにそびえ立つホテル。
本来なら住宅街から見えるはずのその建物に、今初めて気が付いた。
「こんな建物無かったですよね?」
「うん、あったら流石に覚えてる」
住宅街からホテルへと向かう車内。
過去を辿る旅が終わりに近づいたためか、渚の記憶に影響されてか、住宅街そのものも心なしか綺麗になっている。
彷徨う幽霊の数も減っており、服装も現代的だ。
「どうなってるんでしょうね、ここ……」
ルカが窓から外を眺めて呟いた。
赤い空はそのままに、周りの建物や道の構造が変わっている。
散らかり、入り組んでいた道は落ち着きを見せ始め、幽霊から受ける淫らな気も弱くなっていた。
その景色がまるで自分の心境を表しているようで、ルカはどこか哀愁を感じていた。
言い表せない不安と焦りを抱えたままなんとなくの人恋しさでオフ会に参加し、はぐれた仲間を探そうともしない自分。
自分勝手でどこか冷めてて、現実的。
賢くあろうとした遥の性格そのままで、それが自分だとわかっていても自己嫌悪を感じてしまう。
「なに? ルカ」
「横顔きれいだなーって」
「なにそれ」
そんな自分を愛してくれて、必要としてくれる人が横に居る。
渚と会った後のルカの心は、もう完全にルカになっていた。
車がラブホテルへと到着する。
外観は綺麗なもので、石造りの地面から建物全体をピンクの明かりが照らしている。
渚にとって、まじまじとラブホテルを見るのは初めての事だが、その照明だけでもここがそういう目的の建物だとわかる。
駐車場から建物へ入るとカウンターとパネルがあり、部屋の空き状況が表示されていた。
カウンターは狭く小さなカーテンがされており、お金や鍵をやりとりする小窓以外はアクリルパネルで塞がれている。
どうしたものかと悩んでいると、ルカがパネルのボタンを押した。
「ここです、このお姫様みたいなベッドのピンクの部屋。 すごく可愛くて、初めてにするならここだな、って」
天蓋の付いた豪華なベッドにソファなど、まさにお姫様といった印象の家具で統一されたその部屋は、ルカの記憶にあるあの部屋そのものだった。
飲み過ぎたからと休憩に入り、不安と若干の恐怖を抱えながら選んだあの部屋。
あの瞬間は、もし優しくしてくれるなら初めてを捧げても良いと思っていた。
当時の葛藤が蘇り、胸が苦しくなる。
愛されたいという欲求と男を信用していいのかという不安。
見事に裏切られたその記憶が、ルカの顔を曇らせていく。
「じゃあさ、ここを私との初めてにするのはどう?」
「え……?」
思ってもいない渚の提案にルカはきゅんとしてしまった。
甘くイかされ続けた昨夜の記憶が蘇り、恥ずかしさと幸福感が募っていく。
優しくも真剣な渚の眼差しに、ルカはスカートの端を掴んで答える。
「それは……嬉しいですけど……」
「ならまずは安全確保だね、見て回ろ」
いつの間にかカウンターに置かれていた鍵を取り、渚はルカの手を握った。
手のひらから伝わってくる熱がルカの不安を溶かし、表情を明るく変えていく。
ルカは手を握ったまま渚の腕を抱き、後に続いた。
ラブホテルの中は薄暗く狭い廊下に番号の振られた扉が並び、奥の方ではエレベーターが光っている。
途中にある自動販売機の中にはお酒や栄養ドリンク、精力剤のほか、コンドームや何に使うかわからない道具など様々な物が売られていた。
それを興味深そうに見る渚の姿に、ルカは更に胸を高鳴らせる。
「これなんだろ?」
「その……女の子同士でエッチする時に挿れるやつで……」
「こんなに長いのが入るの?」
「いえ、その……両側から……」
お互いに気まずくなってこの話はやめにしたが、建物の雰囲気が自然とその行為をふたりに意識させていく。
渚の家では雰囲気から自然とそうなったが、ここの場合は違う。
その行為がゴールとしてあり、徐々にそこへと向かっていく。
時間が経つにつれ、部屋が近づくにつれ、その行為の現実味が増していくのだ。
ルカの選んだ部屋は二階。
長い廊下を抜けて狭いエレベーターへと入ると、渚とルカはどちらからでもなく唇を重ねていた。
狭いエレベーターの中にちゅぱちゅぱと、ふたりのキスの音だけが響く。
エレベーターの扉が開いた時、ふたりは何事も無かったかのように廊下へ出た。
渚は困惑していた。
エレベーターの扉が閉まった時、なぜか急にルカが愛しくてたまらなくなり、その小さな体を抱き寄せてキスをしていた。
熱く蕩ける口内に舌を挿し込む感覚と滑やかな髪の手触り、ルカの甘い香りが体を満たし、無我夢中で抱き合った。
微かに熱のこもった息を吐きながら、潤んだ瞳を向けるルカの顔が頭に焼き付いて離れない。
もしエレベーターがもう少し長かったら、ルカに何をしていただろう。
ふと隣りのルカに視線をやると、火照った顔ではぁはぁと息を切らしていた。
ルカは自分を抑えるので必死だった。
渚さんの腕に抱きしめられ、息が苦しくなるほどキスをした。
その力強さと強引さに内に眠る弱い部分が刺激され、このまま全てを任せてなすがままになろうとしていた。
渚さんが欲し、興奮してくれている。
それだけで満たされていくようで、満足させられるのならどうなっても良いとすら思えてくる。
もしも我慢せず、淫らな言葉でおねだりする姿を見せたら、渚さんは嫌いになるだろうか。
それぞれの想いを秘めたまま、ふたりは部屋へと到着する。
その扉を前にして、ふたりの興奮は最高潮に達していた。
周りに霊は居ないか、ヒントになるものはないか。
そんな事は気にもならず、ふたりはお互いの事だけを考えている。
繋いだ手から相手に考えが漏れているような気がして、恥ずかしさと焦りがこみ上げてくる。
そんな中、ルカはある事に気が付いた。
あの子も、こんな気持ちだったのではないか。
好きで好きで堪らなく、初めての事で興奮をどうしたら良いかわからなくて、間違った方法を取ってしまったのではないか。
今まさに自分の中で渦巻く感情が、その可能性を示唆している。
そう感じた時、ルカの目からは自然と涙が零れていた。
「ルカ、どうしたの?」
渚は屈み、目線を合わせてルカに聞いた。
ルカはただ静かに涙を流し、渚の顔をじっと見る。
もし今、渚さんが私の元から逃げ出してどこかへ行ってしまったら。
過去のあの子を自分に重ね、そんな事を考える。
途端に胸が張り裂けそうになり、ルカは渚へと抱き着いた。
そんなルカを渚は黙って抱きしめて、優しく頭を撫で続ける。
あの子がもう少し自分を抑えられたら、私が渚さんのようにもう少し余裕を持てたら。
こんなたらればに意味が無い事はわかっていても、ルカはそう考えずに居られない。
恋愛感情とまではいかなくても、あの子はとても大切な友達だった。
ルカが泣き止むまでずっと、渚は頭を撫で続けた。
目を瞑り、ルカの悲しさが少しでも和らぐ事を祈り、ただただ撫で続ける。
笑い、怒り、泣き、時には殺意を抱き。
そんな、感情表現豊かなルカが好きだった。
そして、それがどれだけ大変な事かも渚は知っている。
感情を殺し、自我を殺して生きてきた渚からすれば、そんな大変な事をし続けられるルカが誇らしかった。
そんな子をこうして癒すことが出来る。
その事実が、失われた自我を少しずつ回復させてくれているような気がした。
ほとんどが畑と民家というこの田舎に、お城のようにそびえ立つホテル。
本来なら住宅街から見えるはずのその建物に、今初めて気が付いた。
「こんな建物無かったですよね?」
「うん、あったら流石に覚えてる」
住宅街からホテルへと向かう車内。
過去を辿る旅が終わりに近づいたためか、渚の記憶に影響されてか、住宅街そのものも心なしか綺麗になっている。
彷徨う幽霊の数も減っており、服装も現代的だ。
「どうなってるんでしょうね、ここ……」
ルカが窓から外を眺めて呟いた。
赤い空はそのままに、周りの建物や道の構造が変わっている。
散らかり、入り組んでいた道は落ち着きを見せ始め、幽霊から受ける淫らな気も弱くなっていた。
その景色がまるで自分の心境を表しているようで、ルカはどこか哀愁を感じていた。
言い表せない不安と焦りを抱えたままなんとなくの人恋しさでオフ会に参加し、はぐれた仲間を探そうともしない自分。
自分勝手でどこか冷めてて、現実的。
賢くあろうとした遥の性格そのままで、それが自分だとわかっていても自己嫌悪を感じてしまう。
「なに? ルカ」
「横顔きれいだなーって」
「なにそれ」
そんな自分を愛してくれて、必要としてくれる人が横に居る。
渚と会った後のルカの心は、もう完全にルカになっていた。
車がラブホテルへと到着する。
外観は綺麗なもので、石造りの地面から建物全体をピンクの明かりが照らしている。
渚にとって、まじまじとラブホテルを見るのは初めての事だが、その照明だけでもここがそういう目的の建物だとわかる。
駐車場から建物へ入るとカウンターとパネルがあり、部屋の空き状況が表示されていた。
カウンターは狭く小さなカーテンがされており、お金や鍵をやりとりする小窓以外はアクリルパネルで塞がれている。
どうしたものかと悩んでいると、ルカがパネルのボタンを押した。
「ここです、このお姫様みたいなベッドのピンクの部屋。 すごく可愛くて、初めてにするならここだな、って」
天蓋の付いた豪華なベッドにソファなど、まさにお姫様といった印象の家具で統一されたその部屋は、ルカの記憶にあるあの部屋そのものだった。
飲み過ぎたからと休憩に入り、不安と若干の恐怖を抱えながら選んだあの部屋。
あの瞬間は、もし優しくしてくれるなら初めてを捧げても良いと思っていた。
当時の葛藤が蘇り、胸が苦しくなる。
愛されたいという欲求と男を信用していいのかという不安。
見事に裏切られたその記憶が、ルカの顔を曇らせていく。
「じゃあさ、ここを私との初めてにするのはどう?」
「え……?」
思ってもいない渚の提案にルカはきゅんとしてしまった。
甘くイかされ続けた昨夜の記憶が蘇り、恥ずかしさと幸福感が募っていく。
優しくも真剣な渚の眼差しに、ルカはスカートの端を掴んで答える。
「それは……嬉しいですけど……」
「ならまずは安全確保だね、見て回ろ」
いつの間にかカウンターに置かれていた鍵を取り、渚はルカの手を握った。
手のひらから伝わってくる熱がルカの不安を溶かし、表情を明るく変えていく。
ルカは手を握ったまま渚の腕を抱き、後に続いた。
ラブホテルの中は薄暗く狭い廊下に番号の振られた扉が並び、奥の方ではエレベーターが光っている。
途中にある自動販売機の中にはお酒や栄養ドリンク、精力剤のほか、コンドームや何に使うかわからない道具など様々な物が売られていた。
それを興味深そうに見る渚の姿に、ルカは更に胸を高鳴らせる。
「これなんだろ?」
「その……女の子同士でエッチする時に挿れるやつで……」
「こんなに長いのが入るの?」
「いえ、その……両側から……」
お互いに気まずくなってこの話はやめにしたが、建物の雰囲気が自然とその行為をふたりに意識させていく。
渚の家では雰囲気から自然とそうなったが、ここの場合は違う。
その行為がゴールとしてあり、徐々にそこへと向かっていく。
時間が経つにつれ、部屋が近づくにつれ、その行為の現実味が増していくのだ。
ルカの選んだ部屋は二階。
長い廊下を抜けて狭いエレベーターへと入ると、渚とルカはどちらからでもなく唇を重ねていた。
狭いエレベーターの中にちゅぱちゅぱと、ふたりのキスの音だけが響く。
エレベーターの扉が開いた時、ふたりは何事も無かったかのように廊下へ出た。
渚は困惑していた。
エレベーターの扉が閉まった時、なぜか急にルカが愛しくてたまらなくなり、その小さな体を抱き寄せてキスをしていた。
熱く蕩ける口内に舌を挿し込む感覚と滑やかな髪の手触り、ルカの甘い香りが体を満たし、無我夢中で抱き合った。
微かに熱のこもった息を吐きながら、潤んだ瞳を向けるルカの顔が頭に焼き付いて離れない。
もしエレベーターがもう少し長かったら、ルカに何をしていただろう。
ふと隣りのルカに視線をやると、火照った顔ではぁはぁと息を切らしていた。
ルカは自分を抑えるので必死だった。
渚さんの腕に抱きしめられ、息が苦しくなるほどキスをした。
その力強さと強引さに内に眠る弱い部分が刺激され、このまま全てを任せてなすがままになろうとしていた。
渚さんが欲し、興奮してくれている。
それだけで満たされていくようで、満足させられるのならどうなっても良いとすら思えてくる。
もしも我慢せず、淫らな言葉でおねだりする姿を見せたら、渚さんは嫌いになるだろうか。
それぞれの想いを秘めたまま、ふたりは部屋へと到着する。
その扉を前にして、ふたりの興奮は最高潮に達していた。
周りに霊は居ないか、ヒントになるものはないか。
そんな事は気にもならず、ふたりはお互いの事だけを考えている。
繋いだ手から相手に考えが漏れているような気がして、恥ずかしさと焦りがこみ上げてくる。
そんな中、ルカはある事に気が付いた。
あの子も、こんな気持ちだったのではないか。
好きで好きで堪らなく、初めての事で興奮をどうしたら良いかわからなくて、間違った方法を取ってしまったのではないか。
今まさに自分の中で渦巻く感情が、その可能性を示唆している。
そう感じた時、ルカの目からは自然と涙が零れていた。
「ルカ、どうしたの?」
渚は屈み、目線を合わせてルカに聞いた。
ルカはただ静かに涙を流し、渚の顔をじっと見る。
もし今、渚さんが私の元から逃げ出してどこかへ行ってしまったら。
過去のあの子を自分に重ね、そんな事を考える。
途端に胸が張り裂けそうになり、ルカは渚へと抱き着いた。
そんなルカを渚は黙って抱きしめて、優しく頭を撫で続ける。
あの子がもう少し自分を抑えられたら、私が渚さんのようにもう少し余裕を持てたら。
こんなたらればに意味が無い事はわかっていても、ルカはそう考えずに居られない。
恋愛感情とまではいかなくても、あの子はとても大切な友達だった。
ルカが泣き止むまでずっと、渚は頭を撫で続けた。
目を瞑り、ルカの悲しさが少しでも和らぐ事を祈り、ただただ撫で続ける。
笑い、怒り、泣き、時には殺意を抱き。
そんな、感情表現豊かなルカが好きだった。
そして、それがどれだけ大変な事かも渚は知っている。
感情を殺し、自我を殺して生きてきた渚からすれば、そんな大変な事をし続けられるルカが誇らしかった。
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