『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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異世界転生者マリー編

第15話 シルバーとの謁見

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 テントの群れの中心、そこにシルバーは居た。
 石が積まれ、石畳のようになっているその場所が王の間なのだろう。
 木で出来た玉座に座り、周りには数人を侍らせていた。
 誰もが自信満々といったような顔つきで地面に座り、それぞれの得物を傍らに置いている。
 大剣を持った大男、槍を持った青年、弓を持った小柄な女の子に、杖を持ったお姉さん。
 体格は様々だが、誰しもがマリーの事を怪訝な目で見ていた。
 
 「あの……初めまして、マリーと申します」
 
 警戒しつつ、あくまで無害である事を印象付けるため、マリーはおどおどと自己紹介をした。
 マリーの前に立ちふさがったのは大剣を構えた赤髪の大男で、その行く手を遮るように剣を地面へと突き立てた。
 
 「新人か、挨拶の前に解呪だ。 バイオレット」
 「はいはい」

 大男に呼ばれて前に出たのは杖を持った紫髪の女性だった。
 グラマラスな体つきの年頃の女性で、手にした杖に負けず劣らず煌びやかな印象を受ける。
 その人はマリーの前に立ち、手にした長い杖をマリーの頭へと近づけた。
 するとポワンと、泡が消えるような音がして、マリーの体から紫色の球体が空へと出て行った。

 「はい終わり。 この世界の転生者はね、全員監視の呪いを受けて召喚されるの。 貴女が魔物に襲われるのもお風呂に入るのも、トイレに行くのですら見られてたのよ?」
 
 バイオレットはそう得意げに話し、元の場所へと戻って行く。
 マリーは愕然とした。
 監視の呪いにHスキルで見たあの項目。
 やはり、この世界の異世界転生は何かがおかしい。
 世界への不信感が確定的な物へと変わり、マリーに怒りを覚えさせていく。
 
 「という訳だ。 こんな世界に転生させられて言いなりなんてごめんだろ? 嫌なら俺たちに協力してくれ。 俺はバーミリオン、よろしくな」
 
 筋骨隆々の肉体に片目についた傷。
 その鋭い眼光からも、バーミリオンが猛者である事がわかる。
 差し出された手を握り、マリーは握手に応えた。
 途端にぎりっと、マリーの骨が軋む。
 しかし少し軋む程度で、これといって痛みは感じない。
 お返しとばかりに、マリーは思い切り手を握り返した。

 「いてててて!」

 苦痛に歪んだバーミリオンの顔に驚いてマリーは手を放す。
 その様子に、槍を持った青年が笑い出した。
 
 「何やってんだよバーミリオン。 新人に華を持たせるなんてお前らしくもない」
 「そんな事俺がするかよ、本気だ本気」
 
 青の髪の、飄々とした青年。
 体こそバーミリオンと比べて細いが、身長に関しては同じくらいだ。
 その長身の青年が白く光る槍をくるくると回しながら、マリーの前へとやってきた。

 「僕はシアン。 よろしく」
 「はい、よろしくお願いしま……」

 突然突き出された槍に反応し、マリーはそれを握手をしようと差し出した右手で掴んだ。
 片手で掴んでいるだけにも関わらず、両手のシアンは槍を戻すことが出来ない。
 続けざまに行われる実力テストに、マリーの怒りが増長していく。
 気が付くと、そのまますぱりと、槍の先端を斬り落としてしまっていた。
 斬られた瞬間がわからなかったのか、シアンは引っ張る勢いのまま尻もちをついてしまう。
 こんな人たちがレジスタンスなのか。
 マリーの中ではここ、宣誓国シルバーに対しての信頼感も失われつつある。
 
 「構えるまでにしてください。 貴女の矢より私の方が速いので」
 
 玉座の脇で弓を構えていた碧髪の少女に忠告する。
 少女はそれをはったりだと思い手を放すが、その矢が弦から離れることは無かった。
   
 「ね?」
 
 手を放した瞬間、マリーが矢ごと弓の弦を押さえ込んでいた。
 驚いた表情を浮かべる少女に、マリーは精一杯の笑みを浮かべる。
 そうでもしなければ、今すぐこの弓をへし折ってしまう。
 
 「もういいよミドリ。 試して悪かった、僕の名前はシルバー。 この国の王にして革命家だ」

 ようやく重い腰を上げたシルバーに免じて、マリーは弓から手を離した。
 もしシルバーの方から近づいてこなければ、こちらから詰め寄っていた所だ。
 
 「噂には聞いています。 それにしても、これがレジスタンスですか?」
 
 怒りに満ちたマリーのオーラに、周辺の転生者たちは目を合わせる事が出来なかった。
 少女のような体格のマリーから放たれるオーラは常人のそれではなく、まるでその道の達人と相対した時のように、時間が何倍にも引き延ばされたかのような錯覚を覚える。
 そんなマリーを前にして、シルバーはへらへらと笑っていた。
 銀髪の中年で、細かな装飾が施された金と銀の鎧を着ている。
 所々にポイントとしてあしらわれた群青色は同じ色のマントと相まって高貴な身分を想像させるが、それがかえってマリーの精神を逆なでしている。
 大したカリスマも感じられない、見た目だけの呑気な中年。
 シルバーの第一印象はまさしくそれだ。
 
 「いや手厳しい。 ひとつ勘違いをしないで頂きたいんだが、君が特別なだけなんだ」 
 「私が?」

 思いもよらなかった言葉にマリーの怒りが一瞬治まる。
 肌を刺すような緊張感がなくなり、バーミリオンたちはようやくまともに呼吸が出来た。

 「ああ、君は勇者の器だ。 僕たち一介の転生者じゃ足下にも及ばないよ」
 「嘘やお世辞じゃないですよね?」
 「保証する。 王の座に誓って事実だ」

 片膝をつき、長剣の柄をこちらへと差し出すシルバーの姿に、マリーはこの人を信用してみようという気になった。
 これは騎士が忠誠を誓う時の作法であり、一国の王がそれをいち転生者に過ぎないマリーに対して行うという事の意味を考えての事だった。
 他の転生者が大して驚いていない所を見ると、この国はしっかりとした王や騎士といった身分制度が無いらしい。
 差し出された剣を返し、マリーはシルバーの言葉を待った。

 「転生者は元来、たった一つのスキルしか貰えない。 それも怪力や俊足、優れた視力や優れた記憶力などその程度だ。 それが君は、怪力のバーミリオンを力でねじ伏せ、俊足のシアンの攻撃をあっさりと躱し、隠密のミドリの矢を放たれる前に掴んだ。 そんなことが許されるのは勇者において他は無い」
 「そうなんですか……ちなみに貴方のスキルは?」
 
 跪いたまま話すシルバーの顔が上がり、その青い目がこちらを向いた。
 
 「鼓舞。 人を応援する事しか出来ないハズレスキルさ」
 
 困ったように笑うシルバーの顔に、マリーは何故か不信感を抱いていた。
 完全な嘘をついているわけではなさそうだが、信用してはいけないとマリーの勘が言っている。
 その不気味な笑顔に、マリーは見て見ぬふりをした。

 「スキルがひとつしかないというのは、レベルが上がらないという意味ですか?」

 毅然とした態度でそう聞くマリー。
 一瞬、その場の全員が固まったような停止した時間が流れ、その後少ししてシルバーが口を開いた。
 
 「この世界にレベルなんてものは存在しない。 あったとして、それが知覚できるのは君だけだろう」
 「私だけ?」
 「ああ、この国を作って数十年。 君のような転生者はひとりも現れていない」
 
 シルバーのその言葉に、マリーはまたも唖然としてしまった。
 今まで見えていたレベルも、スキルも、普通の転生者には見えないものなのか。
 もしそれが本当なら、なぜ自分は見えているのか。
 そして、そんな自分がなぜ勇者の器と呼ばれたのか。
 降ってわいた疑問の数々に、マリーは困惑してしまう。
 考えがまとまらない中、シルバーは言葉を続けた。

 「そのような優れた能力と奇跡に近いスキルの数々を持っていたとされるのは魔王を倒した勇者、その人だけだ。 後にも先にも、それ以外の記録は残っていない」
 「記録って、もしかしたら別の国に居たとか……」
 「転生者にかけられた監視の呪い。 僕たちもあれを利用しているんだ」
 
 その告白に、マリーの中で何かが弾けてしまった。
 
 「この世界に来たばかりの転生者を覗き見て、手も貸さずに自らを王と?」
 
 腰の鞘から剣を抜き、シルバーの首元へと添える。
 驚いたバーミリオンが剣を退けようと駆け寄ろうとしたが、それをシルバーが制した。
 
 「わかってくれ。 戦ってわかる通り、僕たちは弱い。 とてもじゃないが転生者全員を助ける事なんて出来ないんだ」

 真剣なその言葉と表情に、マリーは剣を収める。
 へらへらとした男が初めて見せた真剣な顔。
 真っすぐと見据えられた目には光が宿っている。
 取り繕わず、ただ真実を伝えようというその目がマリーの怒りを鎮めた。

 「事情はわかりました。 ですが、その程度の力で術者を殺して元の世界に帰れるのですか?」
 
 その決定的な言葉にシルバーは黙り込んでしまう。
 今回の一件で実力の差を思い知ったのか、周りに居る転生者たちも同じように口をつぐんでしまった。

 「奇襲作戦を考えている。 戦力が少なくても相手は術者ひとり。 バレずにやれば十分可能だ」

 口を開いたシルバーも、今回は自信がなさそうに聞こえる。
 少人数での奇襲作戦。
 マリーでも思いつくような、あまりにも普通の策だ。

 「可能性は?」
 「……良くて三割。 生きて帰るのはまず無理だろう。 だが、君さえ来てくれれば可能性は跳ね上がる! どうだろう、ぜひレジスタンスに……」

 足にすがりつき泣くシルバーの姿を、マリーは冷めた目で見ていた。
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