『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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異世界転生者マリー編

第7話 統一王国バベルへ

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 気が付くと、マリーはテントの中で寝ていた。
 傍らには心配そうな顔でマリーを見下ろすイーシャとアイン。
 記憶では森の中に居たはずなのに、どうしてテントで寝ているんだろう。
 
 「目が覚めた? 獣人族が連れてきてくれたんだよ」
 「そうだ……みんなは?」
 「全員無事だったって。 すごく感謝してたよ、迷惑がかかるからって居なくなっちゃったけど」
 「良かった……」

 寝転がったまま天井を見つめる。
 堕落の森での出来事がまるでずっと昔の事のようだ。
 あれだけ感じていた甘い痺れも疼きも、今ではすっかりなくなっている。
 まるで夢のようにも思えるが、体に残った心地よい倦怠感だけがそれを事実だと告げていた。
  
 「マリー。 王国からお呼びがかかっている」
 「王国?」
 
 アインの発したその聞き慣れない言葉にマリーは思わずぽかんとしてしまった。
 この世界で王国という言葉が指すのはただ一つ。
 『統一王国バベル』の事だ。
 この世界最大の国であるバベルは統一王バベルの元、他の国が王国を名乗る事を禁止している。
 自らの名を国にするほど尊大であった初代バベルは、自らをこの世界全体の王として、統一王の称号を掲げて建国した。
 魔王討伐時の功績やその圧倒的な力に異を唱えられる者はおらず、現在でもその影響力は大きい。
 そんな国が、私になんの用だろう。
 マリーは獣人族を助けた事を咎められるのではと不安に感じていた。

 「堕落の実討伐の功績を称えたいそうだ。 マリーのおかげでみんな助かっている」
 
 思いもよらない言葉にマリーは固まってしまった。
 この世界を敵に回すような行動だったはずが多くの人を助ける結果になり、称えられるとは。
 その言葉は、この世界との隔たりを感じていたマリーに深く沁み込んでいく。
 この世界の人から感謝されている。
 その実感がマリーの心を暖めた。

 「私、間違ってなかったんですね」
 「ああ、危険を冒して堕落の実を討伐するなんて、まさに救世主だ」
 
 救世主。
 昔の転生者は多くがこう呼ばれたらしい。
 そのくすぐったい響きにマリーは顔を赤らめる。
 もし本当に、世界から必要とされたなら。
 絶対に無理だと思っていたその願いが現実味を帯びてきて、マリーは思わず泣きそうになる。
 その為なら、なんだって出来そうな勇気が湧いてくる。

 「私は褒めないから。 一歩間違えれば廃人だったんだからね」
 
 真剣な顔のイーシャはそう言うが、これが自分を心配しての言葉だとマリーは理解している。
 口では冷たい事を言いながら、こうしてテントに寝かせてくれているという事は近くで様子を見ていたんだろう。
 イーシャたちの不器用な優しさに、マリーは泣きそうになりながら笑顔を浮かべた。

 「……でも、とりあえず良くやったね。 今は休んで、元気になったら王国へ行こう」
 「はい……あれ? 行こうって、ついて来てくれるんですか?」
 
 マリーの問いかけに返事は無い。
 気まずそうな顔をして目を背けるイーシャに反して、アインはにっこりと温かな笑みを浮かべている。
 どこまでも不器用なイーシャに、マリーは心が満たされるのを感じた。
 ご飯を食べさせてもらったり体を拭いてもらったり、マリーはイーシャから付きっきりで看病を受けた。
 本当は今すぐ走り出せそうなほど元気だったが、甲斐甲斐しく看病してくれることが嬉しくて、マリーは甘えてしまっていた。
 安心して誰かに甘えられる。
 その事がマリーは嬉しくて仕方なかった。

 そうして一日が経ち、三人は王国を目指して出発する。
 テントを出たマリーの目にまず飛び込んで来たのは、閉じられた交易所の門の前でこちらを睨む鎧姿の男であった。
 交易所の中ではなく近くの草原で野営していたのはこの男たちが原因だ。
 イーシャによればこの男たちは奴隷商の一味らしく、交易所を閉鎖して居なくなった獣人族を探しているらしい。
 当然イーシャたちも疑いの目を向けられたのだが、王国からの使者が来たことでそれ以上詮索されることはなくなったという。
 無謀にも見えたマリーの行動が、結果としては自らを助ける結果になったのだ。
 もし堕落の実を討伐せずに逃げ出していたら、今頃は奴隷商に捕まって自らが奴隷になっていたかもしれない。

 「通れ」
 「どうも、バベル様によろしく言っといてあげるよ」
 
 渋々門を開いた男の脇を通り、三人は交易所を王国側へと抜ける。
 禁欲の森の反対側にあたるこの地域はここからしばらく草原が続いた後、坑道へと突き当たる。
 その坑道を抜ければ、王国はもう目と鼻の先だ。
 
 暖かな陽気に誘われて、マリーはるんるんと草原を歩く。
 堕落の実を討伐した事でレベルが上がり、新スキル『催淫耐性』を得ることが出来た。
 このスキルがあればもう堕落の花のような敵と出会っても大丈夫だ。
 その安心感が更にマリーの足を加速させる。
 遅れて続くふたりは、すっかり元気になったマリーに追いつくので精いっぱいだった。


 草原にて遭遇した狼のような魔物もマリーたちの敵ではなく、あっという間に獣肉と化していた。
 ここに来たばかりのマリーであれば命を奪うことに抵抗を感じただろう。
 しかし、今のマリーはためらいなく剣をふるうことが出来る。
 そうしなければ、やられるのは自分なのだ。 
 この世界の魔物が全て繁殖を目的として人を襲うかはわからないが、餌になるのも魔物の親になるのもごめんだ。
 
 そうして数日間の旅を続け、一行は坑道へと辿り着く。
 ここはシルバーバック坑道。
 背中に良質な銀鉱石を持つ石のトカゲ、シルバーバックが生息する長い坑道だ。
  
 「思ったより早かったね」
 「マリーのおかげだな」
 「えへへ」

 マリーの感覚強化による索敵は敵を避けるのに重宝し、結果として移動時間の短縮に繋がっていた。
 そのおかげで消耗も少なく、万全の状態で坑道へと入る事が出来る。
 急ぎの旅ではないが、楽が出来るならそれに越したことは無い。

 
 坑道の中は一定間隔でランタンが置かれた歩道と、細く曲がりくねった採掘道に分かれている。
 元々採掘のために掘っていたものを拡張し、山の下を通り抜ける道としたのがシルバーバック坑道の始まりだ。
 今では一日に数人が利用する、バベルへ行くための近道となっていた。

 「思ったより明るくて快適ですね」
 「ここはバベルの主要な貿易ルートだからな、だいぶ金をかけてるんだよ」

 アインの言葉通り、木で補強された道幅の広い通路からはここがいかに重要か伝わってくる。
 村に繋がる道や交易所に繋がる道すら未舗装なこの世界で、これだけ整備されているのはすごい事だ。
 向こう側の見えない長い通路の中に、かつ、かつ、と木の床を進む足音だけが響く。
 すると突然、脇の採掘道の方から大きな爆発音と男たちの悲鳴が上がった。
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