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異世界転生者マリー編

第6話 堕落の実

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 草原を歩いている時から不穏な気配はあった。
 居ると聞いていた魔物も盗賊団の姿も無く、草原は平和そのもの。
 だというのに、どこかピリピリとした空気が漂っている。

 「様子が変だ」

 アインとイーシャもそれに気が付いているようで、それぞれの武器を構えて警戒している。
 強化されたマリーの聴覚が、草原の向こうの喧騒を捉えた。
 慌てふためく人々の声と無数の足音に、馬のいななき。
 遠ざかっていくように聞こえるその音は次第に数を減らしていく。

 「交易所で何かあったみたいです、みなさん離れて行っています」
 「本当か? 一体どうしたんだ」

 進む足を速め、マリーたちは交易所へと急ぐ。
 3人が到着した頃には無人の露店や家屋が並び、数人がその場へ残るだけだった。
 
 「何があったんですか?」
 
 荷物をまとめ、今まさに交易所を出ようとしているおじさんへマリーは声を掛けた。
 おじさんはマリーを見るなり少し嫌な顔をして、目を逸らしながら作業を続ける。
 
 「『堕落の実』だよ、堕落の花が育っちまった。 死にたくなけりゃさっさと逃げな」

 それだけ言って、開け放たれた交易所の門からおじさんは出て行く。
 みんな逃げてしまったのか、交易所内にはもう何の音もしない。
  
 「あの、堕落の実って……」
 「堕落の花が十分に魔力を吸うと実を付けて、そこから大量の種を放つ。 もしそれを吸えば影響は花粉の比じゃない。 騎士団が間に合わなかった場合に備えてみんな逃げたんだ」
 
 淡々と説明するアインだったが顔には焦りが見える。 
 その表情からしてよほどの事態なんだろう。
 情報収集が出来なかったのは残念だが、ここを早く離れた方が良い。
 マリーはそう判断し、それ以上の事は聞かなかった。
 
 「あの、転生者様ですよね」
 
 門から出ようとしたマリーを、一人の子供が呼び止めた。

 「そうだけど、どうしたの?」

 ボロ布を身にまとったみすぼらしい姿。
 やせ細った体に、アクセサリーとは思えない大きな鉄の首輪。
 この子は恐らく奴隷だろう。
 
 「あの、僕たちどさくさに紛れて逃げたんですけど……仲間たちが森の方に……だから、助けてくれませんか!」

 灰色の瞳は真っすぐにマリーを捉えている。
 本来、奴隷が勝手に口を開けばその首輪が締まり、言葉を発するどころか息を吸う事すら出来なくなる。
 罰を与えるはずの主はもうどこかへ逃げてしまったのだろう。
 しかし奴隷は奴隷であり、もし助けでもしたならその主の恨みを買うのは確実だ。
 アインとイーシャは、まるで汚い物でも見るかのような目でその子を見ている。
 
 「マリー、奴隷とは関わっちゃダメだ」
 「アインの言う通り、関わったって良い事は何も無いよ」

 魔王との戦いで荒んでしまったこの世界では、未だにこうした悪しき風習が残っている。
 与えられた知識でそれを知っていたマリーだったが、こうして実際に見せつけられると、その現実に腹が立ってくる。
 この子たちだってきっと、好きでこんな状態になったわけじゃない。
 良い仲間になれそうだと思っていたアインとイーシャの態度にも納得がいかなかった。

 「私は、この子たちを助けたいです」
 「やめときなって、奴隷の主たちは独自のギルドを持ってるんだ。 もしそこにバレちまったらあんた一気にお尋ね者だよ?」

 イーシャはマリーの事を本気で心配していた。
 世間知らずの転生者が、ただの善意で可哀そうな子供を助けようとしている。
 その子供が奴隷で無かったならこれは美談で終わるだろう。
 しかしこの世界で奴隷を助ける事は、そこに関わる全ての悪い大人に喧嘩を売るに等しい事だ。
 
 「それでも、助けたいんです」

 マリーの決意は本物だった。
 一点の曇りもない、決意に満ちた目。
 その目をしている人間がどうにもならない事を、イーシャは知っていた。
 それを眺めているアインも、諦めたようにはぁ、と息を吐いた。

 「わかった。 私たちは付き合わないからね、とりあえずこれは持っときな」

 渋々といった表情でイーシャは一枚の布切れを取り出した。
 何の変哲もない赤い布に見える。
 
 「弱いけど防御魔法がかけてある。 少しなら胞子も抑えられると思うよ」
 「ありがとうございますイーシャさん!」

  マリーはその布を手に、奴隷の少年の方へと向き直る。
 
 「助けに行こう、案内して!」
 
 少年の表情がぱっと明るくなり、頭を隠していた布切れの端からぴょこんと大きな耳が現れた。
 兎の物のように見えるその耳は、ぴんと空に向かって伸びている。
 
 「獣人族か。 なおさら面倒な事になりそうだ」
 
 余計不安げな顔をするアインとイーシャを尻目に、マリーはそのまま手を引っ張られ交易所を飛び出して行ってしまった。

 獣人族は一般的に、成長こそ遅いものの人間より身体能力が高く長命で貴重である。
 労働目的、愛玩目的としても需要が高く、当然奴隷の中でも高額だ。
 そんな獣人族を扱う奴隷商なら、ギルドの中でもなかなかに高い立場だろう。
 マリーの今後を考えると、どうしても前向きな気持ちで送り出すことが出来ない。
 せめてもと、ふたりは交易所の出口に残り、怪しい者が出入りしないか警戒する事にした。

 
 禁欲の森。
 マリーがここに来るのは3度目だ。
 一度目はろくに記憶が残っていないが、疼く体が覚えている。
 森の中に立ち込める甘い香りはその勢いを強めていた。
 
 「どこに居るかわかる?」
 「えーっと……こっち!」

 先頭を行く少年は兎耳を立てたままクンクンと鼻を動かし、仲間の位置を探っている。
 もしこの環境で布を外し、直接匂いを嗅いだならマリーはすぐに胞子にやられるだろう。
 立っているだけで頭に霧がかかり、お腹の奥に眠る熱が全身へと回っていく。
 マリーは何とか正気を保ちながら、少年の後を追った。

 森の中ほどまで来ると、その様子は一変していた。
 背の高い木々に濃いピンク色をした堕落の花が咲き誇り、胞子を含んだ空気までもがピンク色をしている。
 その光景に、マリーは立ち止まってしまった。
 ここには入れない。
 もし入ろうものなら、マリーの体は一瞬で情欲にのまれるだろう。
 花を目にしただけだというのにマリーの秘部は愛液に濡れ、下着の隙間からふとももへと糸を垂らしていた。
 お腹の疼きが強くなる。
 ゆらゆらと揺らめくあのピンク色の花糸を、ここに挿れられたらどれだけ気持ち良いだろう。
 マリーの指がスカート越しの秘部へと伸びる。 

 「あ、あそこ!」

 少年の声にはっとして、マリーはその手を抑え込んだ。

 少年が指差す先には、マリーの身長ほどもある大きな堕落の花が落ちている。
 茎やツタを木に残し、花の部分だけが落ちたそれは満開に開いていて、太い触手のようにも見える花糸をまるで誘惑するかのようにゆらゆらと揺らしていた。
 イソギンチャクのようなその姿を見て、マリーは体を震わせた。
 深く体に刻まれた、花糸とツタによる愛撫の記憶。
 一晩中ずっと、蕩けるような甘い快感を与えられ続けたその相手を前にして期待に震えていたのだ。
 しかし記憶の無いマリーには何が起きているのかが全くわからない。
 突然発情したかのように火照る自らの体が理解できない。
 困惑する頭とは裏腹に、体は着々とあの花を受け入れる準備を進めている。
 
 「ほら! そこ!」

 その落ちたひと際大きな花の奥、まだ木に付いたままの堕落の花の下に数人の人影があった。
 マリーがされたように全身をツタと花糸に絡まれて、その振動によって望まぬ快感を与えられている。
 頭上の花が捕らえた獲物に向けて花粉を放ち、獲物はただただその甘い快感に身を震わせる。
 捕らえられた獣人たちの姿に、マリーは自らを重ねていた。
 少年と同じ、兎耳の男は限界までそり立った竿を細い花糸で何重にも巻かれ、先端からは止めどなく精液が放たれている。
 震えながら前後運動を繰り返す花糸の責めに合わせて自らも腰を前後に振って、蕩けた顔でうわごとのような喘ぎ声をあげ続ける。
 女はマリーがされたように、秘部へと添うように置かれたツタが細かく振動する事で甘い痺れを与え続けられていた。
 
 堕落の花による責めは男の方が激しくて進行が早く、女の方が緩やかで進行が遅い。
 その差は目的の違いにあった。
 男たちはただ魔力を搾り取る餌に過ぎないが、女たちは貴重な繁殖場として利用できる。
 一定の魔力を放ち続ける蜜壺は、堕落の花の生育にとってまさに理想と言えるからだ。
 
 「転生者様?」
 「あ……ごめんね、ちょっとぼーっとしてて」
 
 足をぎゅっと閉じ、お腹の奥から湧き上がる快感を抑え込む。
 秘部の熱と疼きは最高潮に達しており、本当はこのままこの快感に飲まれてしまいたい。
 マリーはそんな破滅的な願望をぐっとこらえ、少年に笑顔を送った。
  
 「落ちた堕落の花をどうにかしないと……あのめしべが大きくなったら種が出ちゃう」
 「あれをどうにかすれば良いの?」
  「うん、お姉ちゃん出来る?」

 少年の目は期待に満ちている。
 その純粋な目で見られていると、こんな状況にありながら情欲に溺れそうになっている自分がとても情けなく思えてくる。
 期待に応えるためにも、自分の抱くこの願望が嘘であると否定するためにも、マリーは決意を固めて首を縦に振った。

 「僕はその間にみんなを助けるから、めしべを切り終わったらすぐにあの穴に入って」
 
 少年が指差したのは大きな木のうろで、確かにあの中なら体をすっぽりと隠すことが出来るだろう。
 マリーはもう一度うなずいてから剣を構え、落ちた花へと向かって行く。

 花に近付くにつれ体の疼きが強くなり、頭には余計霧がかかっていく。
 しかしマリーは立ち止まらず、イーシャから貰った布を口に強く押し当てて、一歩一歩ゆっくりと歩みを進めていった。
 秘部がひくひくと、痙攣するかのように波打っている。
 この秘部に今すぐ何かを咥えこんで、悶えるような体の疼きから解放されたい。
 あのゆらめく太い花糸が奥深くへと入り込み、激しく震えてくれたら最高なのに。
 マリーの頭はそんな考えでいっぱいだった。
 しかし、そうするわけにはいかない。
 ここで情欲に溺れるまではいかなくても、もし逃げ帰ったりしたら、もう今までの自分には戻れない。
 今後こういった快楽を与えるものに出くわすたび、淫らに秘部を濡らす痴女と化すだろう。
 そんな予感がマリーの体を支えていた。

 めしべの目の前までやってきたマリーを花糸が撫でる。
 撫でられた部分は強い熱を持ち、全身がまるで性感帯のようになっていく。
 
 「ん……♡ あっはぁぁ♡ ん……♡」
 
 
 甘い声で鳴きながらもマリーは耐えた。
 全身の力が抜け、足は震え、もう焦点も定まらない。
 はぁ、はぁ、という自身の熱を持った吐息だけが聞こえている。
 剣を持って進むマリーを花糸は優しく招き入れ、抱きしめるようにそっとマリーの体に絡みつく。
 その細い首を、こぶりな胸を、腰を、尻を、足を、そして秘部を。
 全身へと優しくタッチして、マリーの緊張を解こうとしている。
 マリーにとってはもうどこを触られても同じだった。
 吸い込んだ胞子の量はとっくに限界を超え、いまや常に絶頂状態にある。
 秘部からは絶えず愛液を漏らし、乳首は服がすれるだけで痛いほど硬く尖りきっている。
 マリーはもう、何も考えていなかった。
 ふらふらとした足取りでさらに近づき、倒れそうになりながらもどうにか剣を振り下ろす。
 剣はすっと通り抜けるようにめしべをけさに切り裂いて、マリーはそのまま地面へと倒れ込んでしまった。

 体の下で蠢く花弁はまるでそれ自体が別の生き物であるかのように蠢いて、マリーの体を犯し尽くす。
 実際は、花が死にゆく間際にとった痛みに悶えるような動きだったのだが、完全に花粉に侵されたマリーにとっては体に受けるすべての刺激が愛撫となる。
 全身を突き抜ける快感に脳を焼かれ、マリーは声も出せぬ絶頂の中、静かに意識を失った。
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