ヴァルホルサーガVR~夜明けの開拓者たち~《改稿版》~地雷スタートでもヒーローになれますか?~

夏冬春日

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第1章 宵闇の冒険者

第十話 初めてのクエスト

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 ノトス平原を、一陣の風が吹きぬけた。
 二人が去って行った後を見やるが、真理恵さんと喜助さんの姿はもう見えない。

「それじゃあ、俺もこの辺で帰ることにするわ」

 トライゾンが腰をはたきながら立ち上がる。確かに、いつの間にか結構な時間になっている。俺もそろそろ帰る時間だ。

「そっか、なんなら一緒に飯でも食わないか? おいしい飯屋を知ってるんだよ」

 今日のお礼もしたいからとトライゾンを誘ってみたのだが、断られた。

「いや、それはいいわ。結果として何の役にも立たなかったしな」

 トライゾンは肩をすくめる。

「それに、そろそろペルーの奴が戻ってくるからな。迎えに行かねぇと」

 そういや今日はペルーのこと、見かけなかったな。さっきの二人と会ったら、また面白いことになったかも知れないのに……。残念だ。

「そっか、それなら仕方ないな。またの機会を楽しみにしとくよ」

 また明日と手を振る。
 だが、トライゾンは首を横に振った。

「いや、俺は明日からここには来ねえぞ。おまえも町で依頼を探すんじゃねえのか? マーモットなんかと遊んでねぇで、ちゃっちゃとレベル上げろよ」

 あきれたように言うトライゾン。
 が、確かにそうか。割と遊んでる風に見えるトライゾンとでさえ、結構なレベル差が開いていた。
 トライゾンの言うとおり本腰を入れてレベルを上げないと、フジノキ達から取り残されてしまう。

「わかった、適当に頑張るよ。お前もあんまりペルーに迷惑かけないにな」
「ばーか。世話してんのは俺の方だっつの」

 トライゾンは「じゃあな」と手を振ると、町とは反対の方へと歩いて行った。
 さて、それじゃあ俺は帰ってご飯をいただくことにするか。
 今日は何が出るんだろう。楽しみだ。


 ◆


 カラン。

 “妖精のとまり樹亭”のドアを開くとベルが鳴った。
 それを聞いたユエちゃんがこちらを振り向き、満面の笑みを浮かべる。

「おかえりー。おにーちゃん」

 俺が返事をする暇もあらばこそ、ユエちゃんは矢継ぎ早に話す。

「どう? どう? おむすびおいしかったでしょー」

 予想はしてたけどやっぱりか。あのいびつな形のおむすびは、ユエちゃんが握った物らしい。
 でも確かに、味はよかったんだよなぁ。

「オリーブが入ってたおにぎりだろ? オリーブの塩気がおむすびにマッチしてて、とってもおいしかったよ」

 ユエちゃんはこくこくと相づちを打ってくれる

「やっぱりユエちゃんが作ってくれたんだね ありがとう」
「んふふー」

 お礼を言うと、 ユエちゃんは得意満面で手を振ってきた。

「でもね、ホントはね、別の具にしようと思ってたんだ。なのにお父さんにオリーブの方がいいって言われちゃった。せっかく自信があったのに……。だからね、次は私の考えたおにぎりにするね」

 おやぁ? 若干雲行きが怪しくなってきたぞ。
 でもなぁ、顔は全く似てないが、あのおっちゃんの娘。料理の危険思想にとりつかれてるわけはないと思うんだが、まさかな……。

「……ちなみに最初は何を入れようと思ってたんだい」

 おそるおそる聞いてみる。
 するとユエちゃんは、えへんと胸を反らした。

「えっとね、疲れた体にはとーぶんが大事だって言ってたの。だからねチョコレートを入れようとしてたんだ。チョコレート、おいしいんだよー」

 んふーと笑みを深くする。
 だがそうか、やはりか。なんて危険な物体を作ろうとしているんだ……。
 厨房から顔をだしたおっちゃんが、サムズアップしてる。
 なるほど、おっちゃんが止めてくれたのか。グッジョブだ、ありがとう。
 今後もおっちゃんが止めてくれるだろうが、ユエちゃんの思想を放っておく訳にはいかない。ここで阻止しないと。

「えっとねユエちゃん。さすがにお米とチョコレートは合わないんじゃないかなぁ」

 意を決しそう諭すも、ユエちゃんは首を横に振る。

「大丈夫だよお兄ちゃん。ご飯とあんこはべすとまっち! なんだよ。だから甘いものも大丈夫。それにパンとチョコレートも合うんだよ。だからね、絶対おいしいと思うんだ」

 思う、だと? やはりユエちゃんは料理の暗黒面に足を踏み入れようとしているんじゃないのか?
 ただそれは、俺の疲れを癒やそうという優しさから生まれたもの。ここはやんわりとライトサイドに誘導しないと……。

「確かにユエちゃんの言うとおり、疲れた体に甘いものは必要だ。だからね、次は無難におはぎなんか食べたいなぁ」

 そう提案したのだが、ユエちゃんは首を横に振り指を突き立てながら言った。

「ダメだよお兄ちゃん。それは逃げなんだよ。男ならいろんな事に挑戦しないとダメなの。料理だっておんなじだよ? いろんなアレンジに挑戦した方がおいしくなるって、おかーさんも言ってたもん。だから任せて。次はユエのぷろでゅーすでつくるの」

 ユエちゃんは、うんうん頷いている。その姿を奥からのぞくソレイユさんは、笑みを浮かべている。
 おいーーーー、ソレイユさん。犯人はあんたか!
 満足そうにうなずいてるんじゃねぇ。あんたの娘、料理においてやってはいけないことに手を出そうとしてるんだぞ。このままだと料理の暗黒面ダークサイドに落ちてしまうんだぞ。
 だが、ソレイユさんは目尻を袖で拭う様さえ見せている。ダメだあれは。成長を見守る母の姿になってる。
 こうなれば、最後の砦はおっちゃんだ。おい、おっちゃん。どうか止めてくれ。
 しきりにアイコンタクトを飛ばすも、おっちゃんは肩をすくめ厨房の奥へと入っていった。
 おい、諦めんなよ! 男だろ。娘を止めてくれ。
 ……ダメだ、ろくにこっちを見やしねぇ。いや、積極的に目をそらそうとさえしている。
 
「んふふー、明日のお弁当は腕によりをかけるからね。楽しみにしててね。今度はおとーさんに邪魔させないんだから」

 ユエちゃんは腕をまくる。
 やばい、明日が俺の命日になるかも知れない。
 ……いやまて明日か。明日からは町で依頼を探すわけだから……。
 よし、思いついた。ユエちゃんには悪いがこの手でいこう。

「ごめんね、ユエちゃん。明日からお弁当はいらなくなるかも知れないんだ」

 言ってるそばから、ユエちゃんの顔がしょげていく。
 うう、罪悪感がひどい。だが、我慢だ。

「ええー、なんでなんでー」

 眉をハの字にして口をとがらせるユエちゃん。
 いや、これはユエちゃんを料理の暗黒面ダークサイドに堕とさないための……。いや、それはいいわけだな。そうじゃない、本音は俺の身の安全のためだ。
 ごまかしはよくない。俺は言葉を重ねる。

「いやぁ、明日は町の中で困ってる人を探そうと思っててね。それだったら、お昼はいったんここに戻ってご飯を食べようかと思ってるんだ」

 それを聞いてユエちゃんも、不承不承も納得したようだ。

「むーー。……それなら仕方ないのかあ。せっかく、おかーさんに教えてもらった、あれんじれしぴ? を試そうと思ってたのに。絶対おいしいのに~~」

 なん……、だと……!?
 やばい、まさに紙一重だった。
 たぶん、たぶんだけどソレイユさんのアレンジレシピはやばい気がする。
 ソレイユさんが料理をしてるのを、俺は見たことがないんだ。
 いや、それどころか厨房にすら近寄ってない気がする。
 しかも、さっきのユエちゃんを止めるどころか後押しをしてる感すらあった。
 もしかしたらソレイユさんこそが、料理道における暗黒卿なのかもしれない。
 空恐ろしさを感じる俺に、絶望の言葉が浴びせられた。

「明日の昼は用事あるからな。店閉めてるぞ」

 おっちゃんが厨房から出てきて言った。
 その手には盆を持っている。晩ご飯を作ってきてくれたのだろう。
 だが、それが目に入らないくらいの絶望が俺を襲う。
 おい、そんなことを言わないでくれ。明日おっちゃんの弁当の代わりに何が出てくるかわかんないんだぞ!

「何でそんな顔をしてるかわからね……。いや、多少はわかるが、とりあえずこれでも食って気を落ち着けな」

 おっちゃんが持ってきた盆の上にはどんぶりが二つ。麺とつけ汁がある。
 まごうことなき、つけ麺である。
 そうだな……。
 今はおっちゃんの言葉に甘え、明日のことは忘れて、目の前のこのつけ麺に集中することにしよう。

「いただきます」

 お膳に手を合わせ、二つのどんぶりを見やる。
 つけ汁が熱々なのは当然だが、麺の方も白湯につけてあって熱いままだ。湯気が立っている。
 いわゆるアツアツってやつだな。ヒヤアツの方が好みって人間が俺の周りには多い――親友の佐藤君もそうだった――んだが、俺は断然アツアツ派だ。
 さすがおっちゃんわかってる。
 つけ汁の方からは豚骨に混ざって煮干しの香りが漂う。しかもだ、汁が見えないくらいにびっしりと刻んだニラが敷き詰められている。
 うまいのは間違いない、間違いないだろうがそれでも期待に胸を膨らませ麺を取る。
 麺のタイプは細い縮れ麺だ。スープが絡むこと間違いなしである。
 麺をつけ、たっぷりのニラと絡めてすする。
 うまい! 煮干し香る豚骨のこってりさとたっぷりのニラとの相性が抜群だ。明日への絶望で暗く沈んだ心が、熱く満たされていく……。

「ああ……」

 思わずため息がついて出る。
 いまはただ、すべてを忘れ黙々と食べていたい……。
 いや待て待て、ウェイト俺。箸を止めるんだ。

 首を振り、鉄の意志で箸を止める。
 食べ進める前に、付け合わせの煮卵をつけ汁に投入しておかないといけない。
 俺は熱々とろっとろの煮卵が好きなんだ。
 後はそうだ。刻んだチャーシューとメンマ。これを麺と一緒につけて食べなければならんだろう。
 よし、ひとまずは麺withメンマだな

 くはー、うまい。このメンマの歯ごたえがたまらない。次はチャーシューと一緒に食べるか? いや、いっそのことチャーシューメンマのダブルで贅沢に行くか?
 ……くっ。わくわくが止らない。

 ――――食べ終わってしまった。
 至福の時はあっという間に過ぎてしまう。明日の絶望が頭をもたげようとしてくるが、今はいい。すべてを許容できそうだ。

「おい坊主」

 顔を上げるとおっちゃんがこっちを見ていた

「ふん、満足そうな顔をしやがって。それで、ちったあ落ち着いたか?」
「はい、落ち着きました。今は心も体もぽかぽかです」
「そうか……」

 おっちゃんは一言そうつぶやき、相好を崩す。

「時にお前、まだ飯食えるか?」

 そう聞いたきたおっちゃんに、「まだいけます」と答える。

「ならちっと待ってな」

 おっちゃんは余ったつけ汁を手に厨房へと戻っていった。
 俺はそれを見守ることしかできない。

「ふふ、何か作ってくれるんだと思いますよ」

 疑問に思っていると、女将さんが微笑みながら教えてくれた。
 そうか、ならいいんだけど。期待して待っていよう。
 ……そうだ、ちょうどいい機会だし、少し気になってたことを聞くとするか。

「えっと、ソレイユさん。少し聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「あら、なにかしら?」

 ソレイユさんは口に手を当て小首をかしげる。
 その様は大変かわいらしく、とても暗黒卿だとは思えない。
 いや、今はそれはいいか……。

「少し疑問なんですが、どうしてみんなで一緒に食べないかなぁと思いまして。どうせならユエちゃんやおっちゃんも含めて、みんなで一緒にご飯を食べた方が楽しそうじゃないですか。お店もその……、こんな感じですし」

 俺は店の中を見回した。
 相も変わらず閑古鳥が鳴いている。客は俺一人しかいない。
 採算は絶対にとれてないだろう。だがそれをおっちゃんに聞いても、別にかまわないと笑うだけだ。
 でもそれならやっぱり、みんなで食べた方がおいしいと思うんだよなぁ。
 そんな俺の疑問に対し、ソレイユさんは困った顔をしつつも答えてくれた。

「私もそうは思わないこともないんだけど……。あの人も頑固なのよ。お客様と一緒に食事するのはいけないって言うの。まぁ確かに理解できる話なんだけどね。だから私とユエは先にご飯をいただいてるのよ」

 そばの席に座ってるユエちゃんも、足をぷらぷらさせながら「私もおにーちゃんと一緒にご飯が食べたーい」と同意してくれる。
 そうだよなぁ、俺もそんなに気を遣ってほしくない。だいたい、無理言って部屋を借りてる上に、部屋代飯代だってまともに払ってるかと言われると、疑問符が付く身の上だ。

「くだらんこと気にしてんじゃねぇ。俺は店主でお前は客。それでいいんだよ」

 おっちゃんが戻ってきた。
 ぶっきらぼうに言い放つと、俺の前にどんぶりを置いてくれる。
 中は雑炊になってる。さっきのスープにご飯を入れてくれたのだろうか。

「ほらよ、くいな」

 おっちゃんに促されるまま雑炊に手をつける。
 あのスープを雑炊にしたら、さすがに少ししょっぱいんじゃないかな。
 口に持って行く際に、そんな思いが頭をかすめた。
 ――だけどそんな思いは裏切られる。もちろんいい意味でだ。
 改めてだしでも加えたのか、味が雑炊用に調えられている。
 おまけに添えられた薬味が爽やかだ。
 そしてそれらを、ふんわり溶き卵が優しくまとめ上げてくれている。
 おいしい。とっても優しい味だ。
 …………いや騙されてはいけない。今食べているのは炭水化物。炭水化物の後に炭水化物を食べるという、まさに炭水化物の暴力。ダイエットの敵である。
 騙されるところだった。思わず一気に食べきってしまうところだったじゃないか。

「相変わらず言い食べっぷりだな」

 ははとおっちゃんが笑う。
 いや、さすがに今回はゆっくり食べている。ほらまだこんなに……。
 ――――ない。どんぶりの中には米粒一つない。一体どこへ行った。
 おっちゃんを見る。

「なに絶望的な顔をしてやがんだ。さすがにもうおかわりはねぇぞ。あれだけ食ったんだから満足しろ」

 そんなことをのたまいやがった。
 なんだと、少なめとはいえ一気に食べたって言うのか? まさかそんな……。
 ……いや、そうなのだろう。この場に箸を持っているのは俺一人だ。
 ならば言うべき言葉はただ一つ。

「ごちそうさまでした。今日もおいしかったです」

 俺はおっちゃんに頭を下げた。

「ふん、ならいい。腹もくちくなっただろう。それじゃあ明日の、困った人がどうとか言ってたのを話してみな?」

 おっちゃんに促され、困った人を探して直接依頼を受けようと考えていることを話した。
 聞き終えると、おっちゃんは納得したようにうなずく

「なるほどな。確かにそいつの言うとおり、そのたぐいの依頼なら開拓使から目をつけられることないとは思うが……。坊主、お前はどうやって依頼人を探すつもりなんだ」

 むろん、それについても考えている。

「いや、手当たり次第に聞いていけば、そのうち当たりを引くかなぁと」

 言い終えるやいなや、おっちゃんのげんこつがゴツリとふってきた。
 いってぇなもう。

「あほか、お前は。そんなんですぐに見つかる分けねぇだろ」

 いや、見つかるかも……。そう言おうとする俺を、おっちゃんはひとにらみで黙らせ、腕を組んだ。

「ふぅむ……」

 おっちゃんはひとしきり考え込むと、ユエちゃんの方を向いた。

「ユエ、確か雑貨屋のおばあが困り事があるって言ってたな。明日案内してやんな」
「え!? 明日お兄ちゃんとお出かけしていいの? やったー」

 突然話を振られてユエちゃんは、その顔を輝かせ手を上げて喜んだ。

「えと、いいんですか?」

 案内なんて頼んでいいんだろうかと思い、おっちゃんに尋ねる。

「かまわねぇよ。さっきも言ったとおり明日はソレイユと二人して用事があってな、昼はいねぇんだ。ま、こいつのお守りみたいなもんだ」

 そんなおっちゃんの言に対し、不満そうに口をへの字にするユエちゃん。
 かまわずおっちゃんは話を続ける。

「……そうだな、これも依頼みたいなもんだ。明日はおばあの相談がてらユエの面倒も見てくれや。報酬に俺の弁当を作ってやる」

 意味ありげに俺を見るおっちゃん。
 大丈夫、その思いは届いた。おっちゃん・・・・・の弁当がつくんだな。
 ならば受けねばなるまい。すまないがチャレンジャーの作るご飯に手をつけたくはないんだ。

「もちろん引き受けます!」

 俺が大きく頷いた、その時だった。ピロンと音がした。視線の端にはクエストを受注した旨の通知が見える。
 詳しく見てみる。

 ―――――――――――――――――――――
 クエスト名:お守り
 
 内容
 半日[ユエ・グレイド]の面倒を見よう。
 見失わないよう注意!
 行動範囲は町及び隣接マップまでとする。

 報酬
 ガンツ特製弁当
 依頼の斡旋
 ―――――――――――――――――――――


「お? どうやら戦乙女の啓示があったみたいだな」

 満足げにうなずくおっちゃんに答える。

「はい、なんか“クエスト名:お守り”って」

 お守りの言葉を聞いた時点で、ユエちゃんの顔がさらに不満げになる。
 いや仕方ないじゃないか、クエスト名は俺が決めたんじゃないんだよ。

「はは、なら良かった」

 ユエちゃんとは対照的に、おっちゃんは明るく笑った。

「これでこの大陸でも個人依頼がクエストになるってわかったわけだ。ほらユエも、そんなにぶーたれてないで坊主を部屋に案内してやんな」
「むーー、私がお兄ちゃんのお世話をするのに。それにお弁当も作る予定だったのに」

 むくれ顔のユエちゃんの頭を、おっちゃんはぽんぽんとたたく。

「戦乙女の啓示があったんだ、しかたねぇ。今回は諦めな」
「そうよ、ユエ。ユエは次のために修行しておけばいいのよ」
「うん、そうする。しゅぎょー、おかーさんも手伝ってね」
「はいはい」

 ふんすと気合いを入れるユエちゃんを、柔らかな目で見つめるソレイユさん。
 なんだろう。言葉にすると微笑ましいのに、なんだか空恐ろしさを感じる。
 その証拠に、おっちゃんは天を仰いでいる。

(ま、あきらめろ。俺には止めるのは無理だ)

 おっちゃんが俺の肩をたたき、小声で言ってくる。

(じゃあせめて、ちゃんと料理を教えてくださいよ)
(いや、今回は母さんが本気になってる。無理だな)

 諦めなと、おっちゃんが首を横に振る。
 ひどいぞ、おっちゃん!

 俺の心の声を無視し、おっちゃんはユエちゃんに話しかけた。

「それじゃあユエは、こいつを部屋まで連れてってやんな」
「はーーい」

 ユエちゃんは元気よく返事をし、俺を引っ張っていった。
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