ヴァルホルサーガVR~夜明けの開拓者たち~《改稿版》~地雷スタートでもヒーローになれますか?~

夏冬春日

文字の大きさ
上 下
5 / 25
第1章 宵闇の冒険者

第二話 眼鏡いんカウンター

しおりを挟む
「コダマ様、あなた様が受注できるクエストはありません」

 受付の女性は眼鏡を冷たく光らせて言った。

 三人と別れてやってきた開拓使庁舎。
 最初は個別で説明を受けなければならないらしく、長い列を待たされてようやく受付カウンターたどり着いた。
 だが、俺の目の前にいる受付の女性は、チラリとこちらを見た後、手元の書類に視線を落としそう言ったのである。

 うむむ。これなら他の列に並んだ方がよかったか。
 隣のゆるふわお姉さんは優しそうだし、反対隣のおっさんの列とも一緒で、列の処理が早い。
 何も考えずにこの列に並んだが、俺の前にいるめがねの受付お姉さん、列の処理が遅いんだよな。
 その冷たく切り捨てそうな見た目と相まって、この列のハズレ感が強まる。

 ちなみにカネティスやフジノキ達は、開拓使庁舎の列を見て、先に職業ギルドの方へ行った。
 そちらの方は職業毎である程度別れている分、こちらみたいに並んでいないしな。
 そっちはそっちで、装備を受け取ったり職毎のチュートリアルで時間をとられそうではあるのだが……。
 え? 俺? 対応するクラスについてないとのことで、門前払いされましたよ。
 職業ギルドの方も忙しそうだったし、仕方なかったかもしれないけど、悲しいね……。

「……聞いていますか?」

 気がつくと受付さんが、こちらを射抜くようにのぞき込んでいる。

「あ、はい」

 ちょっと聞いてなかったとはいえない雰囲気に気圧され、曖昧に頷く。

「……まあいいでしょう。先ほどもいいましたとおり、コダマ様はクエストを受けられる状況にありません。理由も説明いたしますが、よろしいでしょうか」

 受付さんは、めがねをくいっとあげる。

 ちなみに、めがねをあげる仕草にはいくつかある。代表的なものでも、ツルをつまんであげるもの。ブリッジを指で押し上げるもの。両方のジョイントをおさえて押し上げるもの。両手でしたから押し上げるもの等、様々である。また使う指によって……。いやこれ以上はいいか。
 ちなみに、受付さんはツルをつまんで親指で押し上げるタイプだった。
 そこは実に、実に俺の好みである。よき……。

 気づくと、受付さんがレンズ越しの冷たい目でこちらを見ていた。
 あ、はい。大丈夫です聞いてます。

 そうして説明された点をまとめるとこうだ。

・クエストは大きく分けると、討伐系、生産系、採取収集系、探索系といったものになる。
・基本的に、討伐系には戦闘クラス、生産系には対応した生産スキル、採取収集系、探索系も対応した能力の所持が求められる。
・レベルが満たなかったり未所持の場合、クエストは受けられない。
・なおPTを組んでる場合はPT単位でクエストを受けることが可能。その場合条件はパーティ単位でクラス、能力の所持やレベルが判別され、またその条件も緩和されることがある。
・俺の場合は戦闘クラス、生産クラスについていないこと。あわせて採取収集や探索に対応した能力も持っていないことから、クエストを受けられないらしい。

「――以上がコダマ様はクエストを受注できない理由になります。無論この場で対応するスキルやアビリティを習得すれば、クエストの受注も可能ですが……」

 受付さんは手元の書類に視線を落とした。
 ああうん、そうだよね。今俺が取得できるもので、すぐクエストに役立つものはないよね……。
 俺もメニューを表示し、改めて自身のクラスを確認する。


 ―――――――――――――――――――――
 ウェポンマスター(補助):Lv1


 あらゆる武器の取り扱いに長けたクラス。
 このクラスを取得した場合、武器のアビリティやアーツ等の取得ポイント、キャップレベル等にボーナスがつく。
 また同じ武器を使い続けることで、その取り扱いにボーナスがつく。


 取得可能アビリティ:武器習熟
 取得可能スキル:無し
 ―――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――
 妖精使い(補助):Lv1


 妖精が手助けをしてくれるクラス。
 生産アビリティやスキル、アーツ等に様々な補正や追加効果を与える。


 取得可能アビリティ:ホワイトレディ
 取得可能スキル:無し
 ―――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――
 エッグマスター(補助):Lv1


 自分専用のペットが産まれる卵を持ったクラス。
 卵が孵るには長い時を要するが、各使い魔系のギルドでは即座に卵をかえすことができる。その場合それぞれのクラスに応じたペットが産まれる。


 取得可能アビリティ:共感
 取得可能スキル:無し
 ―――――――――――――――――――――

 さて、今取得できるのは〔武器習熟〕〔ホワイトレディ〕〔共感〕の三つのアビリティだが……。
 まず〔武器習熟〕。これは例えば〔弓装備:Ⅰ〕といった装備アビリティや、弓で言うと〈ダブル・シュート〉のようなアーツに対し、いろいろな補正を与えるアビリティだ。
 これだけみると、戦闘クラスにとって有用に見えるが、俺は該当するアビリティやスキルを覚えられないから意味がない。

 次に〔ホワイトレディ〕。これも〔武器習熟〕と同じだな。生産系のアビリティなんか無いから意味がない。

 最後に〔共感〕。フレーバーテキストによると、これは他人の感情を漠然と読み取ることのできるアビリティらしい。ゲーム的にはテイマー、サモナー系のアビリティ等に補正。後は商人盗賊系の一部のアビリティ等に補正がかかるようだ。
 当然これもアウトである。そんなスキル持ってないものな。せめて卵がかえっていれば違うんだろうが、ギルドで門前払いされたからなぁ。この卵が孵るのはいつになることやら……。

 まぁ現状意味の無いこれらのアビリティ群も、レベルを上げていけば何かしらの変化が見られるかもしれない。
 アビリティやクラスのレベルを上げることで覚えることができるスキルやアーツなんかもあるようだしね。
 ちなみに、アビリティやスキルの取得やレベルアップにはGPグロース・ポイントが必要になる。このポイントは初期でいくつか配布されている。当然それ以外にも入手法はあり、それは加護レベルの上昇や一部のクエスト報酬、ボス討伐になっているようだ。
 ちなみに俺の初期GPは1。上記のアビリティの取得にそれぞれGPが5必要。
 だからそもそもアビリティの取得ができないんだけどな!
 理由? それは初期アビリティ二つのうちの一方がこれであるからだ。


 ―――――――――――――――――――――
 エルルーンの冥助:Lv1


 あなたは戦乙女の一人、エルルーンの加護を得てエインヘリヤルとなった。


 効果
 クエスト報酬GP上昇  クエスト経験値上昇
 初期GP減少  討伐、生産等の経験値減少
 ―――――――――――――――――――――

 この初期GPの減少が原因だよな。元々の初期GPがどれくらいあるかは知らないけど、結構減らされてそうだ。
 となると、経験値減少の方もちょっと怖い結果が待ってるかもしれない……。
 とはいえなぁ。このアビリティしかり、取得したクラスしかり、それ単体で悪いことはない。むしろクラスの組み合わせによっては、結構なシナジーがあるだろう。
 だけど俺の場合は組み合わせがひどい、ひどすぎる。それぞれのメリットを打ち消しているどころかマイナスにまでなってるからな。

 そんなわけで、レベルを上げるのも難しそうなんだが……。
 このクエスト経験値上昇の効果を生かすためにも、できればクエストで経験値を得たい。でも前提条件を満たしてないというジレンマ。
 ……いや、ちょっと待て。
 そうだよ、定番のあれがあるじゃないか。

「ちょっと思いついたことがあるんだけどさ」

 俺は受付さんに話しかけた。

「…………。聞きましょう」

 受付さんは軽くため息をつき、話を促す。

「いや、俺が対応するクラスやスキルを持ってないからクエストを受けられないのはわかった。だけど、そういった前提条件がないクエストってないの? 例えば町の清掃とか迷い猫探しとか、そういうの」

 自分の思いつきを話すと、受付さんはこめかみに指を当て目を閉じた。

「四度目ですね……」
「ん?」
「いえ、何でもありません」

 俺が受付さんのつぶやきに反応する間もあらばこそ、彼女は理由を説明しはじめた。

「そのようなクエストはありません。……そもそもコダマ様は何をしにこの大陸に来られたのでしょうか。またここをどこだと考えられてるのでしょうか。ちなみに私はここが開拓使庁舎であり、コダマ様たちはこの大陸を開拓するために集められたと理解しています。決して町の掃除をしたり迷子の猫を探したりするために集められたわけではないと考えているのですが……。そこのところコダマ様はどうお考えですか?」
「い、いえ。しごくもっともなことだと思いますが……」
「……『が』?」
「いえ、なんでもありません。おっしゃるとおりでございます」

 冷たい受付さんの声に押されるように、俺はこくこくと頷いた。
 圧がすごい。逆らえない。
 さっきの四度目って、もしかして似たようなことを、もう何回も聞いてたのだろうか……。
 だとしたらこの態度もむべなるかな。全くもって申し訳ない。

 そんな俺の殊勝な態度を見たからだろうか。受付さんが「よろしい」とつぶやく。

「コダマ様がおっしゃったようなクエストがない理由も、ご理解いただけたようですね。パーティを組む、もしくは転職をして再度こちらに来ていただければ、斡旋できるクエストもあろうかと思います。とはいえ……」

 受付さんは改めて手元の書類に目を落とす。

「……私としましては、速やかな転職をおすすめします」

 断言されてしまった。
 とはいうものの、パーティを組むのはなぁ……。フジノキ達なら、改めて頼めば笑いながら組んでくれそうだけど、それだと迷惑かけることになるし、なによりおんぶに抱っこになる可能性もある。それは嫌だ。
 かといって転職も……。エルやフジノキに見得を切った以上、挑戦する前に諦めるってのも嫌な話だ。

 ……ま、仕方ないよな。
 ガリガリと頭をかく。

「クエストを受けられない理由についてはわかった」
「はい、ですのでこちらの資料を――」

 受付さんが渡そうとしてきた書類を手で遮る。転職用の書類か何かだろう。

「いや、転職やパーティを組む予定も今のところないんだ。ありがとう」

 断りを入れ、その場を立ち去ろうとした俺を、受付さんが引き留める。

「少々お待ちください」

 振り向くと、受付さんは先ほどの書類とは別に、小さな袋を用意していた。

「こちら、支度金と回復薬類になりますのでお持ちください」
「支度金?」
「はい、当面の衣食住についてはこちらでおまかないください。本来であれば開拓使で管理している宿舎や食堂が基本無料でご利用できます。ですがその利用には開拓使への貢献度が必要であり、貢献度はクエストの達成で得られますので……」

 受付さんは眉をひそめた。
 なるほど。本来であれば最低限の衣食住が保証されているんだが、クエストを受けられない俺はその権利がないのか……。

「わかった。このお金を使い切るまでに、なんとか軌道に乗せろって事ね」
「……はい」

 まあ、もしくはお金がつきる前に、転職なり何なりしろって事だろうけど……。
 俺は受付さんからその小袋を受け取り、腰のポーチに入れる。

「ちなみに――」

 受付さんが息をつく。

「――そちらのお金はコダマ様のような奇特な方たちのためにコルネリウス長官が自費で用意したものです。心してお遣いください」

 コルネリウス長官というと、港で演説していた人か。
 俺みたいなのが、そう何人もいるとは思えないけど、わざわざ用意してくれるとは……。
 よく気のつく人なんだろうな。しかも身銭を削ってとはね。

 俺は小袋を入れたポーチを軽くたたき頷く。

「わかった。開拓に貢献できるよう頑張るさ。ありがとう。それじゃあね」

 軽く手を振ると、受付さんは深くお辞儀を返してくれた。

「はい、よろしくお願いいたします」

 受付の人。最初の印象は冷たい感じだったけど、なんだかんだで丁寧に対応してくれたよな。そのせいもあって列の処理が遅かったんだろうか。
 後ろの人には申し訳ないが、個人的にはすごくありがたかった。
 そんなことを考えながら、未だ混み合う開拓使庁舎を出る。

 外に出るとそこは中央広場。中央には大きな時計塔があった。その短針はまだ頂点に遠い。見上げる時計塔の奥にはみそらが広がっている……。
 うん、いい天気だ。早速町の外に向かうとしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

蒼海のシグルーン

田柄満
SF
深海に眠っていた謎のカプセル。その中から現れたのは、機械の体を持つ銀髪の少女。彼女は、一万年前に滅びた文明の遺産『ルミノイド』だった――。古代海洋遺跡調査団とルミノイドのカーラが巡る、海と過去を繋ぐ壮大な冒険が、今始まる。 毎週金曜日に更新予定です。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

処理中です...