空の話をしよう

源燕め

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第十章

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 林の中の倉庫に来てから、一週間ほどがたった。飛空艇を一度解体して、組み上げに入ると、ひとつ問題が湧き上がった。この機体はハーレの体格に会わせて設計されていたため、どんなに頑張っても、操縦席に座ったトーヤの足がペダルに着かないのだ。
「さすがに、座席のパーツは替えがないね」
 リュドミナが腕を組んで考え込んだ。
「帝都に戻れば、調達できないですか?」
 リーヤの疑問はもっともだ。あの帝都なら、どんなものでも調達できるんじゃないかと思わせる。
「この座席は特注なんだよ。軽くて丈夫な木を彫りぬいて作ってもらったんだ。簡単に手に入るもんじゃなくてね」
 カーライルは、ふとアスガネ工房での話を思い出した。
「実験飛行で使ってた機体ではどうしてたんだ。元の機体は親爺さんが乗ってたんだろ。それをトーヤが乗れるように改造したんじゃないのか?」
 そう聞くと、双子は顔を見合わせた。
「食堂の椅子…」
「え?」
「家にあった食堂の椅子の足を短く切り落として、操縦席にいれてビスで固定してたんだ」
「あんたたち、なかなか無茶するね」
「毛布の内側にクッションをたくさんつめれば、座り心地は悪くなかったよ」
 トーヤの話を聞いて、リュドミナが先に釘をさした。
「ここの食堂の椅子は勘弁しておくれ」
「え、トーヤ、もしかして、狙ってたのか?」
 ふとカーライルがトーヤの隣を見ると、リーヤの腕にはすでに毛布が抱え込まれていた。
「リーヤまで…」
「とにかく、食堂の椅子はなしだ。そんな不安定な状態での実験飛行なんて許せるわけないだろ」
 リュドミナの言うことはもっとも過ぎて、トーヤもリーヤもしゅんとなってしまった。カーライルの言うことは、ほとんど聞いてくれない双子でも、リュドミナのことは信頼しているのか、たいてい、一言で収まった。
「じゃあ、先生! リュドミナ先生が乗ってくれる?」
「はあ? わたしかい?」
「そう、大人なら、足が届くと思う!」
「あんたたち、よく考えな。足も長いけど、体重もそれなりにあるだろ。こんな重たい体を乗せて飛ぶなんて…」
 と、そこまで言って、カーライルを見た。
 リュドミナとカーライルの背はほとんど変わらないが、豊満な体つきのリュドミナと違って、カーライルはどこからみて細身だ。
「カーライル兄ちゃん!」
 トーヤの目がすがりついてくる。
「カーライルお兄ちゃん!」
 隣にいるリーヤの目はうるんでいる。
「いや、待てってば…」
「カーライル兄ちゃん、ハーレ商会の飛空艇は乗ったんだよな?」
「ああ、まあ、そうだけど」
「なら、この機体でも乗れるよね?」
「え?」
「操縦の基本は同じだよ!」
「いや、あの機体には無線がついてて、ハーレがひとつひとつ指示を出してくれていたから…」
「あの子、そんなものまで、機体につけていたの?」
 リュドミナが感心してそう言った。
「無線機のことなんて、いつ勉強したんだか。ほんとうに大した子ね。教えた覚えのないことまで、やっちまうんだから」
「いや、リュドミナ、話がずれてる。もし、この機体に無線がついてないなら、本当に無理だからな」
「無線がついてたら、乗れるのかい?」
「もしかして…」
「いまはついてないけど。無線くらい、すぐにつけてやるよ。座席の予備はないけど、無線の予備なら、帝都に戻れば簡単に手に入る」
 特注品の飛空艇用の座席よりも、汎用品の無線のほうが調達が容易だなんて、カーライルにわかるはずはなかった。
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