38 / 70
第十章
(5)
しおりを挟む
林の中の倉庫に来てから、一週間ほどがたった。飛空艇を一度解体して、組み上げに入ると、ひとつ問題が湧き上がった。この機体はハーレの体格に会わせて設計されていたため、どんなに頑張っても、操縦席に座ったトーヤの足がペダルに着かないのだ。
「さすがに、座席のパーツは替えがないね」
リュドミナが腕を組んで考え込んだ。
「帝都に戻れば、調達できないですか?」
リーヤの疑問はもっともだ。あの帝都なら、どんなものでも調達できるんじゃないかと思わせる。
「この座席は特注なんだよ。軽くて丈夫な木を彫りぬいて作ってもらったんだ。簡単に手に入るもんじゃなくてね」
カーライルは、ふとアスガネ工房での話を思い出した。
「実験飛行で使ってた機体ではどうしてたんだ。元の機体は親爺さんが乗ってたんだろ。それをトーヤが乗れるように改造したんじゃないのか?」
そう聞くと、双子は顔を見合わせた。
「食堂の椅子…」
「え?」
「家にあった食堂の椅子の足を短く切り落として、操縦席にいれてビスで固定してたんだ」
「あんたたち、なかなか無茶するね」
「毛布の内側にクッションをたくさんつめれば、座り心地は悪くなかったよ」
トーヤの話を聞いて、リュドミナが先に釘をさした。
「ここの食堂の椅子は勘弁しておくれ」
「え、トーヤ、もしかして、狙ってたのか?」
ふとカーライルがトーヤの隣を見ると、リーヤの腕にはすでに毛布が抱え込まれていた。
「リーヤまで…」
「とにかく、食堂の椅子はなしだ。そんな不安定な状態での実験飛行なんて許せるわけないだろ」
リュドミナの言うことはもっとも過ぎて、トーヤもリーヤもしゅんとなってしまった。カーライルの言うことは、ほとんど聞いてくれない双子でも、リュドミナのことは信頼しているのか、たいてい、一言で収まった。
「じゃあ、先生! リュドミナ先生が乗ってくれる?」
「はあ? わたしかい?」
「そう、大人なら、足が届くと思う!」
「あんたたち、よく考えな。足も長いけど、体重もそれなりにあるだろ。こんな重たい体を乗せて飛ぶなんて…」
と、そこまで言って、カーライルを見た。
リュドミナとカーライルの背はほとんど変わらないが、豊満な体つきのリュドミナと違って、カーライルはどこからみて細身だ。
「カーライル兄ちゃん!」
トーヤの目がすがりついてくる。
「カーライルお兄ちゃん!」
隣にいるリーヤの目はうるんでいる。
「いや、待てってば…」
「カーライル兄ちゃん、ハーレ商会の飛空艇は乗ったんだよな?」
「ああ、まあ、そうだけど」
「なら、この機体でも乗れるよね?」
「え?」
「操縦の基本は同じだよ!」
「いや、あの機体には無線がついてて、ハーレがひとつひとつ指示を出してくれていたから…」
「あの子、そんなものまで、機体につけていたの?」
リュドミナが感心してそう言った。
「無線機のことなんて、いつ勉強したんだか。ほんとうに大した子ね。教えた覚えのないことまで、やっちまうんだから」
「いや、リュドミナ、話がずれてる。もし、この機体に無線がついてないなら、本当に無理だからな」
「無線がついてたら、乗れるのかい?」
「もしかして…」
「いまはついてないけど。無線くらい、すぐにつけてやるよ。座席の予備はないけど、無線の予備なら、帝都に戻れば簡単に手に入る」
特注品の飛空艇用の座席よりも、汎用品の無線のほうが調達が容易だなんて、カーライルにわかるはずはなかった。
「さすがに、座席のパーツは替えがないね」
リュドミナが腕を組んで考え込んだ。
「帝都に戻れば、調達できないですか?」
リーヤの疑問はもっともだ。あの帝都なら、どんなものでも調達できるんじゃないかと思わせる。
「この座席は特注なんだよ。軽くて丈夫な木を彫りぬいて作ってもらったんだ。簡単に手に入るもんじゃなくてね」
カーライルは、ふとアスガネ工房での話を思い出した。
「実験飛行で使ってた機体ではどうしてたんだ。元の機体は親爺さんが乗ってたんだろ。それをトーヤが乗れるように改造したんじゃないのか?」
そう聞くと、双子は顔を見合わせた。
「食堂の椅子…」
「え?」
「家にあった食堂の椅子の足を短く切り落として、操縦席にいれてビスで固定してたんだ」
「あんたたち、なかなか無茶するね」
「毛布の内側にクッションをたくさんつめれば、座り心地は悪くなかったよ」
トーヤの話を聞いて、リュドミナが先に釘をさした。
「ここの食堂の椅子は勘弁しておくれ」
「え、トーヤ、もしかして、狙ってたのか?」
ふとカーライルがトーヤの隣を見ると、リーヤの腕にはすでに毛布が抱え込まれていた。
「リーヤまで…」
「とにかく、食堂の椅子はなしだ。そんな不安定な状態での実験飛行なんて許せるわけないだろ」
リュドミナの言うことはもっとも過ぎて、トーヤもリーヤもしゅんとなってしまった。カーライルの言うことは、ほとんど聞いてくれない双子でも、リュドミナのことは信頼しているのか、たいてい、一言で収まった。
「じゃあ、先生! リュドミナ先生が乗ってくれる?」
「はあ? わたしかい?」
「そう、大人なら、足が届くと思う!」
「あんたたち、よく考えな。足も長いけど、体重もそれなりにあるだろ。こんな重たい体を乗せて飛ぶなんて…」
と、そこまで言って、カーライルを見た。
リュドミナとカーライルの背はほとんど変わらないが、豊満な体つきのリュドミナと違って、カーライルはどこからみて細身だ。
「カーライル兄ちゃん!」
トーヤの目がすがりついてくる。
「カーライルお兄ちゃん!」
隣にいるリーヤの目はうるんでいる。
「いや、待てってば…」
「カーライル兄ちゃん、ハーレ商会の飛空艇は乗ったんだよな?」
「ああ、まあ、そうだけど」
「なら、この機体でも乗れるよね?」
「え?」
「操縦の基本は同じだよ!」
「いや、あの機体には無線がついてて、ハーレがひとつひとつ指示を出してくれていたから…」
「あの子、そんなものまで、機体につけていたの?」
リュドミナが感心してそう言った。
「無線機のことなんて、いつ勉強したんだか。ほんとうに大した子ね。教えた覚えのないことまで、やっちまうんだから」
「いや、リュドミナ、話がずれてる。もし、この機体に無線がついてないなら、本当に無理だからな」
「無線がついてたら、乗れるのかい?」
「もしかして…」
「いまはついてないけど。無線くらい、すぐにつけてやるよ。座席の予備はないけど、無線の予備なら、帝都に戻れば簡単に手に入る」
特注品の飛空艇用の座席よりも、汎用品の無線のほうが調達が容易だなんて、カーライルにわかるはずはなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】魔法道具の預かり銀行
六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。
彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。
その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。
「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる