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第八章
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颯爽と廊下を歩くリュドミナは女性にしては立派な体格をしており、カーライルよりも上背があった。ぴったりとした赤いワンピースにハイヒールの姿からは、とても機械工学系の教授には見えない。しかしよく見ると、その指先には機械油がこびりついていて、熟練のエンジニアの手であると主張しているようだった。
「なんかいい匂いするよね」
リュドミナの後ろを歩いていたリーヤが、くんくんと鼻を鳴らしながら、そう言った。
「ああ、なんか煮込み料理の匂いだよな…」
そう答えたトーヤの腹の虫が盛大に大合唱を始めた。アルフィユからこっち、買い置きしていた石パンしか口にしていない。それも今朝、三等分したのが最後だった。スープだか、シチューだかの匂いに吸い寄せられたとしてもおかしくはない。
遠出すると言っていたリュドミナが連れてきたのは、学生のための食堂だった。確かにリュドミナの研究室からは、それなりに歩きはしたが、遠出というほどのことはない。
「これが、皇立大学の食堂か!」
トーヤが感嘆の声を上げるのも無理はなかった。百人は優に座れる座席がある。料理を並んで受け取って座る形式らしい。煮込み料理はもちろん、肉を炙ったものや、卵料理、色とりどりの甘い菓子もならんでいる。
「リュドミナ先生、おすすめ料理はなんですか?」
「はあ? なに言ってんだい。ここで食べないよ」
「えーー!」
双子が悲壮な声を上げた。
「遠出だっていっただろ。ほら、あそこに売店がある。食料を買い込むよ」
そう言うと、焼きたてのパンに、ひき肉の炒め物を詰めたものや、揚げた白身魚を挟んだものなど、どんどん籠にほうりこんでいく。日持ちしそうな、干し果実を練りこんだパンや燻製肉、大きめの水筒に入った飲み物もだ。葡萄酒の瓶まで籠にはいっていた。
「ほら、あんたたちも食べたいもの、この籠に入れて」
三人はリュドミナの言葉に甘えることにした。支払いは、もちろんリュドミナだ。そうなると、遠慮という言葉はどこへやら、パンから、菓子までどんどん積み上げて、籠の中はあっという間にいっぱいになった。
買い出しを終わらせると、リュドミナは今朝乗っていた車のところまで連れて行った。
「見ての通り、この車二人乗りなのよ」
確かに、屋根のないリュドミナの車は、運転席と助手席だけで、後ろは荷台になっていた。「そこの木箱、ふたつ後ろに積んでくれる」
「もしかして、それって…」
カーライルが恐る恐る聞いてみると。リュドミナはにっと笑った。
「悪いけど、男ふたりは、その箱に座ってもらうよ。妹ちゃん、えっと」
「リーヤです」
「リーヤは、わたしの隣に座って」
「はい」
リーヤは、カーライルとトーヤに向かって得意げに笑った。
「ほら、さっさと乗る!」
リュドミナ自身も運転席に乗り込むと、エンジンのキーをひねった。
「なんかいい匂いするよね」
リュドミナの後ろを歩いていたリーヤが、くんくんと鼻を鳴らしながら、そう言った。
「ああ、なんか煮込み料理の匂いだよな…」
そう答えたトーヤの腹の虫が盛大に大合唱を始めた。アルフィユからこっち、買い置きしていた石パンしか口にしていない。それも今朝、三等分したのが最後だった。スープだか、シチューだかの匂いに吸い寄せられたとしてもおかしくはない。
遠出すると言っていたリュドミナが連れてきたのは、学生のための食堂だった。確かにリュドミナの研究室からは、それなりに歩きはしたが、遠出というほどのことはない。
「これが、皇立大学の食堂か!」
トーヤが感嘆の声を上げるのも無理はなかった。百人は優に座れる座席がある。料理を並んで受け取って座る形式らしい。煮込み料理はもちろん、肉を炙ったものや、卵料理、色とりどりの甘い菓子もならんでいる。
「リュドミナ先生、おすすめ料理はなんですか?」
「はあ? なに言ってんだい。ここで食べないよ」
「えーー!」
双子が悲壮な声を上げた。
「遠出だっていっただろ。ほら、あそこに売店がある。食料を買い込むよ」
そう言うと、焼きたてのパンに、ひき肉の炒め物を詰めたものや、揚げた白身魚を挟んだものなど、どんどん籠にほうりこんでいく。日持ちしそうな、干し果実を練りこんだパンや燻製肉、大きめの水筒に入った飲み物もだ。葡萄酒の瓶まで籠にはいっていた。
「ほら、あんたたちも食べたいもの、この籠に入れて」
三人はリュドミナの言葉に甘えることにした。支払いは、もちろんリュドミナだ。そうなると、遠慮という言葉はどこへやら、パンから、菓子までどんどん積み上げて、籠の中はあっという間にいっぱいになった。
買い出しを終わらせると、リュドミナは今朝乗っていた車のところまで連れて行った。
「見ての通り、この車二人乗りなのよ」
確かに、屋根のないリュドミナの車は、運転席と助手席だけで、後ろは荷台になっていた。「そこの木箱、ふたつ後ろに積んでくれる」
「もしかして、それって…」
カーライルが恐る恐る聞いてみると。リュドミナはにっと笑った。
「悪いけど、男ふたりは、その箱に座ってもらうよ。妹ちゃん、えっと」
「リーヤです」
「リーヤは、わたしの隣に座って」
「はい」
リーヤは、カーライルとトーヤに向かって得意げに笑った。
「ほら、さっさと乗る!」
リュドミナ自身も運転席に乗り込むと、エンジンのキーをひねった。
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