空の話をしよう

源燕め

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第七章

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 駅に向かうと、ちょうど黒光りする蒸気機関車がホームに入線してきたところだった。
「あれが、汽車…!」
「わあ、すげぇ!」
 リーヤとトーヤが手を取り合って声をあげる。その様子にカーライルは首を傾げた。
「ん? トーヤもリーヤも、汽車を見るの初めてなのか?」
「そうだよ! 実は、アルフィユに来たのも初めてなの」
「おい、その割には、偉そうだったよな」
「アルフィユのことをほとんど知らない人に言われたくないね」
 トーヤはまだ知ったかぶりを続けるつもりらしい。確かに二人とも初めてきた土地の割には駅のことも、切符の買い方も迷ってる様子はなかった。
「いろいろ、下調べしてきたらね。そのあたりは、カーライル兄ちゃんとは違うんだ」
「痛いところつくよな…」
 カーライルはぶつぶついいながら、汽車に乗り込んだ。十分なお金がない三人はもちろん二等車だ。二等車といっても、馬車の荷台とは比べものにならない。立派な二人掛けの椅子が向かい合わせであり、背もたれまである。座面は幾分かたそうだが、布張りはしてあるし、その手触りも滑らかだ。
 大きな汽笛がなると、規則正しい蒸気機関の音とともに、アルフィユの街を滑り出した。
「これだけの重量のものを引っ張って、これだけの速度で走るってすごいよな」
 カーライルが感心したようにいう。
「そうだよな。ただ、蒸気機関は飛空艇には使えない」
「どうして?」
「蒸気機関車ってさ、走りながら石炭をくべてるんだ。飛空艇でそんなことできないだろ」
「そうか、さすがにそれは無理だな」
「すごい馬力を出せるんだけど、逆に飛空艇にはこれほどの力はいらない。やっぱりバランスが大切なんだよ」
「親爺さんの初飛行は自転車だもんな。人力でも、飛べることは飛べるってところか」
 そういうと、リーヤが笑って答えた。
「飛ぶだけなら自転車でもね。でも、あの写真じゃわからなかったかもしれないけど、自転車だと、馬小屋の屋根の高さまであがるのが限界だったって、父さんが言ってた」
「足がちぎれるほどこいでも、それが限界だってさ。だって、想像してみてよ、自分の足で回すプロペラの力だけで、あの重量の機体を持ち上げようって言うんだよ」
「いや、それは、プロペラの力だけで飛ぼうとするからだ」
 カーライルは、珍しく真剣な顔で答えた。
「キールが、プロペラの力で飛ぼうとしたのは正しいことだと思う。でも、それだけじゃないんだ。ちゃんと風をとらえれば、プロペラがなくても飛べる」
「どういうこと…?」
「鳥は空を飛ぶとき、ずっと羽ばたいているわけじゃない」
「そうだね、羽根を水平にして…」
「そう、羽根で風を捕まえて、その流れに乗ればいい。空を飛んだトーヤならその感覚はわかるんじゃないか」
「うーん。確かに風の流れは意識するけど、風に乗るって言うのはちょっとよくわかんないや」
「そうか…。あの一度の実験飛行だけじゃ、感覚をつかむのは難しいか」
「カーライル兄ちゃんは、ハーレ商会の機体に乗ってた時、それがわかったの?」
「……いや」
 カーライルはつい、本当のことを言ってしまいそうになり、途中で口ごもった。
「あ、そう、そうなんだ。飛行しているとき、ちょっと風に乗るっていうか、なんか軽く飛んでる瞬間とかあって、なんか気持ちいい飛び方だあなぁってな」
「そうか、ハーレ商会の飛空艇は、そこまで完成度が高いのか…」
「トーヤ、でもハーレ商会の機体にも、まだまだ改善点はありそうだったわよ」
「まあな。タシタカに戻ったら、あっちの機体をもっとよく見せてもらえないか、ザックさんに交渉してみよう」
 カーライルは、なんとかごまかすことができて胸をなでおろした。三人で一緒にいる時間が長くなるほど、隠しつづけておくことが難しくなっている。つい、カーライル自身が本当のことを口にしてしまいそうになるのが良くない。トーヤとリーヤに気を許し過ぎているのかもしれなかった。
 汽車の中で座ったまま一泊し、翌日の昼過ぎには帝都フェーレンに着くはずだ。二等車でも十分と思っていたが、さすがに木の椅子にほぼ直角に座ったまま一晩揺られ続けると、体ががちがちになってしまっていた。
 文句を言いながらも、カーライルが驚いたのは、この蒸気機関車というやつが一晩中走り続けるということだった。途中何度か停車して、燃料や水を補給していたが、機関士が交代しつつずっと帝都に向けて走り続けたのだ。一人乗りの飛空艇ではできないやり方だ。
 そして、車窓から見えはじめた帝都の姿は圧巻というしかなかった。アルフィユがただの地方都市だというのがうなずける。まだ、遠くに見えるだけだが、ぎっしりと建物がひしめきあい、その奥にいくつもの塔に囲まれたひときわ高い建物があるのがわかった。おそらくそれが皇宮だろう。
 トーヤの話だと、汽車自体は帝都の中心に乗り入れることはできず、都の東端に駅があるのだと言っていた。黒い煙を吐く蒸気機関車が街の中心を走るわけにはいなかいからだ。
 汽車はゆっくりと速度を落としていき、汽笛を何度か短く鳴らした。
 駅舎がどんどん近づいてくる。乗り降りするホームだけがあったアルフィユの駅とは違う。ホームには丸いガラス屋根があり、線路はその奥で途切れていた。帝都フェーレンが終着駅だからだ。
 ブレーキの音がして、汽車が止まると、乗客たちは棚の上からそれぞれ荷物を降ろすと汽車を降りていった。
 カーライルたちも、わずかな手荷物とともに、帝都フェーレンに降り立ったのだ。
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