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第四章
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「入れ」
ハーレが短く答えると、二人の男が部屋に入ってきた。
「今日はこの男ということか。まだ子どもじゃないか」
「ハーレさん、勘弁してくださいよ。そんなに簡単に代わりが見つかるわけじゃありませんからね」
ハーレと呼ばれた女性の前に、カーライルはどんと突き出された。
「ふん、変わった髪の色をしているね。どこから来たんだ?」
「言ってもわからないくらい遠くから」
カーライルは、これがハーレ商会のトップかと、上から下までその姿をみた。細身で背が高い。目は少しつり上がっているが、瞳は大きい。そして澄んだ翠色だ。
酒場で聞いたときは、世界で一番のエンジニアだと言っていたが、それにしては若すぎる気がする。
「わたしが珍しいか?」
「いや、酒場の噂できいていたのとイメージが違うなと思って」
「どんな人間だと思っていたのだ」
「うーん。四十過ぎの親爺さんだと思っていたよ。だってアスガネ工房と張り合ってるって聞いてたから」
「なるほどな。アスガネ工房と張り合いだしたのは、ここ五年の話だ」
「あ、そういうことか」
ハーレは、手元の煙草に火をつけると、面倒くさそうにカーライルに聞いた。
「この仕事は?」
「仕事って、飛空艇の操縦士のことか?」
「そうだ。経験は?」
「あるわけないだろ?」
「自動車や蒸気機関車は?」
「じ、じど、なんだって」
その答えを聞いて、ハーレは煙を吐き出した。飛空艇はタシタカにしかないため、その経験がないのはもっともだとして、帝都にならあふれている自動車の経験もないのでは期待外れだったのだろう。どうみても十代のなかばの、少年の域を出るかでないかのカーライルを連れてきた男たちに向けて、溜息をついた。
「どうして、この仕事をしようと?」
「手っ取り早く金がいるんでね」
「死ぬかもしれないぞ」
「ああ、そうだろうな。おれにこの仕事を紹介してくれた奴は、そんなこと一言も説明してくれなかったけどよ」
実際、仕事を引き受けるかどうかすら確認されなかった。この話を聞いた瞬間、カーライルには見張りがつき、まるで犯罪者を護送するかのように、ハーレの前まで連れてこられたのだ。
「勇気があるのか、馬鹿なのか…」
また、ハーレがふぅと煙りを吐き出した。
「あんた、それ、やめたほうがいいよ」
「何をだ…? ああ、煙草のことか」
「なんか、似合わない」
カーライルは直感的に思ったことを口に出しただけだった。
「似合わないか。だが、苛立ちを隠すのに、これ以上のものがなくてな」
ハーレは吸い掛けの煙草を灰皿で消すと、手元にあったファイルをカーライルに投げ渡した。
「長話をしている時間はない。この機体に乗ってもらう。今からだ」
ハーレが短く答えると、二人の男が部屋に入ってきた。
「今日はこの男ということか。まだ子どもじゃないか」
「ハーレさん、勘弁してくださいよ。そんなに簡単に代わりが見つかるわけじゃありませんからね」
ハーレと呼ばれた女性の前に、カーライルはどんと突き出された。
「ふん、変わった髪の色をしているね。どこから来たんだ?」
「言ってもわからないくらい遠くから」
カーライルは、これがハーレ商会のトップかと、上から下までその姿をみた。細身で背が高い。目は少しつり上がっているが、瞳は大きい。そして澄んだ翠色だ。
酒場で聞いたときは、世界で一番のエンジニアだと言っていたが、それにしては若すぎる気がする。
「わたしが珍しいか?」
「いや、酒場の噂できいていたのとイメージが違うなと思って」
「どんな人間だと思っていたのだ」
「うーん。四十過ぎの親爺さんだと思っていたよ。だってアスガネ工房と張り合ってるって聞いてたから」
「なるほどな。アスガネ工房と張り合いだしたのは、ここ五年の話だ」
「あ、そういうことか」
ハーレは、手元の煙草に火をつけると、面倒くさそうにカーライルに聞いた。
「この仕事は?」
「仕事って、飛空艇の操縦士のことか?」
「そうだ。経験は?」
「あるわけないだろ?」
「自動車や蒸気機関車は?」
「じ、じど、なんだって」
その答えを聞いて、ハーレは煙を吐き出した。飛空艇はタシタカにしかないため、その経験がないのはもっともだとして、帝都にならあふれている自動車の経験もないのでは期待外れだったのだろう。どうみても十代のなかばの、少年の域を出るかでないかのカーライルを連れてきた男たちに向けて、溜息をついた。
「どうして、この仕事をしようと?」
「手っ取り早く金がいるんでね」
「死ぬかもしれないぞ」
「ああ、そうだろうな。おれにこの仕事を紹介してくれた奴は、そんなこと一言も説明してくれなかったけどよ」
実際、仕事を引き受けるかどうかすら確認されなかった。この話を聞いた瞬間、カーライルには見張りがつき、まるで犯罪者を護送するかのように、ハーレの前まで連れてこられたのだ。
「勇気があるのか、馬鹿なのか…」
また、ハーレがふぅと煙りを吐き出した。
「あんた、それ、やめたほうがいいよ」
「何をだ…? ああ、煙草のことか」
「なんか、似合わない」
カーライルは直感的に思ったことを口に出しただけだった。
「似合わないか。だが、苛立ちを隠すのに、これ以上のものがなくてな」
ハーレは吸い掛けの煙草を灰皿で消すと、手元にあったファイルをカーライルに投げ渡した。
「長話をしている時間はない。この機体に乗ってもらう。今からだ」
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