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第八章:そして死ぬ前にただ一度だけ、セックスをしたあの人と。
8-10・結果報告 その1
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欠片源所持者:ユージン
行為遂行対象者:ミゴー
場所:特段の希望なし 標準様式にて対応
用具:医療用ベッド一台、ペチュニア及びカランコエの花による装飾
備考:源所持者の要望により、源所持者本人の記憶消去を実行
一度目の行為において欠片の浄化が不完全だった為、二度目の行為により浄化を完遂
用具を回収し、帰り支度を整えて、事務所に繋がる窓をくぐる。いつもと同じ、何回となく繰り返したルーティンだ。違いと言ったら、仕事の対象が俺たち自身であったことだけ。
「はぁ……あー、とりあえず終わった終わった。あとは報告だけだな」
わざとらしく宣言してデスクに向かう。自分の一挙一動が、妙にぎこちないのは自覚している。いつもなら容赦なく突っ込んでくるであろうミゴーも、今日に限っては何も言わない。別に気まずいわけじゃないけれど、どうも照れくさくて顔が見られない。
机に置いたマッコスの鉢を、無意味にぐるりと一回転させる。土の上に落ちた葉の端から、早くも新しい芽が伸び始めている。
隣の席に着いたミゴーが、「あ」と小さく声を上げた。ちらりと目線だけをそちらに向ける。ミゴーは黒いケースの留め金を外し、俺の方へとかざしてみせる。
「ユージンさん。俺の、こうなってました」
「……おお」
見せられたカケラは、黒色をしていた。ただしその黒は以前の濁った黒じゃなく、黒曜石のように艶めいた、どこまでも深い純粋な黒だ。
「綺麗だな」
思わずそんなふうに呟いた。この仕事を始めて以来ありとあらゆる色のカケラを目にしたが、その中でも一等美しい黒だと思った。他意なく感動する俺に、ミゴーはちょっと動揺したように手を止めて、それから「あはは」と笑い声を上げる。
「やだなあ、そんなまじまじと見ないでくださいよ。スケベ」
「は? 何言ってんだお前」
「お返しに、ユージンさんのも見せてもらいますからね」
「あ、こらっ」
止める間もなく、胸ポケットに入れていたケースを掠め取られてしまった。ぱちんと開いて現れたのは、真っ白な光を放つ小さな結晶。俺が残した未練のカケラだ。
「……へえ」
ミゴーもまた、小さく感嘆の声を漏らした。指先がカケラの表面を、壊れ物を扱うように優しく撫でる。なんだか身の置き所がない。別に見られて減るもんでもない、というかむしろ積極的に確認すべきものではあるのだが、なんとなく恥ずかしくなってしまうのは変な言いがかりをつけられたせいだろうか。
顔を上げたミゴーと目が合う。反射的に目を逸らす。ああもう、何をやってるんだ、俺は。仕事を続けるふりに戻ると、隣のミゴーがくすっと笑う気配がした。
行為遂行対象者:ミゴー
場所:特段の希望なし 標準様式にて対応
用具:医療用ベッド一台、ペチュニア及びカランコエの花による装飾
備考:源所持者の要望により、源所持者本人の記憶消去を実行
一度目の行為において欠片の浄化が不完全だった為、二度目の行為により浄化を完遂
用具を回収し、帰り支度を整えて、事務所に繋がる窓をくぐる。いつもと同じ、何回となく繰り返したルーティンだ。違いと言ったら、仕事の対象が俺たち自身であったことだけ。
「はぁ……あー、とりあえず終わった終わった。あとは報告だけだな」
わざとらしく宣言してデスクに向かう。自分の一挙一動が、妙にぎこちないのは自覚している。いつもなら容赦なく突っ込んでくるであろうミゴーも、今日に限っては何も言わない。別に気まずいわけじゃないけれど、どうも照れくさくて顔が見られない。
机に置いたマッコスの鉢を、無意味にぐるりと一回転させる。土の上に落ちた葉の端から、早くも新しい芽が伸び始めている。
隣の席に着いたミゴーが、「あ」と小さく声を上げた。ちらりと目線だけをそちらに向ける。ミゴーは黒いケースの留め金を外し、俺の方へとかざしてみせる。
「ユージンさん。俺の、こうなってました」
「……おお」
見せられたカケラは、黒色をしていた。ただしその黒は以前の濁った黒じゃなく、黒曜石のように艶めいた、どこまでも深い純粋な黒だ。
「綺麗だな」
思わずそんなふうに呟いた。この仕事を始めて以来ありとあらゆる色のカケラを目にしたが、その中でも一等美しい黒だと思った。他意なく感動する俺に、ミゴーはちょっと動揺したように手を止めて、それから「あはは」と笑い声を上げる。
「やだなあ、そんなまじまじと見ないでくださいよ。スケベ」
「は? 何言ってんだお前」
「お返しに、ユージンさんのも見せてもらいますからね」
「あ、こらっ」
止める間もなく、胸ポケットに入れていたケースを掠め取られてしまった。ぱちんと開いて現れたのは、真っ白な光を放つ小さな結晶。俺が残した未練のカケラだ。
「……へえ」
ミゴーもまた、小さく感嘆の声を漏らした。指先がカケラの表面を、壊れ物を扱うように優しく撫でる。なんだか身の置き所がない。別に見られて減るもんでもない、というかむしろ積極的に確認すべきものではあるのだが、なんとなく恥ずかしくなってしまうのは変な言いがかりをつけられたせいだろうか。
顔を上げたミゴーと目が合う。反射的に目を逸らす。ああもう、何をやってるんだ、俺は。仕事を続けるふりに戻ると、隣のミゴーがくすっと笑う気配がした。
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