77 / 115
第六章・壊れてしまった物語を美しく終わらせるために、あの図書室で物語を分け合った先生と。
6-8・欲望の行末
しおりを挟む
肉体の反応を先生の前に晒すのは、先生自身に触れるよりも更に一段深い抵抗があった。彼が抱いているであろう理想に、僕の体は反していないだろうか。なるべく手の内に隠すようにして、僕のそれを先生のそれに押しつける。中心で佇む先生のものはもはや、芯が入ったみたいに硬度を増していた。先端の、赤剥けみたく露出した肉を触れ合わせる。粘性のある感触が先っぽの穴から中まで入り込んでくるみたいで、腿の付け根がぞくりと震えた。
「っは、ぁ、ねえ、先生……っ、……先生は、僕を……、抱きたいと、思ってくれてたんでしょう」
「……っく」
「ふ、っ、この期に及んで、隠さないでよ……、僕はもう、死人なのにっ」
「……っ……!」
形のよい眉が、初めて苦しげに歪んだ。それで僕はなんだか少し得意になってしまった。好きな人にこんな顔をさせておいて、酷い話だ。調子に乗って腰を浮かせ、屹立したそれの上に跨る姿勢を取った。尻の割れ目に熱いものが滑る。男の肉体を持つ僕が、先生を受け入れられる唯一の箇所に。
「いいんだよ、先生。先生が先生であることを貫いたのは尊敬すべき事実だけど……今の僕はもう、人倫の及ぶ存在ではないから」
「能、交っ……」
「だから……ね」
「……っ!」
十分すぎるほど硬くなったものに手を添えて、あてがった部位に体重をかける。きつく閉じた筋肉をぐっと押し開いて、先生が僕のなかに入り込んでくる。
「は……ぁ……っ」
「……っふ……っ」
抵抗は、されなかった。それどころか先生の欲望は、歓喜を示すみたいに僕のなかで大きく膨れ上がっていた。加減を知らず絞めつける肉の孔が、無理に拡げられる痛みに悲鳴を上げる。ふっ、ふっと短い息を吐きながら、僕は先生の首に両腕ですがりつく。
「そうだ、私……私、は」
うわ言みたいな小さな声で、先生が囁いた。
「私は、貴方に……、……情欲、を……抱いていた」
「……うん」
「……貴方の肉体に、触れたい、と……貴方を、この腕に、……抱きたいと」
「うん。……ふふ、やっと認めてくれたね」
感極まった気分になりながら、広い背を両腕でかき抱く。けれど先生は責め苦を与えられる罪人の顔で、遠い天井をじっと見上げたままだ。
「許される、ことではない……、……貴方に、合わせる顔がない」
「まだそんな……、僕が、僕自身が、望んでるんだよ」
繋がった部分に力を込めて、焦れったく腰を揺する。僕がこれだけみっともない様を晒しているというのに、先生は目を逸らしたまま静かに首を振る。
「貴方に……、貴方には、素晴らしい物語だけを……見ていて欲しかった。……愛や、悲しみ、希望や……絶望……人間の精神を凝縮して、絞り出された……一雫だけを」
「え……」
「こんな……こんな、醜い、動物的な……性欲ではなく」
絞り出すようにそう呟いて、先生は目を閉じた。切れ長の目元が一瞬だけ光って見えたのは、恐らく光の加減による錯覚だろう。
「っは、ぁ、ねえ、先生……っ、……先生は、僕を……、抱きたいと、思ってくれてたんでしょう」
「……っく」
「ふ、っ、この期に及んで、隠さないでよ……、僕はもう、死人なのにっ」
「……っ……!」
形のよい眉が、初めて苦しげに歪んだ。それで僕はなんだか少し得意になってしまった。好きな人にこんな顔をさせておいて、酷い話だ。調子に乗って腰を浮かせ、屹立したそれの上に跨る姿勢を取った。尻の割れ目に熱いものが滑る。男の肉体を持つ僕が、先生を受け入れられる唯一の箇所に。
「いいんだよ、先生。先生が先生であることを貫いたのは尊敬すべき事実だけど……今の僕はもう、人倫の及ぶ存在ではないから」
「能、交っ……」
「だから……ね」
「……っ!」
十分すぎるほど硬くなったものに手を添えて、あてがった部位に体重をかける。きつく閉じた筋肉をぐっと押し開いて、先生が僕のなかに入り込んでくる。
「は……ぁ……っ」
「……っふ……っ」
抵抗は、されなかった。それどころか先生の欲望は、歓喜を示すみたいに僕のなかで大きく膨れ上がっていた。加減を知らず絞めつける肉の孔が、無理に拡げられる痛みに悲鳴を上げる。ふっ、ふっと短い息を吐きながら、僕は先生の首に両腕ですがりつく。
「そうだ、私……私、は」
うわ言みたいな小さな声で、先生が囁いた。
「私は、貴方に……、……情欲、を……抱いていた」
「……うん」
「……貴方の肉体に、触れたい、と……貴方を、この腕に、……抱きたいと」
「うん。……ふふ、やっと認めてくれたね」
感極まった気分になりながら、広い背を両腕でかき抱く。けれど先生は責め苦を与えられる罪人の顔で、遠い天井をじっと見上げたままだ。
「許される、ことではない……、……貴方に、合わせる顔がない」
「まだそんな……、僕が、僕自身が、望んでるんだよ」
繋がった部分に力を込めて、焦れったく腰を揺する。僕がこれだけみっともない様を晒しているというのに、先生は目を逸らしたまま静かに首を振る。
「貴方に……、貴方には、素晴らしい物語だけを……見ていて欲しかった。……愛や、悲しみ、希望や……絶望……人間の精神を凝縮して、絞り出された……一雫だけを」
「え……」
「こんな……こんな、醜い、動物的な……性欲ではなく」
絞り出すようにそう呟いて、先生は目を閉じた。切れ長の目元が一瞬だけ光って見えたのは、恐らく光の加減による錯覚だろう。
3
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。


【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。


僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる