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第五章・きっとこの手の中に戻ってきてくれるはずの、今はまだ遠いお前と。
5-10・世界が変わった日
しおりを挟む「フィオナ、これが何か分かる?」
パンプキンパイを焼き終えた後、おもむろにレティシアはフィオナに訊いた。瓶に入った白い粉を見て、フィオナは首を傾げる。
「粉砂糖じゃないの?」
「いいえ、これは妖精の粉よ。母さん、苦労して手に入れたの」
「妖精の粉? 初めて聞いたわ、そんな調味料」
目を瞬くフィオナ。
「違うわ、真実、妖精の粉なの。妖精を捕まえて、その鱗粉を採取したのよ」
「お母さん、私、小さい子どもじゃないんだから、騙されないわよ?」
フィオナがじっとレティシアを見つめるのに、レティシアはうふふと微笑む。
「これをかけた食べ物を食べると、どんな人でも笑顔になるの。鉄仮面……ロベルト殿に持っていって御覧なさい。絶対に笑うから」
「ロベルトさんが……?」
信じられなかったが、見てみたいような気もしたので、フィオナはロベルトの所にパンプキンパイを持っていった。
「ロベルトさん、こちらを召し上がってみて下さいませんか?」
「ありがとう、フィオナ殿。美味そうだな」
警備団のロベルトの執務室に顔を出してパイを差し入れすると、ロベルトはフィオナに促されるまま、パイを食べてくれた。
ドキドキとロベルトを見ていたフィオナは、ロベルトがにっこりと笑ったのを見て、目を丸くして驚いた。同じく、その顔を見てしまったハンスが、世界の終わりに直面したかのように呆然として、手に持っていた書類を落とす。バサバサと音を立てて紙が乱舞する。
「~~~~~!?」
ハンスの声の無い悲鳴が上がる横で、フィオナはぱああと表情を明るくする。
(すごい! 妖精の粉ってすごい!)
嬉しさのあまり、一言断って、家へ急いで帰る。
「お母さん、すごいわ。本当に笑ったの。ねえ、妖精の粉ってすごいのね……!」
いつになく笑顔のフィオナは、レティシアに報告した後、浮き浮きした足取りで部屋へと帰っていった。
「で、お母さん。いつ、ハッピーハロウィーンって言うの? 姉さん、今日がハロウィンってこと、全然気付いてないわよ」
「どうしようかしら、アイシス。ここでロベルト殿と三人で仕組んだ悪戯だって言ったら、お母さん、嫌われちゃうと思うの」
頬に手を当て、レティシアは溜息を吐く。
「何でネタばらししてないのかしら、ロベルト殿ったら」
「あの様子で言う暇無かったんじゃない? でも、副団長さん、笑うの成功したんだね。ここ一週間の母さんのしごきの甲斐があったわけだ」
「だって、アイシス。あの人が笑ったら、一番インパクトあるじゃない? 一番良い悪戯だと思ったんだけど……」
「後でバラしましょ。例え悪戯の為とはいえ、成功したのは奇跡よ」
練習中の光景を思い出し、アイシスはぶるると震えた。
「あたし、笑ってる人があんなに怖いと思ったの、初めてよ」
「私もよ。あれは子どもが泣くわけよねえ」
二人は青ざめた顔で言い合って、恐怖の記憶を頭から追い出した。
一方、ネタばらしされたハンスは、安堵の息を吐いていた。
「なんだ、悪戯ですか。天変地異の前触れかと思ったじゃないですか」
「……さりげなく失礼なことを言うな」
低く返しつつ、ロベルトは顔を手で撫でる。やがて頬をつまんでマッサージし始めるのを、ハンスは不思議そうに見る。
「顔がどうかしたんですか?」
「この一週間、笑う練習ばかりしていたせいで、顔の筋肉が痛いのだ。引きつる感じがする」
至極真面目な、悪く言えばただの無表情でロベルトは答える。
「無茶しますね、副団長」
そう返したハンスだが、笑顔の練習で顔面筋肉痛という状況に、笑いをこらえきれずについ吹き出してしまった。
……end.
※後日、フィオナは悪戯と知ってがっかりしましたが、ロベルトの奇跡の笑顔を見れたので大満足してました。
パンプキンパイを焼き終えた後、おもむろにレティシアはフィオナに訊いた。瓶に入った白い粉を見て、フィオナは首を傾げる。
「粉砂糖じゃないの?」
「いいえ、これは妖精の粉よ。母さん、苦労して手に入れたの」
「妖精の粉? 初めて聞いたわ、そんな調味料」
目を瞬くフィオナ。
「違うわ、真実、妖精の粉なの。妖精を捕まえて、その鱗粉を採取したのよ」
「お母さん、私、小さい子どもじゃないんだから、騙されないわよ?」
フィオナがじっとレティシアを見つめるのに、レティシアはうふふと微笑む。
「これをかけた食べ物を食べると、どんな人でも笑顔になるの。鉄仮面……ロベルト殿に持っていって御覧なさい。絶対に笑うから」
「ロベルトさんが……?」
信じられなかったが、見てみたいような気もしたので、フィオナはロベルトの所にパンプキンパイを持っていった。
「ロベルトさん、こちらを召し上がってみて下さいませんか?」
「ありがとう、フィオナ殿。美味そうだな」
警備団のロベルトの執務室に顔を出してパイを差し入れすると、ロベルトはフィオナに促されるまま、パイを食べてくれた。
ドキドキとロベルトを見ていたフィオナは、ロベルトがにっこりと笑ったのを見て、目を丸くして驚いた。同じく、その顔を見てしまったハンスが、世界の終わりに直面したかのように呆然として、手に持っていた書類を落とす。バサバサと音を立てて紙が乱舞する。
「~~~~~!?」
ハンスの声の無い悲鳴が上がる横で、フィオナはぱああと表情を明るくする。
(すごい! 妖精の粉ってすごい!)
嬉しさのあまり、一言断って、家へ急いで帰る。
「お母さん、すごいわ。本当に笑ったの。ねえ、妖精の粉ってすごいのね……!」
いつになく笑顔のフィオナは、レティシアに報告した後、浮き浮きした足取りで部屋へと帰っていった。
「で、お母さん。いつ、ハッピーハロウィーンって言うの? 姉さん、今日がハロウィンってこと、全然気付いてないわよ」
「どうしようかしら、アイシス。ここでロベルト殿と三人で仕組んだ悪戯だって言ったら、お母さん、嫌われちゃうと思うの」
頬に手を当て、レティシアは溜息を吐く。
「何でネタばらししてないのかしら、ロベルト殿ったら」
「あの様子で言う暇無かったんじゃない? でも、副団長さん、笑うの成功したんだね。ここ一週間の母さんのしごきの甲斐があったわけだ」
「だって、アイシス。あの人が笑ったら、一番インパクトあるじゃない? 一番良い悪戯だと思ったんだけど……」
「後でバラしましょ。例え悪戯の為とはいえ、成功したのは奇跡よ」
練習中の光景を思い出し、アイシスはぶるると震えた。
「あたし、笑ってる人があんなに怖いと思ったの、初めてよ」
「私もよ。あれは子どもが泣くわけよねえ」
二人は青ざめた顔で言い合って、恐怖の記憶を頭から追い出した。
一方、ネタばらしされたハンスは、安堵の息を吐いていた。
「なんだ、悪戯ですか。天変地異の前触れかと思ったじゃないですか」
「……さりげなく失礼なことを言うな」
低く返しつつ、ロベルトは顔を手で撫でる。やがて頬をつまんでマッサージし始めるのを、ハンスは不思議そうに見る。
「顔がどうかしたんですか?」
「この一週間、笑う練習ばかりしていたせいで、顔の筋肉が痛いのだ。引きつる感じがする」
至極真面目な、悪く言えばただの無表情でロベルトは答える。
「無茶しますね、副団長」
そう返したハンスだが、笑顔の練習で顔面筋肉痛という状況に、笑いをこらえきれずについ吹き出してしまった。
……end.
※後日、フィオナは悪戯と知ってがっかりしましたが、ロベルトの奇跡の笑顔を見れたので大満足してました。
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