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第五章・きっとこの手の中に戻ってきてくれるはずの、今はまだ遠いお前と。
5-5・解読
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山と積まれたコインを、二人で一枚一枚確認していく。トンボ、バッタ、カマキリ、カブト、クワガタ、蝶、蛾、蜘蛛、セミ、テントウムシ。簡略化された図柄はよく特徴を捉えていたが、細かい属名までは判別できない。オレも蜘藤も虫には詳しくないし、知らない特性をヒントにでもされたらお手上げだ。
それでも希望はあった。ミゴーはさっき、ヒントはオレたちの中にあると言っていた。
「普通に考えれば、蜘藤が蜘蛛。オレがサナギで、ジョウタロウだから……蝶?」
思い浮かんだままを口にする。蜘藤は渋い顔で腕を組んだ。
「いくらなんでも安直すぎないか。叡智と言うより子供向けのクイズじゃないか」
「んだよ。文句あんなら対案を出せよ」
自分でも薄々思っていたことをずばり指摘されて、つい唇を尖らせる。
「まあ、蜘藤が蜘蛛というのは合ってるかもな。苗字としてはあまり見ない文字だし……種類も多くないコインの中に、そんなミスリードを織り交ぜる意味もない」
「どうかな、あいつの性根次第だろ。ゲームマスターったって、公平性を信用できる根拠もねえし」
「そこは……祈るしかないな」
苦々しく呟きながら、蜘藤は二枚のコインを手に取った。金属同士がぶつかり合って、澄んだ高い音を立てる。
「なら順当に、蝶が空で、蜘蛛が葉っぱ……でいいのか?」
「本当に、そうなのかな。失敗は許されないんだぞ」
「う……」
「何かもっと、確信に至るようなヒントはないのか。俺たちの中……いや、俺たち二人……二人の中……?」
コインをちゃりちゃりと鳴らしながら、蜘藤はぶつぶつと考え込み始めた。つられて俺も思いを巡らせる。オレたち二人。と、言われたところで。
「別に、なんもねえだろ、オレとお前の共通点なんて」
「そうかな……佐薙は確か、東京の大学に進学したんだよな」
「おう。お前は?」
「俺は、地元にいる。うーん、個人情報の方面で何かわからないか? 住所とか電話番号とか、もしくは趣味嗜好とか……」
「趣味ねえ。正直、オレらの趣味が一致するとは思えねえけど」
それでも念のためひと通り、互いの情報を開示していく。今入っているサークルから大学の専攻、好きな食べ物から住所の番地まで。予想通りオレたちの好みはことごとく相反しており、照らし合わせてみたところでこれと言って合致する点も見受けられない。
「だーめだ、無理。だいたい高校のときだってろくに話したこともねえじゃん、オレら」
「……あ」
お手上げ状態で首を振る。と、蜘藤がふと、何かを考え込むように口元を押さえた。
「そうか。もしかして、そういうことなのか」
「あ? なんだよ」
「なあ、佐薙。俺たちが一度だけ、ふたりきりで話したときのことを覚えているか」
「え? あったっけ、そんなん」
「頼む、思い出してくれ。大事なことなんだ」
「えー……?」
やけに真剣な蜘藤の声に、ややたじろぎながらも記憶を探る。自分で言うのもなんだがオレは蜘藤と比べりゃ社交的な方だ。同じクラスだった奴らの中で、誰と喋ったかなんていちいち覚えてない。けれど蜘藤はまるで証拠を探す探偵か何かのように、妙に切迫した目で俺を睨みつけている。その迫力に引きずり出されたのか、かすれて消えかかった景色は、かろうじて脳の底から浮かび上がってきた。
それでも希望はあった。ミゴーはさっき、ヒントはオレたちの中にあると言っていた。
「普通に考えれば、蜘藤が蜘蛛。オレがサナギで、ジョウタロウだから……蝶?」
思い浮かんだままを口にする。蜘藤は渋い顔で腕を組んだ。
「いくらなんでも安直すぎないか。叡智と言うより子供向けのクイズじゃないか」
「んだよ。文句あんなら対案を出せよ」
自分でも薄々思っていたことをずばり指摘されて、つい唇を尖らせる。
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「どうかな、あいつの性根次第だろ。ゲームマスターったって、公平性を信用できる根拠もねえし」
「そこは……祈るしかないな」
苦々しく呟きながら、蜘藤は二枚のコインを手に取った。金属同士がぶつかり合って、澄んだ高い音を立てる。
「なら順当に、蝶が空で、蜘蛛が葉っぱ……でいいのか?」
「本当に、そうなのかな。失敗は許されないんだぞ」
「う……」
「何かもっと、確信に至るようなヒントはないのか。俺たちの中……いや、俺たち二人……二人の中……?」
コインをちゃりちゃりと鳴らしながら、蜘藤はぶつぶつと考え込み始めた。つられて俺も思いを巡らせる。オレたち二人。と、言われたところで。
「別に、なんもねえだろ、オレとお前の共通点なんて」
「そうかな……佐薙は確か、東京の大学に進学したんだよな」
「おう。お前は?」
「俺は、地元にいる。うーん、個人情報の方面で何かわからないか? 住所とか電話番号とか、もしくは趣味嗜好とか……」
「趣味ねえ。正直、オレらの趣味が一致するとは思えねえけど」
それでも念のためひと通り、互いの情報を開示していく。今入っているサークルから大学の専攻、好きな食べ物から住所の番地まで。予想通りオレたちの好みはことごとく相反しており、照らし合わせてみたところでこれと言って合致する点も見受けられない。
「だーめだ、無理。だいたい高校のときだってろくに話したこともねえじゃん、オレら」
「……あ」
お手上げ状態で首を振る。と、蜘藤がふと、何かを考え込むように口元を押さえた。
「そうか。もしかして、そういうことなのか」
「あ? なんだよ」
「なあ、佐薙。俺たちが一度だけ、ふたりきりで話したときのことを覚えているか」
「え? あったっけ、そんなん」
「頼む、思い出してくれ。大事なことなんだ」
「えー……?」
やけに真剣な蜘藤の声に、ややたじろぎながらも記憶を探る。自分で言うのもなんだがオレは蜘藤と比べりゃ社交的な方だ。同じクラスだった奴らの中で、誰と喋ったかなんていちいち覚えてない。けれど蜘藤はまるで証拠を探す探偵か何かのように、妙に切迫した目で俺を睨みつけている。その迫力に引きずり出されたのか、かすれて消えかかった景色は、かろうじて脳の底から浮かび上がってきた。
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