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第三章・せっくすの仕方がわからないぼくたちが、神の思し召しで遣わされた天使様方に教わって。
3-6・これ以上
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さて、指南を受ける側のぼくたちはと言うと、先ほどからお互い黙りこんだまま、ひたすらに睦み合うおふたりを眺めているばかりです。
行動に出る機会なら、幾度もあったはずなのです。例えばさっきの、レイの手を握りたいと思った瞬間とか。けれどそのたびにぼくの体は怯えたように竦み上がってしまって、レイに触れることはおろか、彼と目を合わせることすらできなくなってしまうのです。
このままではいけない。わかっているけれど、わかっているだけではきっと、ぼくたちの距離が縮まることはありません。とにかく今ぼくにできることは、おふたりを手本に正しいせっくすのやり方を学ぶことだけです。レイの方を見なくてすむように、ぼくはただおふたりにだけ視線を注ぎます。
ミゴー様とユージン様は、もはやぼくらの方になど目もくれていませんでした。ミゴー様の視線はひたすらにユージン様に注がれて。そしてユージン様の御目はどこに据えられることもなく涙の膜に覆われて、半ばとろりと蕩けてしまったようにすら見えました。
その瞳がふと、風に煽られるように揺れ動きだします。部屋の中をふらふらとさまよい、ぼくらのいるベッドに目を向け──そしてその瞬間に、たった今ぼくらの存在に気づいたかのように瞳孔が収斂しました。
「……っ」
「ん? ……あぁ」
ユージン様の膝が再び寄せられ、ミゴー様は僅かに眉をしかめます。火照りを帯びたユージン様のお顔からようやっと引き剥がし、ぼくらに投げられたミゴー様の視線は、少し前までとは打って変わって、僅かな苛立ちの色を含んでいました。
「ねえ、君たち。あとはもう、わかるでしょう? 収まるべき場所に収めるべきものを収めりゃそれでいいんですよ、セックスなんて」
「ぼ、ぼくは……」
「……っは」
吐き捨てるような息と同時に、ミゴー様の顎がくっと上がります。
「別に、嫌ならやめてもいいんですよ。って言うか、やめたらどうですか」
「っ、おい、ミゴー!」
「だってそうでしょ? 神の思し召しだから仕方なくヤりましたなんて、救いがたいにも程がありますよ」
ぼくらを捉えたまますうっと細められた瞳には、もはや慈悲の欠片も残ってはおりません。けれど嘲るというよりはむしろ真剣なご様子で、ミゴー様はおもむろに口を開かれました。
「教えられなきゃ好きな相手の一人も抱けないようなガキに、セックスなんざ百年早い」
「……っ!」
「それに」
これ以上、見せてたまるか。
音にせず唇だけを動かして、ミゴー様はぼくらにそう告げました。おそらくは背中を抱いたユージン様にだけは、そのお言葉が伝わらないように。
ぼくはぐっと息を飲み込みました。くすぶる熱が煽られたように、頭の芯がかっと熱くなります。憤りにも似たその感情は、もちろんミゴー様ではなく、自分自身に向けられたものでした。
そのとき不意に、ユージン様がミゴー様の方を振り向きました。僅かに動揺を見せたミゴー様のおでこを、指先でぺちんと弾きます。
「痛っ」
「馬鹿。子供には優しくしろ、お前」
「やだなあ、俺は極力優しくしてるつもりですよ。ユージンさんだってほんとは似たようなこと思ってるくせに」
「だとしても、言い方ってもんがあるだろ」
「あはは、今更そんなとこだけいい人ぶってどうするんですか。そもそも俺たち子供にセックスさせに来てるんですよ」
「それはそれ、これはこれだ!」
「……レ、レイっ!」
おふたりのお声を断ち切って、ぼくはレイに向かって声を張り上げました。レイと、言い合いを中断したおふたりの視線が、一斉にぼくに注がれました。
行動に出る機会なら、幾度もあったはずなのです。例えばさっきの、レイの手を握りたいと思った瞬間とか。けれどそのたびにぼくの体は怯えたように竦み上がってしまって、レイに触れることはおろか、彼と目を合わせることすらできなくなってしまうのです。
このままではいけない。わかっているけれど、わかっているだけではきっと、ぼくたちの距離が縮まることはありません。とにかく今ぼくにできることは、おふたりを手本に正しいせっくすのやり方を学ぶことだけです。レイの方を見なくてすむように、ぼくはただおふたりにだけ視線を注ぎます。
ミゴー様とユージン様は、もはやぼくらの方になど目もくれていませんでした。ミゴー様の視線はひたすらにユージン様に注がれて。そしてユージン様の御目はどこに据えられることもなく涙の膜に覆われて、半ばとろりと蕩けてしまったようにすら見えました。
その瞳がふと、風に煽られるように揺れ動きだします。部屋の中をふらふらとさまよい、ぼくらのいるベッドに目を向け──そしてその瞬間に、たった今ぼくらの存在に気づいたかのように瞳孔が収斂しました。
「……っ」
「ん? ……あぁ」
ユージン様の膝が再び寄せられ、ミゴー様は僅かに眉をしかめます。火照りを帯びたユージン様のお顔からようやっと引き剥がし、ぼくらに投げられたミゴー様の視線は、少し前までとは打って変わって、僅かな苛立ちの色を含んでいました。
「ねえ、君たち。あとはもう、わかるでしょう? 収まるべき場所に収めるべきものを収めりゃそれでいいんですよ、セックスなんて」
「ぼ、ぼくは……」
「……っは」
吐き捨てるような息と同時に、ミゴー様の顎がくっと上がります。
「別に、嫌ならやめてもいいんですよ。って言うか、やめたらどうですか」
「っ、おい、ミゴー!」
「だってそうでしょ? 神の思し召しだから仕方なくヤりましたなんて、救いがたいにも程がありますよ」
ぼくらを捉えたまますうっと細められた瞳には、もはや慈悲の欠片も残ってはおりません。けれど嘲るというよりはむしろ真剣なご様子で、ミゴー様はおもむろに口を開かれました。
「教えられなきゃ好きな相手の一人も抱けないようなガキに、セックスなんざ百年早い」
「……っ!」
「それに」
これ以上、見せてたまるか。
音にせず唇だけを動かして、ミゴー様はぼくらにそう告げました。おそらくは背中を抱いたユージン様にだけは、そのお言葉が伝わらないように。
ぼくはぐっと息を飲み込みました。くすぶる熱が煽られたように、頭の芯がかっと熱くなります。憤りにも似たその感情は、もちろんミゴー様ではなく、自分自身に向けられたものでした。
そのとき不意に、ユージン様がミゴー様の方を振り向きました。僅かに動揺を見せたミゴー様のおでこを、指先でぺちんと弾きます。
「痛っ」
「馬鹿。子供には優しくしろ、お前」
「やだなあ、俺は極力優しくしてるつもりですよ。ユージンさんだってほんとは似たようなこと思ってるくせに」
「だとしても、言い方ってもんがあるだろ」
「あはは、今更そんなとこだけいい人ぶってどうするんですか。そもそも俺たち子供にセックスさせに来てるんですよ」
「それはそれ、これはこれだ!」
「……レ、レイっ!」
おふたりのお声を断ち切って、ぼくはレイに向かって声を張り上げました。レイと、言い合いを中断したおふたりの視線が、一斉にぼくに注がれました。
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