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第三章・せっくすの仕方がわからないぼくたちが、神の思し召しで遣わされた天使様方に教わって。
3-5・ふれる手
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「……はぁ……っ」
ユージン様の口から、感極まったような吐息がこぼれ落ちました。硬く閉じていた膝がわずかに緩みだします。ミゴー様を制止せんと後ろに回していた腕は、もはや当初の目的とは裏腹に、力なくミゴー様の胸に寄りかかっていました。
開いた膝の間から、スラックスの股の部分が覗いています。そこに目を落とした瞬間、ぼくの心臓はどきりと高鳴りました。ユージン様の肉体の一部が、前開きの部分を内側から突き破らんばかりに押し上げているのです。
ぼくはきっと今、見てはいけないものを見てしまっている。思わず逸らした視線の先で、同じく顔を背けたレイと目が合いました。
「……っ、レイ……」
「……」
「ぼく……ぼくは、……その」
「……イチカ」
うっすら頬を染めたレイが、ソファの上のぼくに向かって、ほんの僅かに距離を縮めてきました。心臓の高鳴りはますます激しさを増してゆきます。おそらくぼくは、今すぐにレイの手を取るべきです。そして天使様がたに教えてもらった、親愛のためではないキスを始めるべきなのです。だってそれが神様の思し召しなのですから。だけどぼくの手は、体は、凍りついたままどうしても微動だにできません。自分の罪深さがお腹の下でぐるぐると渦巻いて、どうしようもなく汚いものを溜め込み始めているような気がします。
「っ、あ!」
今一度、ユージン様が甲高い悲鳴を上げました。ぼくは逃げるようにそちらに顔を向けました。さっき僕が見てしまった肉体の一部、その突端を隠すように、ミゴー様の掌が覆い被さっています。
「あれぇ、ユージンさん? どうしたんですか、これ」
「っ、触、んな、見んなっ、生理現象だっ」
「あはは、生理現象ならしょうがないですよね。……俺も、ほら」
「……ッ!!」
ユージン様のお体に隠れて、ミゴー様の状態はぼくらにはわかりません。けれど動作からするとミゴー様は腰を僅かに突き出して、ユージン様の臀部にその部分を密着させたように見えました。ユージン様の全身がびくびくと、波打つように震えています。天を仰ぐユージン様の耳元に、ミゴー様の唇がかすめるように耳打ちします。
「ね。わかるでしょ、ユージンさんも」
「馬鹿、野郎……ッ、当てんな、そんなもんっ……!」
「そんなもん、は酷いなあ。一度は受け入れてもらったモノですよ? ユージンさんの……ここに」
「~~~~ッ!!」
ユージン様の目が大きく見開かれました。断続的に吐かれる息に抑えようのない熱が混じっていることは、隣のベッドの僕たちにすらわかります。黒いスーツの肩口に肩にミゴー様のお顔が伏せられると、ユージン様の唇から泣き声にも似た声が零れました。
「……ふ、ぁ……みご、ぉ……っ」
「……ッ」
ミゴー様の動きが、一瞬静止しました。ミゴー様に取りすがっていたユージン様の御手が、地に向かって力なく滑り落ちていきます。けれどシーツに触れる直前で、ミゴー様の御手がすくい上げるように受け止めました。
手の甲から指を絡める形で、ミゴー様とユージン様の御手が重なります。ミゴー様が繋いだ手をそっと持ち上げ、自らの頬に優しく押し当てます。
「……ユージンさん」
掌に頬を擦り寄せながら、ミゴー様は愛おしそうに、でもどこか苦しげな表情で、その御名を口にされるのでした。
ユージン様の口から、感極まったような吐息がこぼれ落ちました。硬く閉じていた膝がわずかに緩みだします。ミゴー様を制止せんと後ろに回していた腕は、もはや当初の目的とは裏腹に、力なくミゴー様の胸に寄りかかっていました。
開いた膝の間から、スラックスの股の部分が覗いています。そこに目を落とした瞬間、ぼくの心臓はどきりと高鳴りました。ユージン様の肉体の一部が、前開きの部分を内側から突き破らんばかりに押し上げているのです。
ぼくはきっと今、見てはいけないものを見てしまっている。思わず逸らした視線の先で、同じく顔を背けたレイと目が合いました。
「……っ、レイ……」
「……」
「ぼく……ぼくは、……その」
「……イチカ」
うっすら頬を染めたレイが、ソファの上のぼくに向かって、ほんの僅かに距離を縮めてきました。心臓の高鳴りはますます激しさを増してゆきます。おそらくぼくは、今すぐにレイの手を取るべきです。そして天使様がたに教えてもらった、親愛のためではないキスを始めるべきなのです。だってそれが神様の思し召しなのですから。だけどぼくの手は、体は、凍りついたままどうしても微動だにできません。自分の罪深さがお腹の下でぐるぐると渦巻いて、どうしようもなく汚いものを溜め込み始めているような気がします。
「っ、あ!」
今一度、ユージン様が甲高い悲鳴を上げました。ぼくは逃げるようにそちらに顔を向けました。さっき僕が見てしまった肉体の一部、その突端を隠すように、ミゴー様の掌が覆い被さっています。
「あれぇ、ユージンさん? どうしたんですか、これ」
「っ、触、んな、見んなっ、生理現象だっ」
「あはは、生理現象ならしょうがないですよね。……俺も、ほら」
「……ッ!!」
ユージン様のお体に隠れて、ミゴー様の状態はぼくらにはわかりません。けれど動作からするとミゴー様は腰を僅かに突き出して、ユージン様の臀部にその部分を密着させたように見えました。ユージン様の全身がびくびくと、波打つように震えています。天を仰ぐユージン様の耳元に、ミゴー様の唇がかすめるように耳打ちします。
「ね。わかるでしょ、ユージンさんも」
「馬鹿、野郎……ッ、当てんな、そんなもんっ……!」
「そんなもん、は酷いなあ。一度は受け入れてもらったモノですよ? ユージンさんの……ここに」
「~~~~ッ!!」
ユージン様の目が大きく見開かれました。断続的に吐かれる息に抑えようのない熱が混じっていることは、隣のベッドの僕たちにすらわかります。黒いスーツの肩口に肩にミゴー様のお顔が伏せられると、ユージン様の唇から泣き声にも似た声が零れました。
「……ふ、ぁ……みご、ぉ……っ」
「……ッ」
ミゴー様の動きが、一瞬静止しました。ミゴー様に取りすがっていたユージン様の御手が、地に向かって力なく滑り落ちていきます。けれどシーツに触れる直前で、ミゴー様の御手がすくい上げるように受け止めました。
手の甲から指を絡める形で、ミゴー様とユージン様の御手が重なります。ミゴー様が繋いだ手をそっと持ち上げ、自らの頬に優しく押し当てます。
「……ユージンさん」
掌に頬を擦り寄せながら、ミゴー様は愛おしそうに、でもどこか苦しげな表情で、その御名を口にされるのでした。
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